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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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プロローグ:門出




「ユーチ兄ちゃん! 行っちゃ嫌だよ! ずっとデイスにいてよ!」



 俺のズボンを掴み、ユーリくんが泣きじゃくる。

 打ち明けた時は、平気な風だったのだが、いざ出発の日となるとこの有様だ。

 彼なりに色々と押し殺してたんだな……。



「先輩……もっと釣りやクエストを教わりたかったです……」



 ラルスも悲しそうな顔で、俺があげた釣り竿を握りしめていた。

 タイドが彼の肩をポンポンと叩き、「先輩。俺達も先輩の背中追いかけます!」と笑って見せた。



「絶対すぐ特務戦力に加わってみせますから! それまでにやられないよう気を付けてくださいね! 先輩頼りないから!」



 いつになくキツい口調で言うレフィーナだが、だいぶ目が腫れぼったい。

 俺とも何かと縁があるし、シャウト先輩を随分慕ってたからなぁ……。

 「君こそ調子に乗ってタコのエサにされるなよ?」とデコピンをしてやると、顔を真っ赤にして「それはもう忘れてくださいー!」とキーキー騒ぎ出した。

 この懲りない強さがあれば、彼女も大丈夫だろう。



「なーに湿っぽい雰囲気になってんだ! 別に戻って来れない訳じゃねぇだろ! ちゃっちゃと事態収めりゃいいんだよ」



 怖いベテランとして有名なシャウト先輩の元に駆け寄ってくる者はいないようだ。

 先輩は二つ名持ちの招集でよく都に行っているので、特に気負いはしていない。

 流石に、特務戦力としてギルド一時移籍というのは初めてらしいが……。

 意外と感動屋の先輩のことだ、ああ見えて内心、結構ジーンときていると見た。

 実際それをホッツ先輩におちょくられ、幾度か顔を背けて手で拭う仕草をしている。



「それじゃ、ウチのこと頼むわ」


「おう。確かに。まあ、好きに使わせてもらうぜ」



 エドワーズにウチの鍵を渡し、あれやこれやの引継ぎをする。

 激臭に支配された開かずの間やタコ助、生簀やキングウズラ達のことだ。

 まあ、天界からの贈り物だけあって、よっぽど無茶苦茶をしない限りは問題あるまい。

 発酵蔵は、カトラスで知り合ったクルーラコーンのお姉さんを雇って面倒を見てくれるらしい。

 有難い限りだ。



「ミコトちゃん。気を付けてくださいね! 時々は帰って来てください!」


「絶対遊びに行くから。また一緒にご飯行ったり服見に行ったりしよ!」


「うええええん! 先輩~! 寂しいです~!」


「コモモちゃん! サラナちゃん! ビビちゃん! 絶対お手紙書くっス! 身の周りが片付いたら遊びに来てほしいっス!」



 ミコトもヘニャヘニャの泣きべそをかきつつ、コモモ、サラナ、そしてビビと抱き合っていた。


 しかし、何かと連帯感のあるデイスギルドだけあって、見送りがやたら手厚い。

 ギルドの食堂のおっちゃんや、屋台街のおばちゃん、あとは……いつかファンクラブとか名乗って追い回してくれた街の淑女方……。

 生憎、門番のジールさんは来られなかったらしい。

 見慣れた顔がこうずらりと並ぶと……。

 やっぱり俺も来るものがあるな……。



「おい。そろそろ行くぜ。あの船頭は時間にうるせぇんだ」



 いよいよこの雰囲気に耐えかねたのか、先輩が飛行甲板への階段を一足先に登っていく。

 俺もまた、その後に続いて階段を上り始めた。

 少し高い場所からギルドを見回し、一つ気の利いた言葉でも言おうかと息を小さく吸い込んだ時、上から「どわ―――!!」というシャウト先輩の悲鳴と、微妙に懐かしい、馬鹿でかい叫び声が降ってきた。



「待った待った待った―――!! エド! 間に合ったか!?」



 俺の頭上を、赤髪のシルエットが舞う。

 ま……マービー!

