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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第8話:愛の特訓 1日目




「ひいいいいいい!!」


「オラ! さっさと殺れ! 日が暮れんぞ!!」


「こ……こんな大きいバッタ無理ですぅ!!」



 先輩のスパルタ特訓1日目は、平原での大バッタ討伐。

 一抱えもあるほどのデカいバッタを狩って狩って狩りまくるクエストだ。

 こいつらは放っておくと大繁殖して蝗害をもたらす恐れがあるらしく、春から秋にかけて毎日人数無制限の討伐クエストが募集されている。


 報酬は一匹当たり銅貨1枚。

 死ぬほど安いが、こちらが死ぬことはまずあるまい。

 なにせ俺の氷手裏剣一発で即死するような弱さで、双剣を使うまでもない。

 反撃など皆無に等しく、時折ぴょんと飛んで体当たりをしてくる程度。

 食らったら結構痛いが、命の危険を感じる威力ではないな……。



「ひい! ひい! ひいいいいい!!」



 先輩に脅さ……いや、促され、草を夢中で食む大バッタをガスガスと叩く愛ちゃん。

 ダガーナイフで叩かれながらも、全く堪えない様子で草を食い続ける大バッタ。

 「違ぇ!! もっと腰に力込めろ!」と、先輩が叫ぶと、愛ちゃんは必至でそのリクエストに応え、腰を入れてナイフを振り抜く。

 ザシュ!とその羽根を切り落としたが、バッタ本体は驚いて逃げて行ってしまった。

 羽落とされるまで逃げない虫ってどうなのよ……。



「だぁ―――!! 惜しいじゃねーか! オラ! そこの奴でもう一回だ!」


「ひぃ! ひぃ!!」



 まあ、このサイズの虫初めて見たら、そりゃビビると思うが……。

 ちょっと怖がり過ぎだ。



「ほら愛ちゃん、こんな感じでっ!!」



 俺はお手本とばかりに双剣の片方を引き抜き、彼女がポコポコ叩いていた個体をバッサリと両断した。



「ひゃあ!! ゆ……雄一先輩すごい……」


「ほら、こう! こう!!」


「キャー――!! 先輩凄い! かっこいいです―――!!」


「さらにこう!!」



 愛ちゃんの歓声に乗せられるまま、辺りのバッタを流し切りに切り伏せまくっていたが、10匹目でシャウト先輩に止められた。



「お前が狩り尽くしてどうすんだよ……」


「す……すみません……つい」


「おい、アイ!! こいつの真似してやってみろ!」


「は……はい!! せやぁ!!」



 お! お見事!

 柔らかい背中にザックリと入ったナイフは、大バッタの身を深く切り裂き、見事に絶命させた。

 愛ちゃんはその感触に「いいいいいいい……!!」と嫌悪感を示していたが、何はともあれ一匹は一匹だ。

 眉毛をハの字に曲げながらも、少し安堵したような、誇らしげな表情でこちらを見てくる愛ちゃん。

 俺がサムズアップして見せると、ようやくニッコリと笑い、小さくガッツポーズをしてきた。


 シャウト先輩も「おーおー、やればできるじゃねぇか」と少し嬉しそうだ。

 しかしここから哺乳類、魔物と一気にステップアップさせるのが先輩の狙い。

 虫程度の斬り応えで一々慄いていては始まらない。



「よっしゃ! その調子でまず100匹狩れ!」


「は……はいいいいいい!!」



 愛ちゃんはナイフを再び握りしめ、地を這うバッタたちに斬りかかっていった。




////////////////




「ひぃ……ひぃ……疲れまひた……」


「はっはっは! お前なかなかやるじゃねぇか!!」



 平原に日が暮れ、辺りが闇に包まれた頃、愛ちゃんの最初のクエストは完了した。

 疲れ果てた愛ちゃんを、ミコトが膝枕で介抱している。

 コトワリさんが体得している疲労回復の魔法を照射すると、愛ちゃんは幾分か楽そうな顔になった。


 既に帰り道は暗い闇の中。

 都の門は閉ざされているため、今日は野宿だ。

 早速キャンプ道具一式を召喚し、野営地を設営する。


 大きめのテント3つをタープで結合すれば、屋根のあるキャンプファイヤーの出来上がりだ。

 自分の頭上で瞬く間に組み立てられていくテントに、愛ちゃんが目を丸くしている。

 そういえば、俺の転生特典教えてなかったな。



「凄い……ここだけ故郷みたい……」



 テントの材質を指で確かめながら、目頭に溜まった涙を拭う愛ちゃん。

 分かるよ……。

 俺も最初の年は家にテント召喚して中でしんみりしたもんな。


 簡単な食事を済ませると、愛ちゃんは疲れからかスゥスゥと寝息を立て始めた。

 コトワリさんが彼女をテントまで運んでいき、「それでは今夜は失礼する。すまないな……。私だけで彼女の力になれなくて……」と、チャックを閉め、中の明かりを消した。


 あの無神経天使さん……。

 ああ見えて結構気にしてたんだなぁ。

 少しの間でまた次の転生者の元へ向かうと言っていたが、その間に愛ちゃんのことを任せられるくらいの配慮は身につけてもらいたいところだ……。



「はぁ……。お前らも随分アタシに無用な負担強いてきやがるじゃねぇか」



 彼女達のテントが寝静まったのを確認すると、先輩は大きく息をつき、ゴロンと平原に寝そべった。

 す……すみません……。



「まあ、可愛い舎弟の頼みとありゃ、このくらいは大したことねぇがよ」



 そう言いながらカラカラ笑う先輩。

 いやはや……ありがとうございます。



「いちいち理由は聞かねえけど、あいつはあくまでもお前らの舎弟だからな。ちゃんと面倒見て、守る時は守ってやんだぜ? まああのボケ天使がついてるなら、ある程度は安心だろうがな」


「コトワリさんやっぱり強かったっスか?」


「いやぁ、戦力としちゃせいぜい雄一とミコト合わせたくらいのもんじゃねぇの?」


「えぇ! あの人そんなに強いんですか!?」


「お前らが一瞬で失神した電撃の数倍強力なヤツを何発もぶち込んだのにすぐ復活してくるフィジカルだぜ? 体術も巧ぇし、上級魔法もスラスラ使ってやがる。比べる方が酷ってもんだ」



 う……ちょっと悔しいかも……。



「まあ、実戦経験がサッパリ足りてねぇがな! アタシにかかりゃ一捻りだったろ? お前らが本気で鍛えれば、目指せないレベルでもねぇ」


「本当ですか!」


「ああ、つか、今後はアレくらいの強さになってくれねぇと困るぜ? アタシを支えるだの、守るだの豪語してくれた以上はな」


「へ……へい親分」



 「誰が親分だっての」と、笑っていた先輩だが、ふと、何かに気が付いたように「そうだそうだ……」と起き上がった。

 先輩は焚火にくべようと並べてあった木の棒を2本拾い上げ、俺目がけて投げてくる。

 それを顔面スレスレでキャッチし、困惑している俺に



「一つ手合わせしてみっか! こんな早くから寝れねぇだろ?」



 と、楽しそうに笑って見せた。

 短い木の棒を手に持ち、タープの外へバックステップしていく先輩。

 双剣と短剣の模擬戦しろってかい!

 まあでも……。

 愛ちゃんを失望させないためにも、先輩を支えられるようになるためにも、ちゃんと鍛錬していかないとな……!



「雄一さん! ファイトっス!」



 というミコトの声援を背に受け、俺は二本の棒を構えて先輩の元へと走った。


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