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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
1章:ダンジョン・アングラー 大陸西方迷宮変
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第6話:南洋迷宮 フレイミットの地獄壺焼き




 罠の傍の地面がモソモソと動き、巨大な巻貝が出現した。

 すると、俺の感知スキルにようやく微弱な反応が出る。

 デカいくせに隠密スキル持ちか……?

 そりゃ感知が遅れるわけだ……。



「まだだぞ……まだだ……」



 先輩が敵の様子を確認しつつ、俺に声をかけてくる。

 俺も双眼鏡で眺めているが、罠を動かす判断はシャウト先輩に委ねている。

 俺は釣りこそ得意だが、狩猟はやったことがない。

 狩猟によるサバイバル生活経験があるという先輩に任せた方が確実だろう。

 先輩ほんと何でもできるな……。



「なかなか餌食べないっスね……」


「先輩の攻撃受けて警戒してるのかもしれないな……」


「アタシが取り逃がしたのが悪いってのか?」


「いえ! 滅相もございません!」


「……悪かったよ」



 一度取り逃がした魚はスレる。

 これは鹿やイノシシ等の罠で狩猟される動物にも見られる傾向だ。

 攻撃を受けて傷ついた生物は、無防備となる捕食活動に対して消極的になるのである。



「おらっ……食え! 食え! ほら! ……くっそー!」



 双眼鏡を覗きつつ、徐々に白熱し始める先輩。

 小声なので問題はないだろうが、プロレス観戦のオッサンみたいな様相だ。

 あまり見たことのない、先輩の無邪気な一面を見ながらホッコリしていると、ガス!と踵で蹴りつけられた!


 痛ぇ!

 ちょっと待って!

 俺別にエロいこと何もしてないよ!?



「おいユウイチ! 罠に乗ったぞ! 準備はいいか……?」



 ああ……。

 そうだった。

 任務忘れかけてた……。



「了解です。いつでも罠動かせます」


「よし……待てよ……よーし、よーし……今だ!!」



 先輩の掛け声に合わせ、罠を固定するワイヤーを召喚解除する。

 すると遠方でガザガザ! ガシャーーー!と大きな音が聞こえてきた。

 同時に「キュイイイイイ!」と、悲鳴のような音が鳴る。

 重量物を吊り下げたワイヤーが鳴いているのだ。

 シャウト先輩が掛った時とは全く違う、かなりの大物が掛ったのが分かる。



「行くぞ!」



 先輩が足に雷光を纏い、突っ込んでいく。

 ミコトも飛行スキルを発動させてそれに続く。

 俺は魔力を温存するため、徒歩での突撃だ。


 藪をかき分けながら突き進むと……。

 うおお!?

 すげぇ!

 ヤドカリがひっくり返って宙に浮いてる!



「ユウイチ! こいつを持ち上げてるワイヤー……だったか? それ増やせ! 周りの木がやべえ音立ててんだ!」



 声の方を見ると、先輩とミコトが丸太を抱えて敵の貝殻を支えにかかっていた。

 うわぁ!

 罠を吊り上げてる木がすんごい曲がってる!

 あとミシミシ言ってる!!



