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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
1章:ダンジョン・アングラー 大陸西方迷宮変
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第1話:砦の湖の異変




 先輩と共に大陸西方のラビリンス・ダンジョンを次々攻略し、この大陸に起きている異変の解決に一役買うぞ!

 と、気合を入れたはいいものの、案外、ラビリンス・ダンジョンは現れない。



「なんだか今までと変わらない日々っスねぇ」


「だなぁ」



 結局俺達は、これまでと変わらない異世界釣り生活を楽しんでいる。

 もちろん遊び惚けているわけではない。


 ダンジョンの入口を探すには、歩き回り、噂話を集めるのが一番だ。

 当然だが俺達は冒険者、日銭を稼がねば生きていけないので、採取クエストやお使いクエスト等、雑用がてらの行動になる。

 そして、そのような雑用系クエストは受注者が少ないため、期日はかなり緩めだ。

 となると、移動速度の速い俺達では、かなりの余裕をもって目的をこなすことが出来る。

 つまりどうしても時間が余ってしまうわけだ。



「時間が余っちゃうんだから仕方ないよなぁ」


「先輩にバレたら普通に怒られそうっスけどね……」



 春の日差しを受けてキラキラと光る湖面に釣り糸を垂らす俺達。

 今日のクエストは、デイス~インフィート間の交通の拠点となりつつある湖畔の砦へのお使いだった。

 運んだのは、砦に設置されているデイスギルド支部宛の内部文書と、クエストカード用紙セットだ。


 行商キャラバンが行き来しているのだから、それに乗せればいいじゃないかと思うかもしれないが、ギルド内部の物資は、基本的にギルド所属の冒険者が手持ちで運ぶのが掟である。

 平和な時代故に軽視されがちだが、一応ギルドの指示文書は内部機密。

 洩れるとマズい情報も色々あるのだ。


 一泊二日の期限だが、飛行スキル持ちからすれば朝飯前、いや、昼飯前のクエストである。

 さっさと文書を届けた後は釣りを楽しみ、砦で一泊し、のんびりとデイスに帰ればそれでいい。

 ちなみに、この辺でラビリンス・ダンジョン由来と思しき事象は確認されていないそうで、生憎、本当に生憎だが、無駄足だったようだ。



「全然釣れないっスねぇ……」


「だなぁ……」



 夕食の酒のつまみに小魚を調達しようと思ったのだが、これがサッパリだ。

 春の間は藻が殆ど無く、ハスヤガラの姿も見られない。

 夏眠でもする種なのだろうか……?

 致し方ない、今日は干し肉とナッツで我慢するか……。

 そう思い、仕掛けを上げて撤収しようとした時、ミコトがしきりに「ん? ん?」と唸りだした。



「どした?」


「いえ……。なんか……妙な匂いが」



 そう言って、ミコトは釣り糸を手にスッと滑らせ、雫をクンクンと嗅いだり、ペロリと舐めたりしている。

 真面目な研究モードなのだが、なんかエロい……。

 そんな邪な目で見つめていると、ミコトは突然カッと目を見開き、「これは!!」と大声をあげた。

 何!?



「ちょっと雄一さんコレ舐めてみるっス!」



 そう言って掌を突き出してくるミコト。

 何事かと思いつつ、俺はその言葉に甘えさせていただく。



「どうっスか……って、ちょっ! そんなレロレロしちゃ駄目っス! 味と臭いを利くっス!」


「ちょっとしょっぱくて……ミコトの風味がして……。あ痛!!」



 ちょっとエロ寄りのジョークを飛ばしたら、そのまま張り手が飛んできた。

 イテテ……。

 まあつまりは、何か塩気があるのだ。

 それも結構な塩分濃度……。


 この感じ……。

 覚えがある……。



「「ラビリンス・ダンジョン!!」っス!!」




////////////////




「お前らよく気付いたもんだ。湖が突然塩湖に変るなんざ、ラビリンス・ダンジョンから塩水が出てるとしか考えられねぇ」



 俺達がギルドバードを飛ばした数時間後、シャウト先輩がデイスから駆けつけてきた。

 流石に二人でダンジョン攻略は無理だ。



「ダンジョンの位置は分かるか?」


「ええ、大体あの辺に入口があるっぽいです」



 俺は先ほど湖に投下した、ストリンガー用の大型ウキにケミカルライトを装着した簡易ブイを指さす。



「ほう……素早いな。どうやって特定した?」


「ルアーの浮力を利用したんですよ」


「浮力?」



 ルアーには、静止状態で水に浮くタイプと、沈むタイプがある。

 これをそれぞれフローティング、シンキングと呼称するのだが、実はこの中間が存在するのだ。

 その名も「サスペンド」タイプ。

 静止状態で水中の一定層にピタリと制止するのが、このタイプの特性だ。


 だが、その特性が発揮されるには、ある条件が必要となる。

 それは、設計時に想定された塩分濃度と同一の水域で使用するというものだ。

 もし、想定よりも高い塩分濃度で使用すると、そのルアーは浮いてしまう。


 当然、淡水を想定して作られたサスペンドタイプのルアーは、海水域ではフローティングになる。

 つまり、淡水用サスペンドミノーを湖面に投下し、強く浮力が生じる場所を探せば、塩水の湧き出ている所を絞り込めるというわけだ。



「雄一さんそれで地道に頑張ったんスよ! お手柄っス!」


「良く分からねぇが、まあよくやった。明日の朝一で潜るぞ」


「了解っす」

「っス!」



 正直、ある程度適当にやる気でいたのだが、この状況は看過できない。

 サスペンドミノーによる調査で分かったが、この湖の約半分が塩分を含み始めており、残った水域に多数の魚が集結している様が確認できた。

 このまま塩水が全域を覆えば、この湖の貴重な生物が死に絶えてしまう。


 世界の異変には割と無頓着な俺だが、釣りのターゲットとなる魚の危機には黙ってはいられない。

 俺は釣具屋のレジ横にある稚魚放流募金や水質改善募金には欠かさずお釣りを入れる男にして、釣り場保全ラバーバンドを毎年全種コンプリートしている男。

 この湖を救うため、この身を粉にして働こうではないか。


 と、やる気に満ち満ち始めたところで、あることに気が付いた。

 俺、防具と武器は付けてきたけど、アイテムホルダー置いてきちゃった……。



「ほらよ」



 ヤバい、ヤバいと焦りの色が出る寸前の俺の顔に目がけ、使い慣れたサイドポーチが飛んできた。



「オメーらは本当に釣りが絡まねぇとやる気出さねえもんなぁ……!」



 やはり、先輩を欺くのは無理らしい。

 ビリビリデコピン一発で済んだのは、先輩の恩情だろう。


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