第19話:デイスギルド全滅!? 夢魔襲撃事件
「さあ! サンプルを捕獲して来たまえ! しばらくは私がこの家を守ろう!」
「プブー」
一人と一匹に見送られ、俺とミコトはデイスに向かう。
協力とかしてくれないんだ……。
「まあ、専門外のことに首突っ込む天使は少ないっスよ……。一応授かった使命には縛られるっスからね」
「その辺ミコトは何でもつき合ってくれて良いよな~」
「えへへ……今の私の使命は雄一さんと共に歩むことっスから……」
「なんか最初の頃と変わってない?」
「えへへ……っス」
朝から可愛いなぁもう……!
このまま一回家に引き返そうかと思ったが、あの人が……。
早く力貯めて帰ってくれねぇかな……。
「ところで、今日は何するんスか? 今のところラビリンス・ダンジョン発見のお知らせは来てないっスよ?」
「とりあえず、先輩にちょっと相談をね」
「相談……っスか?」
「ああ、先輩って定期的に都のギルド総本部に呼び出されてるだろ? アレに同行させてもらえないかなって。都ならもっとラビリンス・ダンジョン発生させてる犯人に迫れるかもしれないじゃん?」
「なるほどっス! 雄一さん流石っスね!」
「流石って……君はどういう戦略でこの事件追おうと思ってたのよ?」
「もちろん虱潰しにダンジョン攻略しまくって、あまりにも潰されまくる事態に、犯人が様子を見に来たところをお縄っス!」
「脳筋すぎんだろ! 一応学者だろ!?」
「新生物想像学者っス! 捜査は専門外っスから!」
そんな会話をしながら、春の盛りを迎えたブリーム平原を歩いていく。
今の季節は、不思議と飛行スキルやテレポートを使わなくなる。
温かいそよ風が吹く大平原は心地よく、のんびり歩きたくなるのだ。
元の世界でも、時折大学までの数駅を徒歩で歩いたりしたっけ。
足は少し疲れるが、気に入った曲を聞きながら、日によって異なる街の情景をゆっくりと見ながら歩くのは、なんだか満たされた気分になる。
ミュージックプレイヤーもスマホもないが、この世界の田舎道だって退屈しない。
見たことも無い野花が咲き乱れ、空を不思議な物体が飛翔し、大地を小動物が走り回り、時折大型の怪鳥が飛来してそれらを攫って行ったり、謎の植物魔物が襲って来たりと、ロマンとスリルが満点だ。
まあ、慣れればいい腕ならし兼食料調達になる。
謎の植物魔物がドロップした種をミコトに鑑定してもらい、使えるものを選別し、使い道のないものは焼却処分しておいた。
俺達の家がある森に続く道は、途中でデイス~インフィート、デイス~バーナクルの街道と合流しているので、小一時間も歩けば人通りがドッと増える。
冒険者達に守られた行商人の荷馬車の列や、大規模なキャラバン部隊だけでなく、道行く人に薬、食材を販売する移動販売商人達もいて、賑やかな声が街道を彩っていた。
去年の今頃は、インフィートまでの陸路が途絶えていたので、これだけの人通りは無かったが……。
自分たちの頑張りがこうやって目で見えるのは、何だか嬉しいもんだ。
「おお! ユーチくん! 久しぶりだね! ちょっと! 聞いているのかねユーチくん!!」
ジールのオッサンの長話をシレっとスルーし、デイスギルド本部に向かう。
……前に。
「雄一さん! ガンクツマスのチーズはさみ揚げっスよ!!」と、屋台に飛んで行ったミコトの後を追う。
あの店、年中なんかでチーズ挟んで揚げてんな……。
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二人でガンクツマスのチーズはさみ揚げを頬張りながら、ギルド本部の門をくぐると、うわ! 死屍累々!?
至る所で冒険者たちが座り込んだり、倒れていたり、テーブルに突っ伏していたり……。
もう昼だというのに、クエストボートのクエストも殆ど剥がされていない。
何があった!?
「お……おう……お前ら元気してたか……」
「ホッツ先輩!? どうしたんですか!?」
「いや……最近寝覚めが悪くてな……。どうも体調が優れない……」
「寝……寝覚め……? もしかして他の皆も似たような症例なんスか?」
「そうだよぉ……ボクらなんかまだいい方で、若い子達は大変だよぉ……」
「これは絶対夢魔のせいだぜ……しかも相当数いる……淫魔も混じってると思うぜ……」
ゼッツ先輩とシービー先輩が這い寄ってきて、そのままガクリと倒れ込んだ。
「2人とも、男女関係なく……股間押さえてる奴には近づくな……よ……」
そう言うと、ホッツ先輩もぶっ倒れてしまった。
夢魔とは、悪夢を見せて生気を吸う敵性亜人種だ。
近似種に淫魔、サキュバス、インキュバスが存在する。
夢魔の大量発生……。
嫌な予感がするぞ……。
以前、シャウト先輩は強力な淫魔に憑りつかれ、危うく魂を持って行かれそうになった。
ああ見えて繊細なところのある先輩は、悪夢耐性が意外と低いのだ。
数体に憑りつかれたら、あっという間に廃人化させられてしまっても不思議ではない。
ギルドの受付には……いない!
なんか、目をぎらつかせた受付のお姉さん(ぶりっ子)に凄い目で見つめられた気がするが、見てみぬふりをする。
食堂に行くと……いた!!
エドワーズやタイド達も一緒だ……!
皆苦し気な表情でテーブルに突っ伏している。
やられたか……!?
「先輩大丈夫ですか!?」
「お……おう……」
うわ! 酒くせぇ!?
こ……これは……。
「二日酔いだよ……! ついつい皆で飲み明かしちまったんだよ……!」
……。
まあ、無事なら良いか……。
「先輩、今ギルドが大変なことになってるっスよ! 気を付けないとやられちゃうっスよ!」
「ああ……。聞いてはいるが、体が動かねぇ……頭が痛くてたまらねぇんだ……」
まだ言語でのコミュニケーションがとれる状態の先輩はまだいい。
エドワーズ達は最早人の言語が出せていない。
こんなタイミングでなんてこったい!
「ユウイチさん……! あの……!」
「こっち……! こっちだよ……!」
小さな声に振り返ると、裏の通用口からレフィーナとサラナが俺達に手を振っていた。
「男の匂いがするわぁ……ユウイチくんの匂いがぁ……」という、淫魔ゾンビと化した受付のぶりっ子お姉さんの声が背後から聞こえてきたので、俺達は二人の元へと走った。