第13話:エドワーズ達の生還を祝おうの会
「エドワーズ達の帰還を祝って!」
「「「「「乾杯!」」」」」
今日の我が家はいつになく賑やかだ。
エドワーズ、コモモ、マービー、サラナの4人を招き、ささやかな生還祝いを催しているのだ。
「しかしお前の家すげぇな! 広いわ綺麗だわ……。庭の池も何だよあれ」
思えば冒険者仲間でウチに来たのこいつらが初めてか……。
皆随分感心している。
若くして家を持てる冒険者は少ないのだ。
特にウチのような2階建て庭付き池付き用水路付きの家となるとそうそう持てるものではない。
家付きの転生プランにしてくれた死神局に感謝である。
「お家評論は置いといて、ご飯食べましょうよ。私と雄一さんの故郷の味っスよ~」
ミコトの手料理がテーブルに所狭しと並ぶ。
生簀でしっかりと泥抜きをしたドロアンコウのドブ汁。
セグロハヤの煮干しで出汁を取った吸い物。
トビバスのフライ。
ガンクツマスの氷頭なます、いくら醤油漬け、身の塩焼き。
そしてマリクイアゴダイの唐揚げ姿盛りである。
「わっ! すごい!」
エドワーズパーティーの食いしん坊女子、サラナが身を乗り出す。
他のメンバーも初めて見る料理に興味津々だ。
特に揚げ物への食いつきが随分と良い。
この地域ではあまり一般的ではないのだろうか。
「なんか悪いな……。オレ達なんかのためにこんな豪勢な飯作ってもらって……」
エドワーズが額の傷を掻きながら、自嘲気味に笑う。
なんかクエスト出発前より暗くなってないかコイツ……?
「まあ気にすんなよ。俺はお前らが生きて帰って来てくれただけで嬉しいぞ。知り合いで死んじまったのも何人かいるしな……」
そう言って肩を叩いてやると「お前はいい奴だなぁ……」と抱き着いてきた。
流石に「やめろ気持ち悪ぃ!」と引き剥がした。
「早く食べないと冷めちゃうっスよ~?」
と膨れるミコトに急かされ、俺たちは慌てて席につく。
既にミコト含む女の子たちは料理に舌鼓を打っていた。
「あの気味の悪い魚がこんなに美味しいスープになっちゃうんですね!」
と、コモモがドブ汁を啜り。
「このフライってやつめっちゃ旨いな! あとこのソース何だ!? クソうめぇ!」
と、マービーがトビバスのフライとタルタルソースにがっつき。
「ガンクツマスってこんなに美味しいのね! この氷頭なますの歯ごたえがたまらないわ! 身もイクラも美味しい!」
と、サラナがガンクツマスの全身をくまなく味わっている。
エドワーズもマリクイアゴダイの唐揚げにフォークを伸ばし、口に運んだ。
彼もまた「旨い!」と感嘆の声を上げ、次々と料理に手を伸ばす。
ハーブ類を除く調味料に乏しいこの地域では、マヨネーズやら魚醤やらの味付けは珍しく、「出汁」の概念も希薄だ。
正直彼らの口に合うか不安だったのだが、喜んでくれてよかった。
「いや~食った食った……。本当にありがとな。おかげでまた頑張れる気がしてきたよ……」
エドワーズが腹を叩きながら言う。
やはり、どこかトーンが低い。
「お前どうした? なんかクエスト出る前に比べて暗いぞ」
とりあえずザックリと切り込んでみた。
別にこのくらいで崩れるような仲ではない。
エドワーズは「ああ……やっぱ分かるか……」と、これまでで一番暗い声で応え、平原西方であったことを赤裸々に語り始めた。
リトルオークに食い散らされた家畜の無残な死体。
文字通り捻り潰された村人の亡骸。
こちらの数倍の威力で放たれる魔法。
捩じ切られる剣。
貫かれる盾。
砕かれる砦。
こちらの攻撃はまるで通じず、敵は無数に現れる。
昨日まで自分たちを歓迎してくれていた村人たちが惨殺されても、自分には打つ手がなく、結局は皆を砦に逃げ込ませ、飛行クジラに乗せて共に逃げることしか出来なかった。
それが彼の自信をガタガタにさせたらしい。
パーティーの女の子達も暗い顔で俯いている。
