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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第3話:襲い来る運命




「ねえユウイチさん。今日の夕飯は外食でしてよ?」


「は?」


「外食だっつってんだろ!」


「痛ってぇ!?」



 薄暗い家に戻ると、金髪縦ロールの目つきの悪い眼鏡お嬢様がいた。

 いやまぁ……シャウト先輩なんだけど。

 どういう風の吹き回しで?



「どうも配管の不具合で、今日はガスが出ないらしいんスよ。なので今日はお風呂も夕飯もお外っスね」



 ミコトが蝋燭片手に、台所の闇の中からヌッと現れる。

 マジか……。

 ガス黎明期みたいなこの時代の配管不具合って普通に怖いな。


 いや、それはいい。

 良くないけどいい。

 何でシャウト先輩がこんな格好してんの?



「そこは分かれや! 変装だ変装! ったく住みにくいったらありゃしねぇ……」


「なんかお忍び任務みたいでワクワクするっスねぇ! あ、私も実は眼鏡の形変えてるんスよ? 雄一さんも軽く変装してみるっス!」


「え? ああ、そうだな。俺達のせいでバレたら意味ないしな」



 俺はミコトから差し出されたヘアゴムで、ちょっと伸びてきた後ろ髪を結わえる。

 目を少し細めて見せると、ミコトが「わー! 雄一さん凄腕クール冒険者みたいっス!」と、褒めそやしてきた。

 普段の丸くてデカいビン底眼鏡とは打って変わって、横長の四角い眼鏡に換装したミコトは、デキるOLのような雰囲気だ。

 いいね……!



「あーはいはい。そういうのは飯食ってからにしてくれ。さっさと行くぞ。腹減って仕方ねぇ……違うな……。早く行きますよユウイチさん? お腹が減りましたの」



 そう言いながら部屋を出る縦ロール眼鏡先輩。

 俺も笑いを堪えつつ、それっぽいキャラを構想しながらそれに続いた。




////////////////




 夜の都は、それはそれは華やかだ。

 デイスの街は交易街や屋台街を除き、多くの店は夕暮れと同時に店を閉める。

 しかしこの街は日がとっぷりと暮れて尚、多くの人通りがあり、方々の店から明かりや笑い声が溢れていた。


 俺達はアレでもない、コレでもないと飯のことで揉めに揉めた末、結局普通の定食屋に赴いた。

 デイスの頃は各々屋台やギルドの食堂で好きな料理を持ち寄って食っていたので気付かなかったが、俺達は割と食へのこだわりが強いらしい。



「あ―――と……アタシは……じゃねぇ……ワタシはこちらの海鮮炒め盛りをいただこうかしら」


「フッ……拙者はこの焼き魚定食にするでござる」


「フフッ……あたしはー! エビと野菜の温麺にするっス……って感じぃ!」



 だ……ダメだ……笑うよコレ!

 ていうかミコトは何でそんな無茶苦茶なキャラにした!?

 ギャル語とか俺が小学生の時にはもう死語だったぞ!

 あとシャウト先輩顔赤らめながら俺の足踏むのやめてください……。


 あまりにもキャラ付けに無理がありすぎて、必然的に俺達の会話は減る、というかなくなる。

 周りで冒険者達や住民達の楽しそうな会話が弾む中、俺達のテーブルはお通夜状態だ。

 先輩は「この調子で下手すりゃ数年……この調子で……」などと光を失った瞳でブツブツ呟き始めた。


 き……気の毒過ぎる……。

 何とかしてあげなければと思うが、俺にはおよそ打開策が見当たらない。

 隣のミコトは彼女なりに必死で先輩をフォローしようと、聞くに堪えないハイテンションで絡みだす。


 いよいよ席の雰囲気がお通夜から地獄の底まで落ちかけた時。

 猫耳のウェイトレスさんが俺達の料理を運んできた。



「こちら、焼き魚定食ですにゃ」


「あ、それ拙者でござる」


「この野菜とエビの温麺は……」


「うい! それあたしっス! チョーよろしく~ ……っス……」



 脂汗を滲ませながら酷い作り笑いをする俺達に、ウェイトレスさんは顔色一つ変えず、料理を並べてくれる。

 居心地いい店だけになおさら辛い!



「ではこの海鮮炒め盛りは……雷刃、シャウト様のご注文ですにゃ?」


「はぁ!?」

「へぇ!?」

「っス!?」



 俺達は同時に素っ頓狂な声を上げた。

 うお!?

 やべぇ!

 周りに気付かれる!?


