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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
1章:ダンジョン・アングラー 大陸西方迷宮変
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エピローグ:成さねばならぬ時




 多発するラビリンス・ダンジョンの発生。

 ラビリンス・ダンジョンを用いた天界への不正アクセス。

 事件を手引きする悪魔と……多分転生者……。

 そして……。

 これが法王サマが言ってた、俺が「何かを成さねばならない時」なのか……?


 昨日シャウト先輩が持って来た話を頭の中で反芻しながら、俺はデイスの用水路へ釣り糸を垂れている。

 竿が曲がれば、小ぶりなボニートゴイが上がってきた。

 俺はそれをラバーネットでランディングし、プライヤーで針を外して速やかにリリースする。


 気分が晴れない時は、こういうヌルい小物釣りに限る。

 魚からすればいい迷惑だろうが……。

 まあ、極力労わってリリースするし、撒き餌を思う存分食わせてやってるので、多めに見てくれコイくん達。

 当分会うこともないだろうしね……。



「よぉ! 釣れてるか?」


「うおっ!?」



 突然後ろから声をかけられ、俺はビクッとしてしまった。

 ホッツ先輩だ。



「うし! 隣失礼するぜ」



 そう言って、先輩は太い木製の釣り竿をヒョイと取り出し、用水路へ仕掛けを投げ込んだ。

 竿から針から仕掛けから餌から、ここの魚たちにはちょっとオーバーすぎる……。

 実際、小ボニートゴイ達はその針に刺さることなく、乱暴にぶっ刺されたコーンの輪切りをモソモソと食っていた。



「すみません先輩。先輩にもらった双剣、壊れちゃいました」


「ん? 何を謝ることがあるんだ?」


「いえ……。アレかなり良いモノだったじゃないですか。1年と経たずに駄目にしちゃって……」



 レッサーダゴンとの戦いの最中、先輩に買ってもらったあの双剣は、敵の水流攻撃で錆び溶かされてしまった。

 なんだか、ホッツ先輩に悪いことをした気分……。



「バーカ野郎お前! 道具は家宝じゃねえんだぞ! 使って使って、使い潰してなんぼだろ!」


「まあ……そうですが……」


「それにな、道具が壊れるってのは、お前の成長に道具が追い付かなくなった時、つまりはお前が俺の見立てを超えていったってこった! 結構なことじゃねえか! ガッハッハ!」



 そう言って豪快に笑う先輩。

 なるほど……。

 そういう考え方もあるのか……。

 その見立てであわや死にかけたわけだが、妙な説得力がある。



「ところでだ」



 突然、先輩が笑うのをやめ、真顔になった。



「お前、都に呼ばれたらしいじゃねぇか」


「……はい」



 そうなのだ。

 ここ最近の功績(?)を見込まれ、俺は都のギルド総本部に特務戦力として招集をかけられてしまったのである。

 シャウト先輩のパーティーとしてだが、俺の「釣り」の腕も見込まれてのことらしい。

 まあ、一応魚関係だもんね、この一連の事件。

 後多分、法王サマも一枚噛んでるなこりゃ……。



「そのくせ随分浮かねぇ顔してるな。辺境のギルドの駆け出し冒険者が一気に都に上るなんてそうそうある話じゃねぇ。レフィーナやエドが悔しがってたぜ」


「そりゃそうですよ……。俺はこの辺境でのんびり釣りして平和に暮らしてたかったです。家もあるのに……」


「まあ、永遠に戻って来れない訳じゃねえ。このダンジョン騒動が解決すれば、また帰ってこれるさ。家だってエドワーズ達に預けるんだろ?」


「ええ。アイツらならしっかり守ってくれるでしょうしね。 でもこの騒動……いつ収束するんだろうなぁ……」



 そう言いながら、俺はもう何匹目かも分からないボニートゴイを釣り上げ、リリースした。



「ガッハッハ! そりゃ神のみぞ知る話だ! だけどな、俺はお前がこの事件を解決するんじゃねえかって思ってるぜ。バーナクルの釣り好き勇者の昔話みてぇにな……」



 そんな夢物語を語りつつ、笑う先輩の竿が突然大きくひん曲がった。

 うそっ!?

 あの仕掛けでここの魚釣れんの!?


 先輩は手慣れた様子で魚を寄せ、銛のようなギャフで魚を取り込んだ。

 俺が釣っていたチビゴイの数倍デカい魚体だ!



「お前は器用で頭が回るが、小さく収まろうとする気がある。ここは一ついい機会と考えて、ドンとバカデカい目標の元に突っ走って来いよ! 人生は一度っきりだし、想像以上に短けーぞ!」



 先輩の釣った魚が俺目がけて放り投げられる。

 うわ!!

 俺はそのデップリと重量感のある大ゴイを何とかキャッチした。



「そりゃ俺からの出征祝いだ! デカいコイになってここに戻って来な!」



 ガハハハハ! と、お馴染みの笑い声を響かせながら歩き去って行く先輩。

 ……頑張ってみようかな。


 俺は大鯉を活〆してクーラーボックスに放り込むと、デイスの城壁を背にして家路についた。

 何となく、歩いて帰りたい気分だった。


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