第10話:パーティー・シャッフル
エドワーズらと受ける久々のクエスト。
内容はもちろん、ラビリンス・ダンジョンの捜索と攻略だ。
ただ、俺とミコト二人が出払ってしまっては、シャウト先輩が一人でダンジョン攻略に向かうことになってしまう。
かと言って、全員でダンジョン攻略は大所帯すぎる。
よほどの大物でも出ない限りは、ラビリンス・ダンジョンの攻略は2~4人が一般的だ。
人が増えれば増えるほど遭難やパニック、同士討ちのリスクが高まるためである。
「つーわけでだ、ちょっくらパーティーの一時シャッフルすんぞ」
自分、俺とミコト、エドワーズ、サラナ、コモモ、そして道連れ的にシャウト一党臨時メンバーに加えられたレフィーナ達のギルドカードを見比べながら、顎に手を当てる先輩。
総勢10人をバランスよく組み合わせ、クエストに問題が起きないようにしてくれるそうだ。
俺がエドワーズとラビリンス・ダンジョンの攻略クエストをしたいと突然かつ我儘な相談したところ、それを快く承認してくれたばかりか、今回のように特別対応をしてくれた先輩。
助かります……。
先輩の2分にも及ぶ熟考の結果、今回の臨時パーティーメンバーは
・俺、エドワーズ、ビビ
・シャウト先輩、レフィーナ、タイド
・ミコト、コモモ、サラナ、ラルス
の組み合わせとなった。
うん。
確かにこのメンツならよほどヤバい敵でもない限りは攻略できるだろう。
「どういう因果か知らねぇが、ラビリンス・ダンジョンと思われる異常現象が3か所で確認されてるからよ。散って同時攻略するぞ。明日の朝一で出発するから、今日の内にアイテムの補充と武器の手入れを済ませとけ」
そう言いながら、クエストの受注用紙をそれぞれのチームに手渡す先輩。
どれも先輩の一党名義で受け付けられてる……。
つまり、攻略成功すれば、通常よりずっと多い指名依頼の報酬が貰えるというわけだ。
逆に、失敗すれば先輩の名に傷をつけることとなる……。
先輩は何も言わないが、俺達を信頼してのこの采配。
裏切るわけにはいくまいよ。
「頑張ろうぜ、ユウイチ、ビビ!」
「不束者ですが……精いっぱい頑張ります!」
先輩の粋な計らいを感じ取ったエドワーズとビビも、やる気と緊張感に満ちた目で視線を交わしている。
レフィーナとタイドは……。
ガッチガチに緊張、というか恐怖を覚えているようだ。
大丈夫だぞ二人とも……。
先輩結構優しいから……。
ミコトチームは仲良し女子3人が揃っているとあって、皆ほのぼのムード。
「美味しいものがあるダンジョンだといいっスねぇ~」などと暢気に笑い合っていた。
まあ、全員生真面目なので、安定感はありそうだ。
ラルスくんあの姦しい空間で白一点だけど馴染めるかな……?
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「うっし! お前ら準備はいいな?」
先輩が自身の冒険者ギルドカードを10人の円陣の中へ突き出した。
それに倣い、俺達もカードを差し、皆のカードを重ね合う。
思えばこれも久々だ。
「パーティーメンバーを入れ替えてのクエストは、自身の能力や役割、実力を見直すいい機会になる。欲をかかず、冷静に、謙虚にダンジョンと対峙するようにな」
「「「はい!」」っス!」
「クエスト失敗はともかく、くれぐれも命だけは持ち帰るようにな! それじゃあ行くぜ!」
「「「また会おう!」」っス!」
10人の威勢のいい掛け声が、朝のギルド本部の空気をピリリと揺らした。
「雄一さーん! 気を付けてくださいっス!」
「おーう! ミコトも怪我しないようになー!!」
デイスの正門を抜け、俺達は3方向に分かれて歩いていく。
俺達は西、ミコト達は南、そしてシャウト先輩らは東方面だ。
目指す先はどれも、この地域では見かけない魔物が目撃された地点である。
俺達が任されたのは、再建中のデイスギルド・平原西方拠点へ続く街道だ。
つい3日前、この辺りを通行中だったバーナクル~デイス間キャラバンがカエル顔の魔物に襲撃され、一部物資が奪われる事件が起きた。
カエル顔の魔物は、大陸西方には生息しない。
高確率でラビリンス・ダンジョン由来と思われる。
「フロッグリンだろうな。大陸中央の大水源地帯に生息するカエルに似たゴブリンだ」
エドワーズが手帳サイズの魔物図鑑を開き、その特徴を読み上げる。
160㎝ほどの背丈、すらりとした緑色の体、カエル顔、3mは伸びる舌、肉食。
強靭な足腰を持ち、しゃがんだ状態から繰り出される張り手、右フックは強烈。
なんか……そんな敵が出るパニック映画どっかで見た気がするぞ。
ていうか最早ゴブリン要素ない気がするぞ。
「法王庁の研究によると、胴体の骨格やら関節、内臓の作りがゴブリンにそっくりらしいです。殆どの二足歩行魔物はゴブリンにルーツがあるそうですよ」
俺の呟きに、サッと補足を入れてくるビビ。
「人類、亜人類、神族、エルフ以外の二足歩行種は殆どが原始ゴブリンを祖先に持つという説もあり……」等と眼鏡を光らせながら早口で解説を始めた。
この子……魔物のことになると随分活き活きしてるな。
学者肌なのかも……。
「おい。ここから気を張っていくぞ」
グングン加速していくビビの魔物解説コーナーを半分ほど聞き流しながら、「さすが! 知らなかった! すごい!」と褒め殺しの“さしすせそ”を行っていると、エドワーズが剣をスッと抜いた。
その目線の先には、倒れた「魔物出現中 往来注意」の看板と、まだ新しい水かきの足跡が無数に残されていた。