第5話:いい感じに麹を仕込もう
ここに、いい感じに炊けた米(的な穀物)がある。
それをまあ、いい感じの温度に調整し、甘酒を回しかける。
多分、コレでいけるはずだ……。
多分……。
せっかくの品をこんな形で使い切ってしまい、サステナには申し訳ないが、これもうま味の夜明けのためである。
彼女直筆の手紙を見る限りでは、この甘酒は加熱殺菌されていない。
麹菌が生きている可能性は十分にある。
こいつを米の上で培養し、コウジカビを発生させることができれば、醤油や味噌を作ることができるかもしれないのだ。
「しかし、まさかインフィートで無毒化された麹が作られているとは思わなかったっスね」
「神樹の葉や木は毒消しの作用が強いって聞くしな。たまたま保管されてた穀物に生えたカビが代を重ねるうちに無毒化されたのかもしれない」
「これを保管していた祠が天然の麹室になってたってことっスね」
いい感じになっている米+甘酒を、急ごしらえの木造倉庫に運び込む。
ここを麹室に仕上げ、コウジカビを培養するのだ。
室温調整や湿度調整が面倒だが、やると言ったからにはやるしかない。
そういうの専門のパートナーアニマル捕まえようかな。
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技術も知識も中途半端な俺達が、「いい感じになれ……」「いい感じになれ……」と、随分適当に試みたコウジカビの育成だが、俺のスキルの幸運ゆえか、それとも幸せを運ぶ天使が傍にいたためか、順調かついい感じに進んだ。
「おお! 生えてるっスよ! 白くてモッフモフっス!」
1日後にはコウジカビがモフモフと生え。
「凄いっス! お米がテロッテロになってるっスよ!」
3日後には米が原型を留めないほど分解され、「麹」が出来上がった。
それを煮たマメをすりつぶしたもの、塩と混ぜ合わせ、樽にみっちりと詰め合わせる。
これを常温で4か月~1年放置すれば、味噌が出来上がるという寸法だ。
現代日本ではすっかり廃れてしまった文化だが、昔の町民たちは自前で味噌を作っていた。
そして、そこから取り出した余分な水分を「たまり醤油」としても活用していたと聞く。
まさか異世界で古式ゆかしい日本文化に接することになるとはな……。
この季節に大樽いっぱいのマメを買ったもんだから、かなり手痛い出費ではある。
だが、手前味噌完成とあらば、俺達の異世界飯ライフは爆発的に進歩する。
これは無駄ではなく、未来への投資である。
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麹を作ってからおよそ2週間。
余った麹は風に当てて乾燥させておいた。
所謂乾燥麹というやつで、この状態にすれば、かなりの長期間保存がきくらしい。
味噌が出来上がるのはまだ先だが、俺達はすぐに楽しめる麹料理を既にモノにしていた。
その一つが甘酒である。
米は主食なので、あまり作りすぎるのは良くないが、寝る前に温めて飲むと、免疫力の増進になる。
おかげで今のところ風邪知らずだ。
そしてもう一つが塩麹。
現代日本でも一時大ブームになり、その後一定の定着を見せたコレは、食材に麹のうま味をエンチャントする優秀な調味料だ。
新巻ボニートサーモンに塗ったり、ボニートゴイに塗ったり、汁物に加えるだけで、ほんのりとした甘みと強いうま味が加わって、冬の味覚にさらなる彩を加えてくれる。
「鮭と鯉だけじゃもったいないなコレ!」
「魚の煮つけとかに使いたいっス!」
「煮つけかぁ……。丁度いい魚いたっけかな?」
「カサゴ的なのいないっすかねぇ?」
カサゴかぁ……。
バーナクルにはメバルに似た魚がいたし、カサゴっぽい魚もいるだろうけど、今は行けたもんじゃないし……。
ロックフィッシュ系かぁ……。
……いるな。
川にいるロックフィッシュが。