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第19話:突入! ラビリンス・ダンジョン




「これです」



 ラルスが指差した石柱の陰に、妙に明るく光る穴が見える。

 空間が歪み、その向こうには光あふれる森があった。



「こ……これ普通に入ったらいいのか?」


「はい」



 恐る恐る手を入れると、木漏れ日の温もりが伝わってきた。

 ラビリンス・ダンジョンってこんな異次元じみたことになってるのか!

 今度は足先を……。



「早く入るっス! 二人の命がかかってるんスよ!!」



 ミコトのパワータックルに突き飛ばされ、俺はそのラビリンスへのゲートを潜り抜けた。

 痛ててて……!

 ミコト時々乱暴だもんなぁ……。

「大丈夫っスか! ちょっと力込め過ぎたっス!」と、後ろから慌てて飛び込んでくるミコト。

 ジョブスキルがグングン高めていくパワーを制御しきれていないようだ。

 何かの間違いで殺されないか不安になってきた……。


 しかしまあ、すごいところだなここ……。

 地面はいかにも遺跡! という感じの苔むした石畳の回廊だが、その上には森の木々が生い茂っている。

 回廊の外を見ると、青黒い水面がはるか下に見え、そこから巨大樹の枝が無数に枝分かれしていた。

 どうやらこの回廊は巨大樹の枝に支えられているらしい。

 異次元……全くの異次元空間だ。



「よし、早急に二人を助けに向かおう。二人の居場所の手掛かりはあるかい?」


「このラビリンス・ダンジョンの主であるアントパス・クイーンの元に連れ去られてるかと……」


「アントパス……。それなら急げば助かるかもしれないっスね」



 アントパスとはタコとアリが合体したような生態型の魔物である。

 タコのフィジカルとアリの社会性を持つ、面白い魔物だ。

 サイズは1m程度で、それほど強くはない。

 しかし、彼らは群れるし、知能もかなり高い。


 少しの隙間に隠れるし、木の上から物を落としたり、連携して多方面から襲ってきたりする。

 うっかりその縄張りのど真ん中に入ってしまえば、4人のパーティーでは逃げるので精いっぱいだろう。

 弱毒を持つ牙で噛まれ、麻痺させられたが最後、巣に連れ込まれ、エサにされてしまうと聞く。

 ただ、一定時間は獲物を生きたまま保存する特性があることから、救助が間に合った例は少なくない。



「急ごう」


「はい……!」



 二人の道案内を受け、迷宮の回廊を進んでいくが、ラビリンス・ダンジョンは刻々と変動する。

 見覚えのある場所があっても、エリア同士が遠く離れてしまっていることもあるらしい。

 エリアとエリアは特殊な魔力で繋がっているらしく、それらを跨いでのテレポートはできないとのことだ。

 戦闘では支障はないだろうが、脱出の時が面倒だな……。


 時折見える小川には大小の魚影が見える。

 恐らく、ここのアントパスたちは本来これらを捕食しているのだろう。

 異次元に生まれた小さな生態系なのだ。

 釣りたいところだが、ここはグッと堪える。



「ストップ! 敵の気配がする……」



 大きな木のうろがあるエリアに差し掛かった時、感知スキルに「ピン!」という反応があった。

 こちらに敵意を向けている何者かがいる……。

 十中八九アントパスだろう。


 俺の声に反応して、4人で陣形を組んだ時、その感知音がフッと消えた。

 気づかれたことを知って退散したとでも言うのだろうか。

 それとも斥候が偵察に来ていたのか……。

 どちらにせよ、俺達の存在が敵に知られてしまったのは間違いない。

 ここからは一層気を張って行かないと、どこから奇襲を受けるか分かったもんじゃない。


 4人で気を張りつつ、次なるエリアへ進むと、突然頭の中で「キーーーン!!」と感知スキルのピークが振り切れんばかりに鳴り響いた。

 俺は「伏せろ!!」と咄嗟に後輩二人を押し倒す。



「んぎゃっス!!」



 パァン!!と破裂するような音が頭上で鳴ったと思うと、伏せ損ねたミコトの額に拳大の木の実が命中していた。

 ドテっと膝をつき、うずくまるミコト。

 大丈夫か!?

 牽制と威嚇のため、木の実が飛来した方へ氷手裏剣を発射すると、「グチョ」という手ごたえを感じた。

 命中!


 頭を凍り付かせながら茂みから這い出てきたアントパスは、ビクビクと体色を紅白に点滅させたのち、息絶えた。

 見ると、二股に分かれた木の幹に、締め付けられたような跡がある。

 なるほど……アイツ自分の身体をパチンコのゴムみたく使って木の実を撃ち出したのか!

 恐ろしい知能だ……!



「ふぇぇぇ~。痛って~っス……」



 不意に後ろから聞こえる声。

 ああ、そうだミコトは大丈夫か!?



