第22話:急襲! ゲートスライムと謎の男
夢魔と淫魔の渦巻くラビリンス。
一体どんなエロトラップが襲い掛かってくるのか……!
と、ワクワク……いや、ヒヤヒヤしながらダンジョンへ突入した俺達だったが、生憎……いやいや、内部は至って普通の遺跡型ダンジョンであった。
エロはおろか、生物っ気も全くない……。
「あれだけ大騒ぎ起こしてるのに、随分大人しいダンジョンですね。悪魔王とか悪魔神とか出てくるかと思ってたんですが」
「夢魔種や淫魔種を強力な悪魔が操ってることはまず無いよ。上級悪魔族はプライドが高いから、下等種を使役するのは大嫌いなの」
「そうなんスよ! 悪魔っていうのは本っ当にプライドばっかり高くていけ好かないっス!」
安堵からか、つい口数も増えるというもの。
まあ実のところ俺も、場に出た瞬間悪魔族以外墓地送りみたいなヤバいヤツが出て来なくて、正直ホッとしてる。
俺達は周囲に敵がいないことを確認した後、やや開けた小部屋にベースキャンプを構え、攻略の準備を始めた。
まあ、木も石も無いので、テントと俺のキャンプグッズを並べただけだ。
こういう時、アウトドア用品召喚も貰っておいて良かったって思える。
「サラナは結構ダンジョン巡りしてるみたいだけど、こういうラビリンス・ダンジョンって結構有るの?」
「うーん……。こんな雰囲気のは珍しくないけど、これだけ生き物がいないのは珍しいかも。普通は内部である程度の生態系が作られてるんだけど……」
俺がバーナーで湯を沸かしながら振った問いかけに、サラナがフラスコを揺らしながら応えた。
ダンジョン・キーパーをサーチするスライムを作っているらしい。
シャウト先輩が持つ魔方針の生物版みたいなものだ。
サラナが見たことも無い謎の薬剤をいくつか調合し終えると、フラスコの中のスライムが元気よく動きだした。
「よし! 行っておいで!」と、彼女が地面にそれを垂らす。
石畳に滴ったスライムはウネウネと動いた後、やがてシンと静まった……。
「あれ……?」
「おーい……動け―」と、スライムをツンツンとつつくサラナ。
しかし、スライムくんはその場でウニョウニョと立ちすくむだけで動こうとしない。
「これは……どういうことなんだ?」
「うーん……。キーパーが凄い隠密スキル持ちか……もしくは……」
「上です!!」
突然、凄い力で突き飛ばされ、俺はサラナを押し倒すような形で倒れ込む……わけにもいかず、とっさに彼女を抱きかかえて身を捻り、自分の体を下敷きにして倒れた。
同時に感知スキルが片頭痛を招くような勢いで鳴り出す。
頭を打った衝撃に光点が煌めく視界の先で、剣を抜いたレフィーナが黒いローブを纏った何者かの剣を受け止めていた。
だ……誰だ……!?
「へえ……結構やるじゃん。君が転生者かい?」
ローブの中から若い男の声がする。
口ぶりからして転生者か、もしくはそれを知る者かのどっちかだ……!
俺が対処しないといけないのだろうが……くそっ!
体が痺れて……!
「はぁ!? 転生者ってなによ!」
「おっと! 君じゃないのか……んじゃいいや」
レフィーナが繰り出した剣撃をひらりと躱すと、男は指をスッと突き出した。
「うっ!!」
突然ガクリと膝を折り、苦しみ始めるレフィーナ。
その様子を「ん~?」と、不思議そうな様子で眺めるローブの男。
あの野郎! レフィーナに何を!?
俺は痺れが消え始めた右手をなんとか動かし、その男目がけて氷手裏剣を繰り出そうとした。
だがその魔法が放たれる直前、ローブの男の胸から、剣が生えた。
「レフィーナちゃんに何したっスか!? 今すぐやめるっス!!」
男がレフィーナに意識を取られている隙を突き、背後にテレポートしたミコトのステッキソードが、彼の胸を深々と貫いたのだ。
その傷口から血が流れることはなく、ゆらゆらと形状が揺らいでいる。
こいつ……実体じゃない……!?
「ははは……もう一人いたとは気づかなかったな……」
男は余裕の笑いを浮かべながら、ミコトの方へ首をゆっくりと巡らせる。
その額に、スコーン!と俺の氷手裏剣が突き刺さった。
「ぐあああああ!!」
突然悲鳴のような声を上げてはじけ飛ぶ黒ローブ男。
傷口からバチバチと火花を散らし、荒い息をして立ち上がる姿に、それまでの余裕は感じられない。
何だよコイツ!?
落差がデカすぎだろ!!
「くっ……! 今回はこの辺にしておいてやる……! だが忘れるな! 俺達の計画の邪魔はさせねぇからな!」
額を押さえながら男がそう言うと、何やらウネウネした物体が天井から壁へと這ってきて、丸い穴を形成した。
その中に男は消え、ウネウネした物体は壁に沁み込むように姿を消した。
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「レフィーナちゃん! 大丈夫っスか!?」
「はぁ……はぁ……大丈夫です……。ちょっと……胸が苦しくなっただけで……」
「何なのアイツ!? いきなり出てきて反撃されたら逃走とかダサ過ぎない!?」
「なんだろうな本当に……」
男が去ってもダンジョンは消えなかった。
となるとダンジョン・キーパーは別にいるってわけだ。
サラナのスライムくんが元気に動き出し、ダンジョンの奥へ向かおうとしているあたり、あのウネウネがダンジョン・キーパーか……。
スライム的な何かだろうか?
「アレは多分、ゲートスライムよ」
サラナが付箋だらけの魔物図鑑を捲りながら言う。
「ゲートスライム?」
「そう。ほらこれ。スライムの異常変異種で、異なる場所同士を繋げる習性があるの。簡易ラビリンス・ダンジョンみたいなものね」
「なるほど……あのスライムが淫魔たちの住むどこかとこのダンジョンを繋げてたんスね」
「多くはダンジョンに自分や同族が生息しやすい環境を作るためにその力を使うようだけど、アレは明らかに人に使役されてたわよねぇ。夢魔を呼び出したのも何かの作戦があってのことかしら?」
謎は深まるが、頭で考えていても仕方がない。
俺達は一刻も早くダンジョンを攻略すべく、準備を整え、サラナのスライムくんを追ってダンジョンの奥へと足を進めた。