 凍り付く俺達に、ウェイトレスさんは「ぷふっ!」と小さく噴き出した。

 同時に、周りの席の人たちもこちらを見て楽しそうに笑いだした。

 あれ……?

 何この感じ?



「心配しなくても、騒ぎになんてなりませんにゃ! それに、入店してきた時からシャウト様だなんてバレバレですにゃん!」



 猫耳ウェイトレスさんがニッコリと笑う。

 「んだよもー! 何なんだよこの街はよぉ!」と、先輩が赤面しながら髪をワサワサとかき分け、いつものポニーテールに戻した。

 俺もそれに合わせてヘアゴムを解く。



「大騒ぎになるのは正午からお茶の時間の間くらいですにゃ。その時間帯はとにかく目についた優秀な冒険者を皆で褒め称えるって暗黙の了解があるんですにゃ」


「へぇ~! そんな文化があるんスか!」



 未だクソ演技のダメージ冷めやらない俺と先輩を差し置いて、早くも持ち直したミコトが、興味津々で食いつく。



「この街は大陸中の冒険者の憧れですにゃ。だから、この街で冒険者してて良かったって思えるように、皆が普段から心がけてるにゃん。あ、あと構われたくない時は左手上げてくれたら騒ぎにはなりませんにゃ」


「らしいっスよ先輩! もう安心っスね!」


「ああ……でもしばらく静かにさせてくれ……クソ恥っずい……」



 その後は、周りの席の人たちとの会話も弾み、割といい時間を過ごすことが出来た。

 「いや~……噂に聞く粗暴ピュア姉御肌は流石だなぁ~。どうだい今夜は……?」などと先輩に絡んできたチャラい冒険者が黒焦げにされた以外は、特に大きな騒ぎも起きぬまま、俺達は店を後にした。




////////////////




 暑い……。

 そりゃそうだ。

 サウナの中だもん。


 帰りに立ち寄った浴場は、温泉だけでなく、サウナが備えられていた。

 こう見えてもと居た世界では釣り帰りのスーパー銭湯で必ずサウナに30分以上入っていた男。

 俺はさっそく飛び込み、10分余りこうして汗を流していた。


 しかしこの都、海も近いし、飯屋もいっぱいで雰囲気もいい。

 家の近所の浴場にはサウナまである

 不安だらけだったけど、この街なら楽しくやっていけそうな気がするなぁ。

 そんなことを考えながら、釣りの疲れを癒すべく体を軽くストレッチしていると、サウナの入口のドアが開き、一人の入浴客が入ってきた。


 おっと、一人で広々と占有するわけにはいかない。

 俺はサウナの隅の方へと移動した。


 すると、その人影は俺の真横にピタリと座り、こちらをジッと見つめてくる。

 えっ。何。怖い。


 上の段に移動すると、隣の人も一緒になって移動してくる。

 下がっても同じだ。

 いや何!?

 マジで怖いんだけど!?


 出ようとすると、相手もスッと立ち上がり、俺の進路をふさいでくる。

 当然だが、こういった施設ではテレポート無効の結界が貼られている。

 に……逃げることなど不可能な状態……!!



「ねえ」


「はいいい!?」



 突然話しかけられ、俺は情けない声を上げてしまう。

 若い男の声だ……。



「お兄さんさぁ……転生者?」



 ガツン! と脳天を殴られたようなショックが俺を見舞った。

 物理的ではなく、心理的にである。

 心臓がドッ!と跳ねたのが分かった。



「転生……者……?」



 だが、俺の口はとっさに素晴らしい滑らかさで返事を紡ぎ出した。

 もしかすると、“時に神さえ欺く”という、トリックスタースキルが発動したのかもしれない。

 俺のそっけない返答に、逆に面食らったようで、相手は「えっ……」と小さく呟いた後、押し黙ってしまった。



「転生者っていうのは……?」



 驚くほど冷静に、次の言葉を紡ぐ俺の口。

 心臓は相変わらずバックバクだが、体はそれを完全に欺いて見せている。



「あ、いえ。 なんでもないんです。 勘違いです……」



 そう言うと、彼はスッとサウナから出て行った。

 暗くてよく見えなかったが……背丈は俺より一回り小さかったな。

 彼もまた、日本からの転生者だろうか……?

 ただ少なくとも、あの声……決して友好的なトーンではなかった。

 それに……。


 俺はけたたましく鳴り響いていた心臓の鼓動と、激しくピークを上げる感知スキルが収まるのを待ち、サウナを出た。

 この長期任務……。

 ただクエストをこなすだけでは済みそうにないな……。


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