第21話:突入! 夢魔のダンジョン
日が暮れ始める。
逢魔が時の空に、黒く小さな粒がチラホラと舞う。
「いるっス……いるっスよぉ……薄汚ない魔族たちがぁ……」
「キシャ―」と牙をむき、純然たる敵意を露にするミコト。
悪魔族特有の角や尻尾、コウモリのような羽根に、彼女の天使としての本能が刺激されているらしい。
飛行スキルの翼が妙に眩しく、頭上には感情の昂りからか、薄っすらと天使の輪が出現している。
俺達は今、デイスの街の上空から街を一望し、夢魔達の出てくる場所を探っているのだ。
目視出来ない夢魔や淫魔を難なく見通せる上に、夜目が効くミコトの体質をもってすれば、夢魔達の動き出す時間帯から動き出しても十分余裕で発見できる……。
と、思っていたのだが……。
「なんか……キシャァ あっという間にいっぱい湧き出したっスよ……キシャー!」
「瞬く間にギルド本部が包囲されてるぞ……。どっから飛んできた……?」
夢魔にやられた冒険者達と、酒にやられたチームを隔離し、対魔結界を幾重にもかけたギルド本部の周りを飛び交う無数の夢魔達。
連中からすれば、鉄檻の向こうに獲物がわんさかいる状態な訳で、何とか結界を破ろうと謎光線を放ったり、外壁を引っ掻いたりしている。
街に別の獲物を探しに行けばいいと思うが、彼らにはそんなことを考える程の知能はない。
狙った獲物を恐怖させたい、溺れさせたい、憑り殺したい、絞り殺したいという、夢魔種特有の本能に従っているだけだ。
駐在ギルドナイトさんが苦し紛れに講じた策だが、結構いい感じに成功しているようだ。
これが破られる前に、早く発生源=ダンジョンの入口を探さないと……。
「見た限り、発生源は宿泊棟街じゃなくてギルド本部の周辺っスよ! どっから湧いて出てるんスかね!?」
ギルド本部の周辺は日中探し尽くされてるはずだ。
未だ誰も探せていない場所って……。
下で俺達を見上げているレフィーナとサラナの顔をちらっと伺うが、どちらも随分期待を込めた眼差しで……。
やっべぇ……。一度ならず二度までもレフィーナの期待を裏切っちゃうかも……。
そんな俺の焦りを増幅させるかの如く、ギルド本部にそびえる日時計塔に備えられた大鐘が夕刻(6時)の鐘を鳴らした。
流水と水車を利用し、6時間ごとに自動で鐘を鳴らす人類の叡智だが、この状況ではあまり聞きたいものではない。
「ああ―――!!」
突然隣のミコトが大声をあげた。
俺は思わず双眼鏡を落としそうになってしまう。
どした!?
「あれっス!! 今大鐘の中からチビ夢魔が墜ちてきたっス!」
「なにぃ!?」
思わぬ盲点。
まさかギルド本部の真上から湧いて出てきているとは誰も思うまい。
あれだけ目立つ場所となると、逆に疑わないわな……。
ミコトに地上の二人を頼み、俺は一足先に大鐘の元へ飛ぶ。
近くで見るとデケェな!
そして、その真下では小柄な夢魔がのびていた。
幼体なのだろうか、それとも小型種なのだろうか。
俺の半分ほどの背丈しかない。
こいつらは……夢魔だな。
クルリと巻いた角が特徴だ。
見た目は可愛らしいのだが……。
これでも立派な敵性悪魔族だ。
悪魔祓いチョップ!
首狩り骸骨くんストラップを結わえ付けた右手で軽く叩くと、その体は黒い粒子となって霧散した。
ミコト曰く悪魔族は厳密には殺し切ることが出来ないらしいが、まあ、とりあえずこの個体は倒したということでいいだろう。
鐘の内側にはリングがピタリとハマっていた。
ここから出て来てたわけだな……。
輪の中に映し出される風景は……どこかの遺跡洞窟か。
まさにダンジョン!って感じだけど、俺あんまり入ったことないんだよなぁ……。
「雄一さん! お二人を連れて来たっス!」
振り返れば、ミコトがレフィーナとサラナを小脇に抱えて飛んで来た。
低級とはいえ、魔族が支配するダンジョンには不安しかないが、今ここに挑めるのは、恐らく俺達くらいだろう。
……いくか!
軽く目配せをし合い、俺達は鐘の中へと入っていった。