 彼女は階段を一気に飛び降り、クルクルと美しい空中回転を披露してエドワーズの横に勢いよく着地した。



「良かった~! 間に合わないかと思ってたぜ~!」



 途端に、エドワーズが膝をついて大きなため息を吐いた。

 何!?

 どういうこと!?



「ユウイチ! 受け取りな!」



 そう叫ぶと、マービーがそれを俺目がけて投げつけてきた!

 危ねぇ!!

 俺はそれを何とか胸で受け止める。

 うおぉぉ……重い……!

しかもなんか固いものが胸にめり込んで……!


 激痛に顔をしかめつつ、彼が投げてきたものの包みを開くと……。

 !!

 コイツは……!



「プレゼントだぜ!」



 エドワーズがサムズアップして笑う。

 俺の手の内にあるのは、Y×E×Sというロゴが入った双剣と、M×E×Sのロゴが入った大剣と盾のセットだ。

 刀身には、大陸西方最高峰の鋼鉄を意味するインフィートの名が刻まれている。

 インフィート製の……剣と盾……。



「お前らとオレ達パーティーと、サステナの絆を刻んだこの世に一つだけの剣と防具だ。お前らの英雄譚の足しにしてくれよな!」


「エドワーズお前……」


「おっと! 湿っぽいのは無しだ! ぐすっ……心配しなくても、オレ達だってすぐ成り上がってお前らの元に……んぐっ!?」



 俺は思わずテレポートでエドワーズの元に飛び、彼を抱きしめていた。

 時々鬱陶しいこともあったが、コイツが居なかったら、俺はこの街の冒険者として頑張ってこれなかっただろう。

 コイツは……いつだって最高の親友で、ライバルだった。



「ありがとう」


「ああ。頑張って来い」



 お互い、何か熱いものが頬を流れるのが分かる。

 ただ、何故かそれを相手に見せたくはなかった。

 涙が引いたのをきっかけに、俺達は抱擁を解き、握手を交わした。



「さて……それじゃあ! デイスギルドのみんな! ちょっと行ってくる!」



 俺は階段を駆け上がり、先輩とミコトの元へ戻った。

 ミコトは号泣していたし、先輩は後ろを向いて肩を震わせている。



「それでは皆さん! 我らが雷刃:シャウト、重撃天使:ミコト、そしてフィッシャーマスター:ユウイチの門出を祝しまして!!」



 受付お姉さんの声に合わせて、皆が冒険者カードを宙にかざす。

 俺達もそれに向かい合うようにカードをかざし、一斉に叫んだ。



「また会おう!!」




////////////////




「おい! ユウイチ! 起きろ!! 何まだ泣いてんだオメェは!!」


「はっ! 夢!? ここはどこ!?」


「オメーが何の夢見てたかなんか知らねぇよ! オラ! 下見てみろ!」



 ほんの3日前の思い出を夢の中でフル再生し、感動もリピートしていた俺は、飛行クジラの客室で目覚めた。

 都までは、飛行クジラをもってしても丸々3日かかる。

 途中で補給のためにいくつかの中継都市を経由し、飛行クジラは大陸の都「アルフォンシーノ」の上空へと到達した。



「うわあああ!! 凄いっス! 超大都市っスよ!!」



 一足先に窓へ噛り付いたミコトが歓声を上げた。

 俺もそれに続き、窓の外を眺める。

 うおお! すげぇ!

 デイスとは比較にならない……。

 大陸西方の全都市を合わせても足りないような城壁都市が遥か眼下に広がっている。


 この国の起こりから、帝政と民主政治が融和しつつある現在に至るまでの歴史を育んできた都市だ。

 古代風の建物から、えらく近代的に見える建物まで、無数の文化文明が花開いている。


 それだけではない。

 ミガルーの飛ぶ高高度からは、都市の傍を流れる大河が、人々の暮らしを支える湖が、そして、交易を支える巨大な湾が輝いていた。



「よっしゃー!! 待ってろ大陸中央の魚たち―――!!」



 温かい思い出に背中を押されるように、俺は眼下の都市へ叫んだ。


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