正直あまり聞きたい情報ではなかった……。
いや、知っておくに越したことはないが、調査クエストが怖くなってきた……
「実は俺明日からそいつらの生息地に行くんだけど……」
俺の言葉に、エドワーズ達が目を見開いた。
「やめとけ!! マジでやめとけ! あそこ本当にヤバいぞ! 命がいくつあっても足りねぇ!」
机を叩き、エドワーズが叫ぶ。
コモモ達も青い顔でミコトにクエストキャンセルを勧めている。
「しかしバーナクルに行けるんだよなぁ……。俺海の魚釣ったことないし……」
「この釣りバカ野郎! いや、お前はただのバカだ! 釣りより命のが大事だろうが!」
「いや、それは当たり前だが、あくまでも調査クエストだから。空飛んで偵察して、危なくなったらテレポートで逃げればいい。攻めはからっきしだが逃げは誰より得意な自信はあるぜ?」
「お前絶対おかしいぞ……。何かあったのか……?」
「色々あったことは確かだなぁ……」
俺も彼らの遠征中、外来魚を調査したり熊に襲われたりゴブリンに財布を取られたりと色々あった。
トビバス、マリクイアゴダイを始めとする未知の魚をもっと釣ってみたい。
そしてそのためには迫る危険を自力で打破する程度の強さは必要だと痛感したのである。
それにミコトを守ってあげられるくらいには強くありたい。
というわけで、多少の遠出、冒険、戦いを経験し、レベルやスキルを高めておくべきだと考えたのだ。
まあ攻撃魔法や武器の強化をケチり続けてきたので、出来るクエストは偵察や調査ばかりだが……。
そんな事を話すと、エドワーズはテーブルの中ほどまで乗り出していた体を引っ込め、椅子に座りなおすと、真剣な表情でこちらを見つめてきた。
「釣りのことはよく分からんけど、お前なりに本気だってのは分かったよ……。ミコトを守るために強くなりたいってんならオレは止められねぇわ……。俺も似たようなもんだからな……。コモモ、マービー、サラナを守れるだけ強くなりたくて、ここまで突っ走ってきた。今回は危ない目に遭わせちまったけどな……」
何だ何だ突然語り出したぞコイツ。
よく見るとちょっと涙ぐんでる……。
「私だって同じです!」
突然コモモが立ち上がり、口を開いた。
え、何? 何?
「エドも、マービーもサラナも守れるくらい強い魔法使いになりたくて頑張ってきたんです……。ごめんなさい。私が不甲斐ないせいで怖い目に遭わせて。次はもっと頑張りますから!」
「何言ってんだ! リトルオーク相手に競り負けたアタシがヘボだったんだ……! すまねぇ皆! アタシ、もっと強くなるから!」
「そんなこと言わないで! 私がもっと強化アイテム生成上手ければ皆をちゃんと助けられたのに……! しっかり勉強して、早く一人前の薬師になるから!」
次々立ち上がり、自分の志を語りだすエドワーズパーティー。
何かミュージカルじみてきたぞ……。
無駄にやる気に満ちたパーティーだとは思ってたけど……。
その熱量に俺とミコトが唖然としていると、エドワーズがこちらへ向き直り、涙を拭いつつ口を開いた。
「よっしゃ! 決めた! オレ達もその調査クエストに助っ人で参加するぜ!」
「ええ!? お前ら怪我人だろ!?」
「いや、街の治療魔術師のおかげで皆もうぴんぴんしてるぜ。お前のミコトへの想いを見せられてオレも目が覚めた。一度くらいの敗北で折れてられねぇぜ! なあ!」
いやそこにそんな比重置いてるわけでもないんだけど……。
なんかパーティーの女の子達と目配せし合いながら頷き合っている。
なんだよ! 何か暑苦しいよ!
「じゃあ俺達はひとっ走りギルドへクエスト参加の申請してくる! 目ぇ覚まさせてくれてありがとな! 飯、最高に旨かったぜ!」
爽やかな笑顔と主にサムズアップを決め、沈む夕日に向かって走っていく4つの影。
アイツらただのハーレムパーティーかと思ってたけど……。良くも悪くも見直したかも……。