「釣具召喚!!」



 急いでワイヤーを増やし、周りの岩や、低木、小さな丘などへ繋いでいく。

 同時に、弛んでいるワイヤーや、敵の足がかかりそうな位置に絡んだそれを召喚解除し、使用する魔力を必要最低限度に絞る。



「雄一さん! コレ見るっス! キャンプファイヤーっスよ!」



 そうこうしているうちに、フレイミットを焼く装置が完成したようだ。

 四角形に組まれた丸太の中心には、よく燃えそうな枯草や枝、木の皮等が敷かれている。



「ちょっと可哀そうっスけど……世界の平和の為っス! 着火っス!」



 ミコトが覚えたての初等炎魔法で火を放った。

 瞬く間にキャンプファイヤーが燃え上がり、フレイミットの貝殻を加熱する。

 貝殻から足とハサミがガザガザせり出し、その熱から逃れようと暴れだす。

 下から火であぶると、ヤドカリは貝殻を捨てて逃げ出すが、フレイミットの貝殻は所謂「借りもの」ではないらしく、体と一体化したもののようだ。



「……。なんか……」



 ミコトがもがき苦しむフレイミットの様子を見ながら、ボソリと呟いた。

 残酷な攻撃に嘆きを覚えているのかと思い、慰めの言葉代わりに、肩に手を置く。

 ミコトはその手にそっと手を重ね。



「すんごい美味しそうな匂いするっスよ」



 と、ジュルリと涎を飲みながら返してきた。

 ガクッとズッコケる俺を尻目に、ミコトは「お塩取ってくるっス!」と、セイリーンツリーの皮を剥ぎに走っていった。

 あの食いしん坊天使にかかれば、火にかけられた時点でもう食材扱いらしい。

 「こいつにはちょっと悪いことしちまったよなぁ……」と、簡易的とはいえ、供養の祈りを捧げる先輩とは対照的だった。




////////////////




「うわっ!! コレ旨っ!」



 真っ赤に焼けたフレイミットの壺焼きをひと齧りした先輩が歓声を上げる。

 うん……すげえ旨い……。

 ほんの少し土臭いが、タラバガニの甘みを濃くした感じだ。

 噂に聞く、ヤシガニの味に近いかもしれない。


 最早有名な話だが、タラバガニやヤシガニはヤドカリの仲間だ。

 陸上生活する甲殻類はどうしても土臭さが出るらしい。

 泥抜きするか、香草やスパイスを使って蒸し焼きにするともっと旨いかも……。

 いつか試してみたいな……。



「出て来ねぇな……キーストーン」


「っスねぇ……」



 殻からズルズルと引っ張り出される長大な「身」。

 食っても食っても減らないほどにタップリと詰まったその中にあると思われる、このダンジョンのキーストーンは未だ現れない。



「おお!! この子、貝類の肝みたいな器官も持ってたっス! 貝とヤドカリの合いの子みたいな体してるんスねぇ!」



 そう言いながら、肝を切り分けていくミコト。

 いやあの……キーストーン……。

 しかし、この肝がまた旨い!

 苦味があるものの、ネットリとしたうま味が口に広がる。

 こちらは不思議なことに、土の香りは殆どしなかった。



「変わった生態に、器官してるっスよねぇ~。ちゃんと調べられないのが残念っスよ。先輩いつか絶対南方諸島連れて行ってくださいっス!」


「お……おう……。ていうかミコト……コレあとどれだけ食えばいいんだ……?」


「キーストーン見つかるまでっスよ先輩! 魔物とはいえ、罪もない子を殺めてしまったんスから、食べて供養するのが当然っス!」


「そ……そうなのか……?」



 小食の先輩が食いしん坊天使の供養を楯にした「もっと食べましょう」圧に屈しつつ、フレイミットの身を口に押し込んでいるのを尻目に、俺は一人、キーストーン探しを行っていた。

 本体の身には入っていなかった……。

 すると、殻の中だろうか?

 いやしかし、先ほどからミコトが殻の中に溜まった汁をしきりに掬っているので、さらい残しは恐らくない。


 うーん……。

 人違い……ヤドカリ違いか?

 ただ、シャウト先輩の魔方針はこの貝を強く刺したまま動かなくなっている。

 ……貝殻そのものか?


 独特の光沢を放つその表面をよく見ると、規則正しく巻かれた貝殻に一か所、やたら大きな出っ張りがあった。



「ん~?」



 その出っ張りを、イシダイ釣り用のロッドホルダー固定に使うアンカーでゴンゴンと小突いてみた。

 すると、それはコロリと取れ、地面に転がる。

 どうやらフジツボの類のようだった。

 そしてその中から現れたのは……。



「あ、キーストーン」



 俺は思わず、それを手に取ってしまった。

 直後、周囲の景色がグニャリと歪み、ほの暗い水底に変化した。


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