第4話:夜明けは近い
翌日、覗いた晴れ間を突いて、先輩は無事、デイスへの帰路についた。
淫魔に襲われたらまた来るわと言っていたが、セグロハヤの頭の焼き干しをたっぷり渡しておいたので大丈夫だろう。
「こんなもん玄関に飾ってたらやべー奴に思われねぇかな……?」などと言っていたが、大丈夫です先輩。
一般的に先輩は怖くてヤバいヤンキー冒険者です。
「淫魔め……先輩に手を出すとは太ぇ野郎っス! 今度会ったら絶対成仏させてやるっスよ!」
うちの天使もちょっとヤバいとこある。
それはそうと……。
「久々に2人きりだね……ミコト……」
「そうっスね……」
ミコトの肩を抱くと、スッと胸に頬を寄せてくる。
シャウト先輩の後姿はもう見えなくなっていた。
「お風呂沸かす?」
「もう沸かしてるっスよ」
「まったく……お前は食いしん坊だなぁ……」
「天使は愛が主食っスから……」
そんなことを言いつつ、俺達は身を寄せ合い、家の中に戻ろうとした。
その時。
「ちょーっと待った―!! 受け取りサインお願いしまーす!」
凄い声と共に、白い翼のハーピイが突っ込んできた。
彼女は俺達の目の前に着地しようとしたようだが、狙いを大幅に見誤り、凍った生簀に着地してバキバキと氷を割って沈んでいった……。
いや、沈んでいった……じゃない! 助けないと!!
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「たははー! 申し訳ない! 私急に止まれないもんで!」
うおっ……。
さっきまで凍えかけだったのに声がデケェ……。
あと図体もデケェ……。
180ある俺より二回りはデカい。
ここらでは見かけないけど、白鳥種の方かな?
しかし、ミコトが風呂沸かしてなかったらどうなっていたことやら……。
「はい、温かいサーモン汁っス。 慌ててお荷物運んだら危ないっスよ?」
「いやー! すみません! 配達慣れてないんで多めに見てください!」
な……なんか図々しいぞこの人……。
「はっ! そうだそうだ! コレをお渡ししに来たんです! インフィートの……サステナ町長からの贈り物ですって! 惚れられてるんですか~!? いよっ! 色男!」
なんか調子狂うよこの人!
んで、どうしてミコトは微妙に嫉妬顔向けてくるの!?
まあ気を取り直して包みを開ける。
おっと、濡れてない。
こんな雰囲気でも守るべき荷物は守り切ったのか……。
ちょっと見直した。
インフィート産の上質な紙包みの中には、これまたインフィート産の立派な鉄の四角い缶。
そしてその中には、美しい竹の箱……。
インフィート特産マトリョーシカ……?
竹の箱を開けると、その中にさらに竹の筒が3本あったので、流石にこれで最後だろう。
一本は恐らくスパイスの類だろう。
振るとサラサラと鳴り、良い香りがする。
残りの二つには液体が入っているようだ。
「あ! そうです! お手紙も預かってるんです!」
そう言って取り出した手紙は……。
ビッタビタじゃん!
ダメじゃん!
恐る恐る封筒を開けると、何と! 中身は全く濡れてない!
白鳥の人は「インフィートの紙と糊の質を甘くみてはいけませんな!!」とか笑ってる。
ちょっとイラっときた……。
「えーっと……。ボニートサーモンありがとうございました。皆で美味しくいただいております。贈り物に重ねてしまうようでお恥ずかしいのですが、以前のお礼と、収穫祭でのご活躍に対する感謝に変えて、わが町最高級の食材をお送り致します。とのことっスよ!」
ミコトが読み進めると、それぞれの筒に入った食材の詳細が書かれていた。
粉は、神樹の実の芯だけをすりつぶしたもの。
食材にまぶすだけで、神の世界を覗き見できるほどの美味に変えるそうな。
……食って大丈夫なやつ?
液体の片方は、神樹の実の中身を、神樹から湧き出る水にさらし、神樹の中心にある祠に祀っていたもの。
不思議な香りと味で、祝いの場でのみ振る舞われる貴重な逸品だそうだ。
そしてもう片方は、それをさらに1年置き、上澄みだけを濾し、神樹の葉で幾度もろ過を繰り返すことで、さらなる深みとうま味を醸し出した……。
これってもしかして……?
「うわぁ! 日本酒みたいな匂いっスよこれ!」
解説を読みながら、早くも我慢が出来なくなったミコトが早速、3つ目の筒を開けている。
彼女が差し出す筒を嗅ぐと、確かにこれは日本酒によく似た香りだ。
極めて原始的だが、2段階の発酵を介している。
その製法は、いつか酒造で見たものに似ているように思う。
つまり、このもう片方の筒の中身は……!
食いつくようにその蓋を開けると、ふんわりと香る甘い匂い。
間違いない! 甘酒の一種だ!
転がり込んだブレイクスルー。
寝転がるハーピイ一先ずスルー。
「ミコト!」
「雄一さん!」
「「発酵の夜明けだ―――!」っス―――!!」
「はっ! 夜明けですか!? え! まだ昼!? うわ! ちょっとなんですか! なんですか!? て……照れます! はっはっはー!!」
夜明けの火種を届けてくれたハーピイを担ぎ上げ、俺達は「かしこみー! かしこみー!」と叫びつつ、庭をグルグルと回り続けた





