第20話:夢魔ダンジョン大捜索網
ギルド本部の裏口には、臨時の受付テントができていた。
受付のお姉さん(三白眼)がその場を取り仕切っている。
その隣で駐在のギルドナイトさんが様々な報告を取りまとめ、情報の整理を行っていた。
まず、ギルド本部に起きたトラブルは、夢魔、淫魔の大発生だ。
デイスの街、それも中心部に位置するギルド本部に、外部から魔物が入って来るのはほぼ不可能である。
となると、夢魔を吐き出すラビリンス・ダンジョンへの扉がこの街のどこかに生まれてしまったと見るのが妥当だろう。
おかげで、町に住む冒険者達の殆どが寝不足でダウンしてしまった。
中には淫魔に憑りつかれ、体力と精力を二面攻撃されて完全に潰れてしまっている人もいる。
ギルドナイトとギルド医務室が事態の収拾にあたっているが、なにせ目に見えない夢魔、それも凄い数がいることから、おいそれと鎮圧とはいかないらしい。
そこで、様々な理由で夢魔の攻撃を免れた冒険者達に臨時クエストを出し、情報収集、あわよくばダンジョンの発見、攻略を依頼しているらしい。
ていうか、駐在のギルドナイトさんの一人女性だったのか……無口だから気付かなかったよ……。
「全く……エドもシャウト先輩も加減を知らないんだから……。よりによってこんな時に……」
そして、この件とは全く別のトラブル。
エドワーズパーティー、タイドパーティー、そして雷刃のシャウト二日酔いでほぼ全滅事件だ。
……まあ、お調子者のエドワーズと、感動屋のシャウト先輩が無駄にガッチリ噛み合って起きた惨劇だろう。
サラナの話を聞くに、最初は皆で楽しく飲み食いしていたらしいが、時間経過と共に俺の話題でエドワーズとシャウト先輩が大盛り上がりしてしまい、興に乗った二人が飲めよ飲めよと皆を煽ったそうだ。
結果がアレである。
なんか俺の話題で盛り上がったせいみたいになってるけど、俺悪くないよね……?
ところで、この二人はなんで無事なんだろう。
「ああ、私は新開発中の酔い止め薬のおかげよ」
「私は普通にお酒強いみたいです」
「そうそう! レフィーナちゃん凄いの! エドワーズと飲み比べて潰しちゃったんだから!」
「いやぁ……私もこんなに強いとは思いませんでした……」
そう言ってアハハと笑うレフィーナ。
この子はなんか……すごい大物になる気がするよ。
「はい! そこの若手実力派チーム! あなた達もさっさと事態の収拾手伝って!」
受付のお姉さん(三白眼)が、簡易依頼書を持って来た。
ギルドマスターのおっちゃんまで倒れる緊急事態につき、内容は簡素だし、報酬も未定ときている。
まあ、これを断るようなやつはこのギルドに居ないが。
「さて、どうする? 若手実力派チームのリーダーさん」
「んえ!? 俺?」
「もちろん! この中でパーティーリーダーはユウイチくんだけなんだから。私達を動かしてちょうだい!」
「度重なる非礼は今ここでお返しします! 私を使ってください!」
なんか楽しそうなサラナと、無駄に張り切っているレフィーナ。
えぇ~……。
俺こんな状況下でリーダーとか務まるような器かなぁ……。
一抹の不安が脳裏をよぎり、俺はミコトの方を見る。
彼女はフッと微笑むと。
「えへへへ……頼れるパーティーリーダーをお願いするっスよ?」
分かった。
よし、頑張ろう。
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まず、必要なのは情報だ。
幸運にも、俺達が到着した時点でギルドナイトのお姉さんがかなりの量のそれを収集、整理してくれていた。
商工ギルドが取り仕切っている商業区では全く問題が発生していないこと。
被害がギルド本部と冒険者ギルドの宿泊棟街に集中していること。
夢魔は夜間にしか行動をしないこと。
等々……。
出現場所はこれでかなり絞り込めている。
巨大なデイスの街を走り回らなくて済むのはとてもありがたい。
ただ気がかりなのは、そこまで分かっていながら未だに出現場所を発見できていない点だろう。
「どうするっスか? 冒険者ギルド宿泊街と本部で張るっスか?」
我らがラブラブパーティーの作戦参謀、ミコトが随分と雑な作戦を提案してくる。
張ると言っても、本来夢魔を目視できるのはミコトのみだ。
手分けして警戒に当たっても、ミコト以外は寝ている人に異常が起きてからでないと対処することができず、その頃にはもうダンジョンから夢魔たちは出切っているだろう。
せっかく夢魔が見えるのだから、ここは一気にダンジョンを発見して攻略に回りたいところだ。
故に、ここは敢えて……寝る!
夢魔たちが出てくる時間まで英気と魔力を養う!
「えっでも……そんなことしてたら他の人たちに先を……」
と、レフィーナは途中まで口に出して、止めた。
臨時ギルドテントに集まってくる冒険者達を見て焦ったのだろう。
しかし、夢魔は殆どの冒険者の目に映らない。
さらに、駐在ギルドナイトと土地勘のある冒険者達が捜索しても見つけられなかったダンジョンへの入口だ。
相当見つけづらい場所にあるに違いない。
俺だってそこまでは考えていると、レフィーナにも分かってもらえたようだ。
「確かにそれが一番だと思う。今本部で寝不足にうなされてる人たちには申し訳ないけど、もう一晩頑張ってもらいましょう。その代わり、一度の潜入で絶対攻略しきらないとダメね」
俺達は冒険者たちの征く方角とは真逆の民間宿泊街に勢いよく駆け出したのだった。