プロローグ:冬到来 テーマは美食
温かい毛布の中で、温かいムニムニとしたものが動いている。
そっと抱き寄せれば、子猫のようにすり寄ってくる。
「ん~……雄一さんおはようございますっス」
目を細めながら、かぶっていた布団の中から這い出して来るミコト。
湯たんぽのように温かい彼女の身体をグッと引き寄せ、頬擦りをする。
彼女もまた、俺の背に腕を回し、互いの体温を感じ合う。
この冬の朝はずっとこんな感じだ。
クエストにも追われることなく、釣りも大体オフシーズン。
大体昼前まで二人で惰眠を貪り、雪下ろしや雪かきをして、またグータラし、一日が終わる。
ああ……。
なんていい季節。
釣りモノが少ないのが玉に瑕とはいえ、何も気にせず、最愛のミコトとノンビリできるのは素晴らしい。
「お腹減ったっス……。あとお腹揉み過ぎっス!」
バサッと毛布を脱ぎ、起きようとしたミコトだが「うわっ! 寒いっス!!」と布団の中に逆戻りしてきた。
だって暖炉消えてるし……。
「雄一さん。暖炉つけてきてほしいっス」
「ジャンケン」
「やーっス!! 雄一さん運良いから絶対負けるっスもん!」
「じゃあキス息止め我慢勝負」
「それも駄目っス!! 雄一さん潜水スキルでズルするっスもん!」
「じゃあ先っぽ当てゲームで」
「朝からエッチなことは駄目っス! それに雄一さん……一発で当ててくるじゃないっスか……」
結局、俺が召喚した防寒フィッシングウェアを幾重にも重ね着し、二人で暖炉まで向かうことにした。
重ね着のし過ぎで動きが鈍くなり、宇宙飛行士の隕石爆破ミッションのような絵面であった。
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部屋が温まれば、やることは一つである。
ジュル……ジュル……。と、何かを啜る音、クチュクチュと何かを掻き舞わす音が、暖炉のパチパチという音に混じる。
「フゥ……フゥ……しょっぱくて……美味しいっス」
「こっちももう、だいぶトロトロになってきてるぜ……」
朝飯兼昼飯は、もちろん、新巻ボニートサーモンの鮭茶漬けだ。
付け合わせのめふんも、熟成が進み、トロトロとしたいい舌触りになっている。
どちらもたまらなく旨い。
旨い……が。
「飽きてきたっスね……」
「飽きてきたな……」
冬のたんぱく源をこの新巻ボニートサーモンに絞ってしまったせいで、俺達は新たな問題に直面していた。
飽きである。
まあ、去年のことや、この世界の冬の厳しさを思えば、贅沢な悩みなのかもしれないが、やはり飽食の時代からやってきた現代人と現代天使。
少し満たされると、すぐに他の欲求が顔を出すのだ。
「行くか。冬の旬を探しに」
「賛成っス!」
早速、俺達は召喚した防寒具を着込み、白銀の世界へを足を踏み……。
ビュオオオオオ
ドサッ
ドアを開けた途端、凄まじい冷気と共に、屋根から雪の塊が落下してきた。
窓が雪で覆われていて気付かなかったが、外は猛吹雪だったのだ。
「「今度にしよう」っス」
と、俺達は冷静で的確な判断のもと、全力でドアを閉め、全力で風呂場へ走ったのだった。





