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第10話:ラビリンス・ダンジョン




「ユウイチさーん! 大変です! 大変ですよー!」



 昼前、最近できた特殊設備付きのラ……いや、レジャーホテル帰りのギルド本部。

 ギルドメンバー札を裏返し、再び冬期休業モードに入る。

 そんな俺達を、受付のお姉さんが呼び止めた。

 いやあの……吹雪だす前に帰りたいんですけど……。



「昨日ユウイチさんが発見した下水道の魔物なんですけど、ラビリンス種だったんです!」



 ラビリンス種……?

 なにその微妙に滑舌を試される種は……?

 ポカンとする俺達の顔を見て、受付のお姉さんががっくりと肩を落とした。



「えぇ……ユウイチさんまたですかぁ……?」


「す……すみません……」


「ラビリンス種っつーのはな、ラビリンス・ダンジョンで生まれた個体のことを言うんだよ」



 聞きなれた声に振り返ると、シャウト先輩が立っていた。

 ただ、今日は冒険者スタイルではなく、髪を下ろしたオフモードだ。

 久々に太陽が見えたので、散歩がてら寄ったらしい。



「ラビリンス・ダンジョン……っスか?」


「……まあそんなことだろうと思ったぜ。いいか、ラビリンス・ダンジョンってのは、強力な魔力の歪みによって生まれるダンジョンのことだ。いろんな説があるんだが、このダンジョンは生きていると言われててな、入るたびに景色が全然違ぇんだ。それ故に迷宮……つまりはラビリンスって呼ばれるわけだな」



 ほへぇ……。

 ……で?

 そんな異次元生まれの魚人がなぜ下水道から……?



「そうです! そこなんです! 開いちゃってたんですよ! ラビリンス・ダンジョンへの入口が!」


「下水道に!?」


「そうなんですよ。正確には、下水道の分水槽の底に開いてたらしいです。既にギルドナイトの方がダンジョンに潜って攻略して塞いだそうですが」


「あ~。それで前より匂いがキツくなかったんスね……。感知スキルの気配はその中の魔物に反応していたと……。澄んだ水もラビリンスから流れて来てた訳っスか……」



 なんてとこに開いてるんだよ迷宮への扉……。

 あと、ギルドナイトの人ありがとう……。

 俺はあんなとこ潜るの無理だわ……。



「とまあ、そういうわけで、危険を未然に防いだことへの臨時報酬として金一封が支払われます。おめでとうございます!」


「ああ、それはタイドくん達のパーティーにあげてください。彼らが受注したクエストみたいなもんなんで」



 そう言って報酬を突き返し、俺達は颯爽と本部の門を抜け……。



「いや、ちょっと待てや。久々なのにもう帰る気か」



 先輩に襟首をむんずと掴まれ、俺とミコトは引き戻された。

 「まあ、一杯くらいつき合え」と言われ、ズルズルと飲み屋街まで運ばれていく……。



「いえあの……。雪降りだす前に帰りたいんですけど……!」


「あ? 降ったらウチに泊まって行きゃいいだろ。オメーら用の寝具も買ってあんだから」



 先輩なんかつき合いが粘着質になってません!?

 テレポートで逃げるわけにもいかず、俺達はそのまま、昼から呑みの席につかされてしまった。




////////////////




「あっはっはっは! そうか! オメーらも後輩に愛想つかされたか! あっはっは!!」


「笑いごとじゃないっスよぉ……あの子達心配っスよぉ……」


「レフィーナ頼みの戦力のまま、あの子基準でクエストの難易度上げていったら正直ヤバいだろうなぁ……」



 3軒目にして、すっかり出来上がって陽気になったシャウト先輩と、昨日のことを思い出し、少しブルーになる俺達。



「いやぁ、まともな神経してて、ちゃんとした実力のある奴なら、近いうちにお前らのとこへ詫びに来るだろぉ! しかしお前も後輩囲ってるとはなぁ! リーダーの悪いとこ受け継いじまってんじゃねぇの!? あっはっは!」



 ちょっと先輩飲み過ぎじゃね!?

 まあ、楽しい良いお酒だから悪い気はしないけど……。



「まあでも、お前らがそいつらを見込んだんなら、ちゃんと様子は伺ってやれよ? どっかのバカどもみたいに、半端者の雑魚の癖にやべー熊と単身戦おうとした連中もいるからなぁ」


「てへへ……っス」


「でも、あの子達に俺らの助けなんているんすかねぇ? 特にあのレフィーナって子、多分来年には俺達より強くなってますよ?」


「はぁ~……ユウイチは一々卑屈なとこあんだよなぁ……。まあ、確かに第一線で戦える実力かっつーと全然ダメダメだけどよ、その能力の応用力と判断力は2年目にしちゃ上出来すぎるぜ。そもそもこの仕事のこと考えりゃ、生きてるだけで御の字なんだからよ」



 そう言って肩を組んでくる先輩。

 む……胸が当たってます……。

 負けじと反対側から腕にしがみ付いてくるミコト。

 君なに張り合ってるの!?


 でもまあ、俺達が確かに彼らに肩入れして、後押しをしたのは間違いない。

 子育てではないが、多少の反発を受けた程度で放りっぱなしにするのは無責任というものだろう。

 戦力的に俺達が教えられることは少ないが、経験なら多少はお手本を見せられるのではないだろうか。



「そうそう、オメーらは気の向くまま色んなクエストに手を出した手前、年数の割に色んな街に行ってるし、珍しい戦闘も経験してる。何より、“引き際” “逃げ時” の重要性が身に染みて分かっただろ? それをあいつらに教えてやりゃいいんだよ。まず生きて、成否に関わらず報告を持ち帰ってこその冒険者だろ?」



 今度は俺とミコトの間に割って入り、グリグリと頬擦りをしてくる先輩。

 言ってることははっきりしてるのに、随分目が座っておいでで……。

 でも、普段の荒っぽい言動の陰で、ちゃんと俺達の事見てくれてたんだなと、嬉しく思う。

 不器用とはいえ、影から俺達のこと助けてくれたもんね……。

 俺達もそろそろ、後方先輩面で彼らを陰ながら支える時が来たのかもしれない。



「お前らもアタシの気苦労が分かるようになったかー! 泣かせるじぇねーか! もう一件行くぞ!」


「いやあの雪……」



 いつの間にか降り出した雪の中、俺達は4軒目の酒場へ引きずられていくのだった。


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