第21話:救出クエストを終えて
かくして、俺達は後輩パーティーの主力コンビの救出に成功し、ギルド本部の診療所へと搬入した。
二人は消化液を流し込んだり、溶かした肉を吸収するための触手を体中に突き刺されており、マジで消化吸収される数分前だったようだ。
危ない危ない……。
筆舌しがたいドロドロした状態の二人を持ち帰る羽目になるところだった……。
通常のクイーン・アントパスとは異なる、樹木の性質を持った個体。
クイーン・アントパス・アイビーは、巨木のうろに巣を構え、張り巡らせた蔦状の触腕で籠を作り、卵や幼体の保護や、捕らえた獲物の保存、捕食をそこで行う。
通常は大陸南方の密林に生息する大型種なのだが、ラビリンス・ダンジョンがその一角を異界化し、古戦場跡地に繋げたのだ。
はた迷惑な話である。
まだ積極的にダンジョンから出てこない敵だったから良かったものの、オーガだのワイバーンだのドラゴンなどの巣と繋げられてはたまったものではない。
一応、資源の調達場や修練場としての活用法もあるそうだが、それは厳重な管理が行える帝都や大陸中央都市レベルの設備、人材があってこその話で、こんな半端な地方都市では持て余すことこの上ないだろう。
ところで、受付のお姉さん曰く、本来ラビリンス・ダンジョンは希少なものらしい。
街の地下や街道沿いのような魔力の薄い場所に連続で出現するのは、普通ならあり得ないとのこと。
カトラスでも出現頻度上がってるとかエドワーズの奴も言ってたし、これは何か良くない事態の予感がするな……。
そんなことを考えつつ、人気のなくなったデイスギルドの食堂で芋汁を啜る俺とミコト。
二人を救出した後から急に吹雪きだし、家に帰るのも、宿に向かうのも困難になってしまったのである。
「今日は隅っこでテント泊になりそうだなぁ」
「っスねぇ。まあ、タイドくんとレフィーナちゃん搬入直後でよかったっス」
ちなみに、ビビとラルスも診療所で熟睡中だ。
まあ当然か……。
ガチクエスト2連続でやったわけだしな。
俺達が単独で何とかできるくらいに強かったら良かったんだけどねぇ。
「こうやって助っ人任されると、シャウト先輩の凄さが身に沁みるっスねぇ」
「前よりは間違いなく強くなったし、先輩のフォロー程度なら問題ないんだろうけど、こういう俺達だけで挑まなきゃならない事態も起きるもんなぁ……。」
「それに、私達はこれからあの4人の後輩君たちを独り立ちまでお世話しなきゃいけないんスからね。 有言実行っスよ! ユウイチ師匠!」
「はぁ~……。間違いなく本心だったとはいえ、舎弟分ができるとなると緊張しちまうなぁ」
「あはは……。まあ、私もしっかりフォローするっスよ。一緒に頑張るっス」
「だな。今日はもう寝ちまおう。パパっと風呂入ろうぜ。流石に鎧が重くなってきた」
「あ! そういえば私達鎧着てたんすね! 最近馴染んできたのか、着てても重さ感じないんスよねぇ」
「そりゃ……お前……」
二人分の食器を片付け、俺達はギルド本部の風呂場へと向かった。
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「それじゃあ30分後にさっきのとこで落ち合うっス」
「もうちょいゆっくり浸かってもいいぞ。お前長風呂好きだろ」
「てへへ……。それじゃあちょっとお言葉に甘えるっス」
そう言って、俺達は通路の左右に分かれた。
デイスギルドの風呂場は男女はっきりと分かれていて、うっかりラッキースケベなどが起きないようになっている。
デイスギルドに女性冒険者が多いのは、こういった細かな設備の気配りもあるのだ。
以前のインフィートなんか男女混浴どころか脱衣所も一緒だったからな……。
しかしまあ、今日は疲れた。
戦闘時間は短かったが、時間制限ありで、テレポートで脱出不能の空間での戦闘は異様な緊張感があり、それが尚更疲れを増幅させている。
ゆっくりと風呂に浸かったり、サウナに入ったりして体を休ませよう。
そんなことを考えつつ、軽量鎧の紐を解いた。
「キャアアアアアアっス!!!」
隣の脱衣所から響いた特徴的すぎる悲鳴。
ミコトの身に何かがあった!?
俺は上半身裸のまま通路を逆走し、女性脱衣所に飛び込んだ。
「大丈夫か!?」
「はわわわ……! 下に! あの下に!!」
俺と同じく上半身裸のミコトが腰を抜かして、脱衣台の下を指さしている。
オーウ……。
ラッキィ……。
じゃない!
なんだ!?
腰を屈め、ミコトの指さす先を、覗き込むと……。
「げぇ! アントパス!!」
脱衣台の下であのクイーンのように腕を広げ、こちらを見つめるアントパスの姿があったのだ。
え!? なんで!?
この辺にダンジョンの入口開いちゃった!?
「違うっス……鎧の隙間に入り込んでたんスよぉ……。すっごいビックリしたっス……」
なんだとぉ……?
巣を滅ぼされて尚、一矢報いようと潜んでいたとでもいうのだろうか?
仮にそうなら、見上げた行動力だ。
しかし、即斬……。
と、俺は手裏剣を放とうとした。
だが、その手はミコトに制止させられる。
おっと、どうした?
振り返ると、ミコトは好奇心に目を輝かせ、俺の顔を見上げていた。
「この子、パートナーアニマルにしないっスか!?」