第11話:愛と友情の装飾具
いかん……。
また呑まれてしまった……。
外は既に猛吹雪。
デイスの城門は閉ざされ、俺達は家に帰る術を失ってしまった。
外部からの侵攻を避けるため、高度な魔封結界が施されたデイスの外壁を、転移魔法で超えることは出来ない。
飛行スキルで飛び越えようにも、この吹雪。
どこかへ飛ばされて、良くて全身打撲、悪くてそのまま凍死だ。
「ん~? もう起きてんのかぁ~?」
ベッドから這い出して来るシャウト先輩。
あの……なんで下着なんすか……?
「雄一さんおはようございまスぅ~。今日も寒いっスねぇ~」
いや、何で君も下着なのさ!
俺も何故かパンツ一丁だったけどさ……。
これだけははっきり言わせてもらうが、今回は全員別々の布団だ。
前回は……内緒だ。
多分、アルコールの過剰摂取が原因だろう。
何かの講習で習ったが、飲み過ぎると脈拍が上がり、脱水症状を起こし、脳の判断力が鈍り、体温が上昇していると誤解して服を脱いでしまうというのだ。
真冬の寒い路上で、酔って脱いで寝て凍死してしまう人が出るのはこのためだという。
気分の高まりから脱いでしまう人もいるようだが、俺達に限ってそれはないだろう……。
多分……ないだろう。
「うー」とか「あ゛~」とか言いながら、座り込んでフラフラしている2人。
低血圧に加えて脱水気味のようだ。
とりあえずキャンプ道具召喚でガスバーナーを出し、沸かした白湯を二人に手渡す。
「ぷはぁ……ありがとよ……」
「はぁ~。身に沁みるっス~」
ベッドの淵に並んで腰かけ、銀のマグカップで湯を飲む色白の美女×2
背景には雪の積もった窓と、パチパチと燃える暖炉。
素晴らしく絵になる光景だなぁ。
片方は白い下着のぽっちゃり体形。
もっちりと膨らんだ双房、柔らかな太腿……。
いいね……。
もう片方は黒下着のスレンダー体形だ。
筋肉質で無駄な脂肪のない、引き締まった体だ。
胸はさほど大きくないが、美しいくびれ、固くて張りのある太腿……。
うむ……! これもなかなか……。
「……」
「……」
寝ぼけているのをいいことに、2人の美しい体……特に腹回りと足を重点的に観察していたが、これがいけなかった。
白湯で適度に水分補給が為され、体温が上がり、さっぱりお目覚めした二人が俺の方を見つめているのに気づかなかったのだ。
「このド変態野郎!」
「私以外はエッチな目で見ちゃ駄目っス!」
エンジェル張り手とサンダーローキックにより、俺は羽毛布団に沈んだ。
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「いやぁ……悪いな。まさかこんなに天気悪くなるとは……」
窓辺に座り、コーヒーを飲む先輩。
あら、これまた絵になる。
カメラ召喚もつけてもらえばよかったなぁ……。
「たはは……。仕方ないっスよ。こんなこともあろうかと、ウズラちゃん達の餌箱はいっぱいにして来ましたし、まあ、お家は多少の雪なら耐えてくれるっス」
流しで食器を洗いながら苦笑するミコト。
実際ウチはかなり頑丈だ。
なんたって神様からの贈り物だもんね。
もう消滅してしまったが、天界のパンフレットによると、核爆発程度では傷一つ入らないとか何とか……。
ホントかよ……?
一応、なんか不安なのと、落ちてきたら危ないので雪下ろししているが、実際にはその必要もないのだろう。
この平和な大陸西方においては、あまりにもオーバースペックな防御力である。
「あ、保冷庫に焼きプリン入ってるぜ。お前好きだろ」
「わーい! ありがとうございますっス! あ! このお店のすごい好きなんスよ~」
「おお、お前もあそこ好きか。アタシもよく行くんだよ。この店、塩パンも柔らかくて旨いぜ」
「ホントっスか! 今度買ってみるっス!」
「ふふふ……実はその戸棚の中に……」
「やーん! 先輩大好きっス~!」
俺を挟んでガールズトークを楽しむお二人。
こういう時って、なんか出しゃばりにくいよね。
俺とミコトがイチャイチャしてる時のエドワーズ達もこんな気分なのかな。
そういえばアイツら元気にやってんのか……?
