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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
1章:ダンジョン・アングラー 大陸西方迷宮変
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第18話:押しかけ官憲天使




「私はゲホッ……官憲天使……オエェ……コトワリ……」


「大丈夫っスか……?」



 ニシンの塩漬けをぶちまけてから毒ガス部屋と化している屋根裏に降臨してしまったミコトの同族、コトワリさん。

 凛々しく美しい顔が、いろんな液でグジュグジュになっている。

 清潔で悪臭とは無縁の天界出身者は、強い臭いに慣れていない。

 ミコトも最初は下水の臭いや魚の生臭さで嘔吐していたっけか……。

 それが地上最強格の激臭を嗅いでしまったのだから、そりゃこうもなる。

 むしろ意識失わなかっただけ凄いほうだ……。


 とりあえず、いい香りがするハーブたっぷりのハーブティーを飲んでもらい、復調してもらう。

 4杯、5杯と茶を飲み干し、3回ほどトイレに駆け込み、その後1時間ほど風呂に入り、上がった頃には、彼女は本来の凛々しい顔に戻っていた。



「私が天界における不徳行為を正す天使、官憲天使のコトワリだ。突然このような訪問をしてすまない」



 ええ……。

 随分衝撃的な訪問でしたよ……。



「随分待たせてしまったことも申し訳ないと思っている。浴室があまりに心地よいのでつい長く浸かってしまった」



 は……はぁ。



「茶を大量に飲んでしまったことも見苦しいところを見せたかもしれない。あまりに旨いので……」


「いや早く本題入って!?」



 思わず大声で突っ込んでしまった。

 この人どれだけ謝るのよ!



「す……すまない。使命柄、私の不徳も正さずにはいられないんだ……」



 そう言ってシュンとするコトワリさん。

 お堅いくせに随分俗な誘惑に弱いなアナタ……。



「さて、では本題に入ろう。ミコトくん、私が来たということは、天界で何者かの不徳が起きたというのは分かるね?」


「はいっス! 誰っスか!? 私と雄一さんの共同作業を汚した悪い人は! 許さないっスよ!」



 詰め寄るミコトに、コトワリさんはゆっくりと首を横に振った。



「すまないが、まだその特定には至っていない。だが一つ、間違いなく言えることがある」



 そう言いながら、彼女は天界タブレットを召喚し、俺達に見せてきた。



「天界の試作、コンテスト応募、世界投入待ちの新種魚データベースがこの世界に流出したということだ」



 ずらりと並ぶ、見たこともない魚たち。

 「ちょっとコレ! 全部私が試作したお魚ちゃん達じゃないっスか!?」と、ミコトが悲鳴に近い声を上げた。

 そのまま机に突っ伏すミコト。

 スンスンとしゃくりあげる声が聞こえる……。



「それって……ここ最近のラビリンス・ダンジョン大発生と何か関係が……?」



 俺はそんな彼女の頭を撫でながら、コトワリさんに問いかけた。



「ああ、異界を通じて、君の実験水槽界にアクセスしたのだろう。そして、未だ多数の異界が天界との境界面に開き続けている」


「それって……何者かがこの世界と天界を繋げようとしてるってことっスか!?」


「その通りだ。こんなことを出来る者は、悪魔か、もしくはこの世界で“魔王”と呼ばれる存在のどちらかしかいないだろう」



 魔王……ダイバン……。

 遥か昔、この世界をその邪悪な魔力で覆い、人類を滅亡させようとした恐ろしい奴だ。

 ってことは……邪神教徒は既に魔王の復活を達成してるってことか!?

 法王の爺さんあてにならねぇな!



「そういう悪い人たち、戦天使さん達の神罰とかで一網打尽に出来ないっスか?」



 相変わらず物騒なこと言うね君は……。



「それが出来ないことは君も知っているだろう。我々は人間界への直接干渉は厳禁だ。また天界と魔界の戦争を起こすことになるぞ。もしそうなったら、いくつかの人間界は原始時代からやり直しになるだろう」



 もっと物騒なワード出て来た……。

 ミコトはとうとう顔を伏せたまま、ビービーと声を上げて泣き出してしまう。



「それで、結局俺達はどうしたらいいんですか?」



 肝心なのはそこだ。

 けったいな登場の割に、犯人分からない、犯人直接罰せられない、未だにミコトのデータベース流出止められてないでは、いくら何でもミコトが可愛そうだ。



「我々は天界に対してのアクセスの阻止と、侵入を目論む者の撃退、逮捕に全力を挙げる。雄一君には、このラビリンス・ダンジョンを精製している何者かを突き止めてもらいたいんだ」


「ええ!? 俺ですか!? 他の転生者でもっと強い人とかいるでしょ!?」


「ああ、無論、他の転生者達にも接触し、協力を図るつもりだ。だが、この事件に対して最も因縁があるのは君のはずだ」



 俺は隣のミコトを見る。

 「雄一さん……」と、泣き腫らした目で見上げてくる。

 ……。

 ま、そうだよな。

 パートナーのプライドを散々傷つけられて、黙って見過ごすわけにはいかないよな……。



「分かりました。その使命、お受けします」


「雄一さん……!」



 ミコトの顔がパァァと明るくなり、俺に抱き着いてきた。

「雄一さん! 二人で悪人たちの脳天にケーキ入刀してやるっスよ!」とか言いながら……。

 天使がこんな血なまぐさいこと言って良いの……? と、思ったが、コトワリさんは満足げに腕を組んでウンウンと頷いている。

 天使って案外物騒な種族なのか……?



「と、いうことで、私は次の転生者の元へ旅立つための力を蓄える。それまではお世話になるぞ」



 ほへ……?

 今何と?



「すまない。私は天使とはいえ、降臨した以上はこの世界の理に縛られるんだ。今の体では、他の転生者がどこにいるのかも分からない。それに、他の転生者の元へ降臨するためには、一度天界に戻り、降臨と神託の手続きを申請してからようやく向かうことができるので、天界へ戻る魔力を蓄えるために、1週間ほど体を養って待機する必要があるんだ。君には迷惑をかけてすまないと思っている」



 いや、「すまないと思っている」じゃないでしょ!?

 ミコトも何とか言ってよ! と、目で助け舟を頼むと「仕方がないっス……」という表情が返ってきた。

 天使って割とろくでもない方々でいらっしゃる……?


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