第7話:迷宮上がりのメイドな先輩
「っとまあ、こういう具合でいっちょ上がりってわけよ!」
先輩が俺達のギルドカードをデイスギルドの受付に提出する。
最後の最後でビッショビショになってしまったものの、なかなかに良い思いができた。
なんか、エドワーズ達がラビリンス浸りになるのも分かる気がする……。
「ほら、報酬だ」
報酬を受け取った先輩が、小袋3つを放りつけてきた。
それを片手でキャッチすれば、ズシンと重みが乗ってくる。
お!?
「国や法王庁からの指名依頼だからな。しかも自力で発見、攻略したとなりゃ、普段の報酬よりだいぶ盛られるぜ」
「うわっ! 本当っス! 金貨がこんなに……」
「たまには二つ名の一党にいるうま味を享受させてやらねぇとな!」
そう言ってにっこりと笑う先輩。
その手には、小袋が一つだけ握られていた。
なんていい先輩……。
「先輩! 雄一さん! せっかくの春ですし、装備の衣替えしに行かないっスか?」
「衣替えかぁ。確かにこの軽量鎧、秋の終わりごろ買ったやつだからちょっと暑いかも……」
「いいじゃねぇか。今ちょうど衣類のバザールが開かれてんだよ」
「わーい! 先輩に可愛いお洋服いっぱい着せるっスー!」
「そ……そうじゃねぇだろ! まぁ……ちっとは付き合ってやってもいいか……」
あっ……こういう流れね……。
ハイハイ……。
生前、上に姉がいた俺は、本能的に今日が長丁場になることを悟ったのだった。
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年がら年中大バザールのデイスだが、実のところ、その様相は週ごとに異なっている。
今週は衣服、防具、装飾品を中心としたバザールが開かれていて、外の商人達が自慢の品を屋台に並べ、威勢よく呼び込みをしていた。
俺はクエスト帰りでこの空気に触れるのが好きだ。
「わー! 先輩めっちゃ似合ってるっス! コレとかどうっスか!? うわー!! 凄い可愛いっス!」
その一角で、呼び込みに負けない声を上げるミコト。
その視線の先には、普段のダルダル半袖シャツとはかけ離れた姿のシャウト先輩が立っている。
「こんなん似合わねぇよ……」
可憐なシャツ&スカート、清楚なワンピース、少し派手なドレス、そして、ちょっと露出多めのメイド服にビキニアーマー……。
ちょっとしたシャウト先輩ファッションショーだ。
俺は店先のベンチに座り、その様を遠巻きに眺めている。
「そんなことないわ! 貴方の素晴らしいスタイル、キリリと勇ましい顔立ち、そしてサラサラの金髪……! 私のあらゆるデザインを吸収して余りある実力よ!」
ミコトに負けず劣らずの声を張り上げているのは、ハーピィのエルフィンさんである。
俺達と一緒に屋台を訪れた先輩を一目見た瞬間、その真っ赤な翼で抱え込み、奥の脱衣場に連れ込んでしまい、それからずっとこの有様だ。
褒められるのに弱いのか、先輩はミコトとエルフィンさんの成すがままである。
しかし……。
先輩やっぱりスタイルいいなぁ……。
メイド服……いいなぁ。
腋がちらりと見えるセクシースタイルで、先輩の健康的な肌が良く映える。
また、スカートとガーターストッキングの間に覗くは、腋と同じく健康的な太腿絶対領域。
控えめながらも、フリルと綺麗なブローチの両サイドにふっくらと浮き出た双峰。
首や二の腕についたコルセットやカフスがいいアクセントだ。
しかしそんなことを迂闊に口に出せば、ビリビリチョップが来るだろう。
そんなことを考えながら、先輩が消えた着衣室のカーテンを俺はボーっと眺めていた。
「おいユウイチ」
「は! ひゃい!!」
カーテンの向こうから突然話しかけられ、妙な声を上げてしまう俺。
「お……お前はどの服が良いと思うんだ?」
「メ……メイド服です!」
「あぁ!?」
あ、やべっ……。
電撃が来ると思い、身構えると、その代わりにカーテンがサッと開く音と、フワッとした感触が額に訪れた。
「こ……これが似合ってるんだな……?」
その感触の正体は、先輩のスカートについたフリルだったのだ。
俺の目の前で、クイっと腰を捻ったり、後ろを向いたり、両手を広げたりを色々なポーズをとって見せる先輩。
……何この眼福。
「んじゃこれくれ」
えぇ!?
買っちゃうの!?
「たまには……良い思いさせてやらねぇとダメだろ……?」
そう言ってしゃがみ込み、俺の目線に合わせてくる先輩。
え、なんすか突然。
「ご主人様……」
「っ―――!!」
潤んだ目で俺を見つめてくる先輩。
両腕を上げ、腋やら横乳やらがチラチラと見えるセクシーポーズで、まるで俺を誘惑しているかのような……。
ダメです先輩!
俺にはミコトという最愛の恋人が……!
「いいじゃねぇか……アタシは恋人じゃなくて従者なんだぜ? 好きにすりゃいいじゃねぇか……ご主人様……」
ん!?
ちょっと待て、何で俺ベッドの上にいるの!?
「ご主人様……この愚かなメイドにお仕置きをくださいまし……」
ベッドの上で尻をつきだしたり、足をM字に開いたりと、はしたなく身をよじる先輩の姿に、俺は全てを悟った。
手を軽く前に突き出し、その手の中に首狩り骸骨くんストラップが入っているイメージを思い浮かべる。
覚えのある感触が手の中に生じたため、そのままヒュンヒュンと頭上で回してみた。
途端にベッドの上の先輩がもがき苦しみだし、「キィ!」という声と共に飛び去って行く。
フッと、体が軽くなった気がした。
「雄一さん! 先輩のこの服どうっスか!?」
俺が目を開くと、目の前にはフリル付きのワンピースに身を包んだ先輩と、その両脇を固めるミコト、エルフィンさんの姿。
「ああ、凄く似合ってると思いますよ」
「……そうか。ならコレにするわ」
「もー! ユウイチくんったら女性の褒め方が下手っぴなんだから!」
「そんなことないっスよ。雄一さんアレでいて見るべきところはちゃんと見てるっスから」
エルフィンさんとミコトの掛け合いを聞きながら、俺は感知スキルをフルに発動させてみたが、生憎、淫魔の気配は感知することが出来なかった。
夢……か……?