「大丈夫じゃないっスよぉ……。額割れてないっすか私……?」



 大の字で横たわるミコト。

 その傍らには、粉々に砕けた固い木の実が飛び散っていた。

 ヤシの実のような独特の香りがしている……。

 そして、その木の実パチンコを食らったミコトの額には……。



「……傷一つ付いてないぞ」


「嘘っス! 無茶苦茶痛かったんスよ!? ビビちゃんどうっスか!? 腫れてないっすか!?」


「えっと……全然大丈夫そうです」



 タダでさえ頑丈な天使の身体にナイト系のレアジョブスキルを宿したミコトは、普通の人間なら良くて脳震盪、悪くて即死級のヘッドショットをほぼ無力化できる強度に成長していたのだ。




////////////////




「痛たたたた!! 痛いっスけど……! てやあああああ!!」



 ヤシの実パチンコが降り注ぐ中を、重天使ミコトが突っ走り、2m近い大型のアントパスを切り倒す。

 す……すげぇ……。


 そんな光景を眼下に見つつ、俺はミコトを狙うプチアントパス達にテレポート切りを仕掛け、一体一体確実かつ迅速に倒していく。

 たまに俺に気付いて反撃してくる個体もいるが、木の実パチンコ程度ならオートガードが弾いてくれる。

 双剣にまとわりつかれた時は、慌てず騒がず氷魔法でその足を凍り付かせ、振りほどく。


 しかしこの連撃の腕輪、優れモノだ。

 消費魔力そのままに、攻撃回数が倍になる。

 少し大ぶりなアントパスが相手でも、二重に分かれた剣撃は敵の胴を深々と切り裂く。

 通常、大した威力にならない氷手裏剣も、同じ場所に2枚重なって突き立てば、付けるキズは深くなるし、氷結力も倍だ。

 さらに普段の倍の身のこなし、倍の攻撃頻度を含めれば、堅牢な大型アントパスをも打ち倒す冒険者強度となる。

 エドワーズとの友情パワーを感じつつ、俺達は並み居るアントパス達をばっさばっさと切り倒していった。


 しかし……奥に進むにつれて、敵が明らかに強くなっている。

 ビビによると、ラビリンス・ダンジョンはどのルートを通っても最後には一つのエリアに行きつくようになっているらしく、その最深部にダンジョンへ魔力を供給し、また、ダンジョンから魔力の供与を受けている「ボス」がいるとのことだ。

 つまりこのダンジョンの場合は、そこにアントパス・クイーン、そして供物にされた二人がいることになる。


 しかしここの敵……。

 明らかに一年目の新米パーティーが挑むような強さじゃないぞ!

 レアスキル、レアジョブスキルマシマシで、シャウト先輩やエドワーズ達に引っ張り回されながら鍛えられた俺達でさえ、多少の負傷を避けられないような敵の群れである。

 なんたってこの4人はこんな高難度クエストに……。



「先輩! 次のエリアへの道が見つかりました!」



 俺達が敵を捌く間に、通路を探していたラルスとビビが叫ぶ。

 俺の「了解!」という声を合図に、ミコトが敵のど真ん中で閃光玉を破裂させた。

 その閃光を釣り用偏光グラスで躱しながら、俺とミコトは彼らの元に飛んだ。




////////////////




「はぁ……はぁ……君ら、言い方悪いがこのダンジョン攻略クエストは君らの手に余るぞ……! こんなもん二つ名持ちかギルドナイト案件だぜ……」



 エリアとエリアの狭間に偶然あった石室の回廊で、ポーションや回復魔法で小休止を取りつつ、二人にやんわりと忠告する。

 エドワーズ達くらい強く、判断力に優れていればいいが、この子達レフィーナ以外まだまだ未熟……。

 いや、正直レフィーナも直接戦闘力以外は未熟だ。

 こんなダンジョン探索を続けられては、俺とミコトじゃフォローしきれない。


 流石に二人とも思うところがあるのか、俯いて黙ってしまった。

 あんまり説教は好きじゃないんだけど……。

 これは言っておかないと彼らの今後が危ういだろう。



「実はレフィーナが無理に……」


「あ~……」



 もう大体分かった。

 というか、大体そんな気がしてた……。

 前のユーリくんの一件をちょっと拗れさせた感じかぁ……。

 自分で言うのも何だが、強くて憧れの先輩の情けないとこ見せられて、そんな人に憧れてた自分を振り払いたくて無茶しちゃったんだな……。

 

 二人の表情を見るに、当たりらしい。

 そう言えばシャウト先輩も、弱いところを見せてくれたのはだいぶ打ち解けてからだったもんな……。

 いつも助けてくれる先輩達だって、後輩に情けないところを見せないよう気を張ってたんだなぁ……。



「はぁ……俺はただ、のんびり釣りがしてたかっただけなんだが……」


「す……すみません! 僕たちがレフィーナを止められなかったせいで……」


「いや、俺が悪かった。俺達の故郷にはこんな言葉がある。“釣った魚にエサをやらない奴は最低だ”ってな。半端に引っかけておきながら、ほったらかしにしてすまなかった。君らのこと、責任をもって育て上げるよ」


「先輩……!」


「早く行こう。タイドとレフィーナが待ってる」


「「はい!」」


「えへへ……一緒に頑張るっス」



 俺達は一度防具のチェックとアイテムの確認を行い、感知スキルが高鳴る方へと向かった。

 俺もこんなクサいこと言うようになっちゃって……。

 エドワーズの癖がうつっちまったなぁ。

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