第17話:天使ガス室送り事件
「はい。ラビリンス・ダンジョン攻略の通常報酬と、シャウトさん一党の指名依頼料です」
ジャリ!と、いい音を立てて置かれる通常報酬袋と、その横にドサッ!と置かれる指名報酬袋。
うおぉ……。
報酬袋に法王庁の刺繍入ってる……。
この指名依頼、法王庁が金出してるだけあって、すごい太っ腹だ……。
「「おおおおおおおおお……」」
その大迫力に、目を輝かせて噛り付く二人。
「オレもうユウイチの部下になりゅ……」
「私もユウイチさんのパーティーに入りましゅ……」
「だぁー! 纏わりつくな! 暑苦しい! それにコレはシャウト先輩の分だ! 先輩に交渉しろ!」
「いや……先輩怖いし」
「クエスト失敗したら鞭でお仕置きとかされそうですし……」
い……いや……別に先輩そんなことしないよ……?
優しくて可愛い人だよ……?
それとさ……アサシンスキル持ちの人の陰口(?)はあんまり言わない方がいいと思うぜ……。
「ほー。そうかいそうかい。オメーらはアタシにお仕置きされてえわけだな? オラァ!!」
「「しびびびびび―――!!」」
激しい雷鳴と二人の悲鳴が昼時のギルド本部に響き渡った。
////////////////
「うし! 全員無事にクエストこなしてきたな! 内容の報告は後でいいからよ、飯食おうぜ飯! 奢ってやるから」
皆大した怪我もなく戻ってきたことに機嫌を良くした先輩が、ちょっといい店のチラシを片手に誘ってくる。
マジっすか! 行きます行きます!
エドワーズ達やタイド達も先輩の気前の良さに歓声を上げる。
クエスト前はあれだけ怯えていたレフィーナも「シャウトお姉さま……嬉しいです……」などと目を潤ませている。
……何があったの?
「……ちょっとごめんなさいっス。私なんだか気分が悪くて……お先に失礼するっス」
!?
ミコト……?
クエストから帰って来てから、なんかムスッとしてた彼女だが、飯を断るとは一体何事か……!?
メンバーと何かあったのか……?
彼女と同行していたメンバーを見ても、不思議そうに首をかしげている。
まあ、あの3人がミコトに何か悪いことをするはずもないか……。
「すみません先輩! 俺も付き添います! また今度ご一緒させてください!」
「お……おう。報告書は今度持って来いよ~!」
飢えた若手冒険者達にワッショイワッショイと担がれていく先輩を尻目に、俺はそそくさと立ち去るミコトを追いかけた。
////////////////
「むふ―――!! もう! 怒っちゃうっスよ!!」
両腕を広げ、フンフンと鼻息を荒らげ、地団太を踏み、頭から湯気をシューシュー放つミコト。
昭和のギャグマンガみたいな怒り方だ……。
「どうしたんだよ……コモモ達となんかあったのか?」
「違うっス! クエスト自体は楽しかったっス! 敵が問題っス!」
そう言いながら天界PCを呼び出し、カタカタとキーボードを打つミコト。
「盗作っスよ盗作! 誰かが私の生物アイデア勝手に使ってこの世界に放ってるっス!」
天界生物庁に抗議っス! と、そのサイトの問い合わせアドレスに、ものすごい長文で報告と抗議を書き連ねていくミコト。
ミコトがこんなに怒ってるの初めて見たかも……。
やっぱ学者天使だけあって、自分の成果を勝手に使われるのは逆鱗なんだなぁ……。
「ああ、そうそう。俺が潜ったダンジョンにも、ミコトナマズみたいな奴いたぞ。嘴付きのやつが」
カタカタとキーボードを打つ音がピタリと止まった。
そして「なんでスってぇ~?」という地響きのような唸り声を吐いたかと思うと、ミコトは全身を小刻みに震わせ始める。
「私と……! 雄一さんの……! 初めての共同作業で生まれた子を……! 勝手に使った輩がいるってことっスかぁああああ!?」
ミシミシ……バキィ!!
と、凄い音を立てて、天界PC諸共テーブルの天板がひしゃげていく。
下から飼い主の様子を心配そうに見上げていたタコスケが驚き、俺の元へピシャピシャと這い寄ってきた。
俺はタコスケを連れて、彼女から少し距離を取る。
おっと……言わない方が良かったかコレ……。
怒りのあまり、彼女の全身から蒸気が上がり、その蒸気がまるで天使の輪や羽根のような模様を形作っていく。
うおぉぉぉぉ……! 怖いけど……なんかカッコイイ……!!
「許せないっス! 誰か分からないっスけど、見つけてとっちめてやるっス!!」
「ああ、我々もそのつもりだ」
急に聞き覚えのない声がリビングに聞こえてきた。
え! 誰!? 誰なの!?
首を回し、部屋中を見渡しても誰もいない。
窓の外を見ると、昼間とは思えない暗さだ……!
何なの!?
次の瞬間、窓の外に激しい閃光が走り、家がドーン!という轟音に揺さぶられた。
そして、俺達の丁度真上から
「官憲天使コトワリ 降臨!! うわ! 臭っ!! ちょ……。これは……くああああ!! 出せ! 出してくれええええええ!!」
という、凛々しさと情けなさの入り混じった悲鳴が聞こえてきた。