第18話:後輩パーティーの危機
「えぇっ!? タイドとレフィーナが!?」
「……はい」
「僕たちだけ……逃げて……きました……!!」
ギルドに突然呼び出されて、碌なことがあった試しがない。
今回もまぁ……随分と深刻な事態で……。
「うう……レフィーナ……タイド……」
「くっ……」
傷だらけの腕を地面に叩きつけながら泣き崩れるラルス。
折れた杖の一部を胸に抱き、へたり込むビビ。
まあ要は、クエストに失敗して、殿を務めたレフィーナ、そしてその援護をしに入ったタイドが未帰還となったらしい。
駆け出し冒険者にはよくある話だ。
俺の同期連中もそれでかなり死んだ。
「ご覧の通り、今お願いできるのはユウイチさんコンビくらいなんです」
受付の腹黒ぶりっ子お姉さんが不服そうにあたりを見回した。
ギルド本部を見回すと、人はまばらで、ポツポツ居る先輩冒険者も、既にへべれけか、もしくは素行不良、実績不良で有名な所謂「訳アリ」勢だ。
頼れる二つ名持ちや、ギルドナイトの方々は未だ王都に出張中である、
つまるところ、俺が二人を救出しろとのことらしい。
「大丈夫か? 怖かったろ。よしよし……ちょっと頼りにならないかもしれないが、道案内してくれるかい?」
無論、断る道理はない。
しゃくりあげる後輩二人を軽く抱きしめ、落ち着かせてやる。
誰でも致命的な大失敗の一つ二つあるだろう。
そこから這い上がるには、自身の実力も必要だが、運と、他者の助けも必要だ。
他者に助けてもらった者は、後に続く者に同じく手を差し伸べねばならない。
俺にその番が巡ってきたのだ。
「先輩……! ありがとうございます……! ありがとうございます!」
俺の両肩をぐっしゃりと濡らし、やがて彼らは立ち上がった。
受付の三白眼お姉さんが連れて来てくれたマーズ先生に簡単な治療を受け、早速出て行こうとする2人。
いや、ちょっと待てい。
二人とも防具はボロボロで、およそメンバー救助に赴く格好ではない。
クエストに失敗した者を救助に向かう際、行き急ぐあまり手当と簡素な回復アイテムで再出発し、ミイラ取りがミイラになる案件は後を絶たない。
先輩冒険者でもそれをやって命を落とした人を知っている。
まずは自分が生きて帰ることを保証したうえで救助に向かわなければ、相手も、自分も命を落とすことになりかねないのだ。
本来一人分しか背負えない命を、追加で二人背負おうというのだから、普段のクエスト以上に困難が伴うのである。
「君らは共同防具庫からいい感じの装備持って来な。手早く、かつ、しっかりとしたものを選ぶように!」
「は……はい!」
「分かりました!」
治療魔法のおかげか、二人の足取りは随分軽くなっている。
あれなら道案内と自衛くらいはできるだろう。
俺達はギルドのショップで回復アイテム、サポートアイテムを買っておく。
ポーションキット、煙玉、閃光玉、信号玉……。
交易街に比べて割高だが仕方がない。
手早く、確実な物を手に入れるには、多少高くともここで買った方がいい。
ギルド直営の武器屋で俺の双剣、ミコトのステッキソードを研いでもらい、武器のコンディションも整えた。
あとは二人向かい合い、防具の結び目、互いの手持ち回復アイテム、サポートアイテムの位置を指さし確認する。
これをやっておけば、忘れ物の防止もできるし、非常時に互いのアイテムを使いっこできるという寸法だ。
「先輩! ちょうどいいサイズの鎧とガントレットありました!」
「私も予備の杖持ってきました!」
ちょうどその時、共同武器庫からお古の防具を身につけた二人が戻ってきた。
二人にもアイテムを渡し、再度指さし確認をさせる。
あれだけ取り乱していた二人だが、準備の間にだいぶ落ち着いたようだ。
受付に救助クエスト申請を出し、俺を呼びに来てくれた白鳥ハーピイの人に救助賃を前払いしておく。
あの……なんで号泣してるんすか……。
そう尋ねると「これが……! これがデイスの冒険者の助け合い文化なんすねぇ!!!」などと言っていた。
感動屋らしい。
「信号弾は青と赤ですね!! 見えたらすぐにカッ飛んで行きますから!!!」
そんな馬鹿でかい声に送られ、俺達は城門へと走った。
「で、二人はどこで遭難を?」
走りながら、二人の行方を尋ねる。
時短のために後回しにしてしまっていたのだ。
「古戦場跡です」
「古戦場跡っスか? あの辺でレフィーナちゃんとタイドくんが勝てないような敵出るっスか?」
「まさか賊の類か?」
賊の類なら……。
タイドの命は絶望的かもしれない。
レフィーナは……生きてはいるかもしれないが……。
早合点から嫌な想像を巡らせてしまったが、ラルスの口から出たのは思いがけない言葉だった。
「いえ、古戦場跡に出現したラビリンス・ダンジョンに潜ってたんです……。そこでアントパスに襲撃を受けまして……」
……俺、帰っていいかな?
などという言葉も吐けず、頼れる先輩の見栄を切ってしまった俺は、未だ挑んだことのない高難易度ダンジョンへと向かうことになってしまったのである。