「あ、そうそう。エドからお前らに荷物預かってんぜ」
俺の思考を読み取ったかのように、先輩が物置から小包を持って来た。
一昨日の日付だ。
やたらデカくて煩い冬鳥のハーピイ便がギルドまで運んできたらしい。
ああ……あの人か……。
「ありがとうございます。アイツら元気にやってるんですか?」
「ああ、会った時は随分元気そうだったぜ。冬はカトラス山でダンジョン探索だとよ。冒険好きな奴らだぜ全く……。冬くらい休めっての」
そう聞いて安心した。
向上心ギラギラのあいつららしい……。
春になったらいよいよ実力差付けられてるだろうなぁ。
「雄一さん! 開けてみましょうよ!」
ミコトに急かされるまま、俺は小包を開ける。
中に入っていたのは、手紙と二つのアクセサリー。
片方は腕輪、もう片方はイヤリングだ。
手紙によると、腕輪は俺用、イヤリングはミコト用らしい。
なになに……?
親愛なる友人、ユウイチ、ミコトへ
俺達は今、カトラス山の地下ダンジョンを探索している。
ここはインフィートよりもずっと広大なダンジョンだ。
未だに発掘が進んでいない部分も多いし、時折ラビリンス・ダンジョンが口を開けていることもある。
道には迷うし、敵は強くてスリリングだが、良いお宝やレアな装備が手に入るんで、これがなかなか楽しいんだ。
最近、ラビリンス・ダンジョンの出現頻度が上がっているらしい。
春になったら、お前たちとラビリンスに潜りたいと思っているから、首を洗って待ってろよ!
このアクセサリーはラビリンスで入手したものだが、お前たちにぴったりの性能だ。
有効に使ってくれ。
「おお! こりゃ連撃の腕輪とエレメンタル・イヤリングだぜ! いい物貰ったな!」
先輩が二つのアクセサリーを手に取り「しかもレベルもたけーぞ」と唸っている。
どういうモノなんです?
「ユウイチ用のこれは“連撃の腕輪”だ。嵌めた腕から繰り出す攻撃が分身して2回攻撃になる。双剣とか氷飛ばす奴とか、手数で勝負するお前にはピッタリだろ」
先輩はそう言いながら、腕輪を俺の右腕に嵌める。
うーん……?
あんまり感覚は変わらないな。
「これはエレメンタル・イヤリング。苦手な属性による攻撃を緩和してくれて、それでいて自分の放つ属性攻撃を強化してくれるんだ。闇属性の瘴気っていう明確な弱点を持ってるミコトには効果てきめんだな」
そう言って、今度はミコトにイヤリングを付けようとした先輩だが、ハッと何かに気付き、俺にイヤリングを渡してきた。
「嫁にアクセサリー付けていいのは旦那だけだぜ」
「や~ん……。先輩、そんな、お心遣いありがとうございます~」
「んっス」と俺に顔を近づけてくるミコト。
とりあえずキスする。
まずは右にイヤリングを付け、もう一度キス……。
今度は左につけ、またキス……。
「似合ってるよ……」と言うと「やん……」と身体をよじるミコト。
そこでもう一回キスを……
「昼間っから盛ってんじゃねぇ!」
4度目のキスは顔を真っ赤にした先輩の張り手に遮られたが、既に最終アプローチに入っていたそれを止めることはできず、俺達はその手にチューっと吸い付く。
「ひゃああああ!」と、先輩は素っ頓狂な悲鳴をあげる。
俺の視界が白く染まり、ゴトンという衝撃が頭に響いた。