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第36話:モーレイ川を見下ろして




 往路で野営した小高い丘の上で、キャラバン隊は一時停止し、束の間の休息をとる。

 日はすっかり登り、もう昼前だ。

 昼食をとっている間も、俺達は交代でボウガン銃座につき、山側の賊や野生動物に目を光らせる。



「いや、悪かった。説明が足りてなかった」



 隣の銃座で尻をさすりながら謝るエドワーズ。

 あの突然襲ってきた熊、通称を「賊付き」という。

 賊の近くに付いていれば、賊が破壊したキャラバンの荷物や、怪我をしたり命を落とした騎手や客、さらには反撃に倒れた賊を食えると学習した野生動物の総称らしい。

 熊の他にオオカミの群れなんかもいるそうで、ある意味賊そのものより危険だそうだ。


 賊を相手にするには随分と大掛かりだと思ったこの重ボウガンも、そんな大型肉食獣対策と考えれば頷ける。

 まったく……。

 そういう細かい部分までちゃんと説明しとけよな……。

 しかしこの様子じゃ、釣りしてる暇はなさそうだ。

 帰りは楽になるかと思ってたんだけどなぁ。


 振り返ると、モーレイ川は今日も生命感でいっぱいだ。

 トビバスのライズ、小魚のざわめき、そして、団長が話していたシュモクオオナマズと思しき巨大魚の捕食。

 釣りしてぇなぁ……。



「お前が何考えてるかは分かるが、今度プライベートで来いな?」


「分かってるって。しかしまあ、仕事と思わなきゃすげえいい景色だよなこの辺」


「お前もそう思うか。オレもここから見る風景好きなんだよ。デカい川、デカい山、デカい平原……。辺鄙すぎて旅行客も来ねぇけど、金では買えない感動があるよな」


「なー。季節もいいし」



 そんなことを言いながら、背中合わせに雑談をしていると、ふと、視界の隅に見覚えのあるハートマークが映った。

 ん?

 アレは……ハーマレットか。

 こんな上流まで遡上してくるんだな。


 スズキやボラ、サケなんかは、海水と淡水両方に適応できるホルモンを持っているので、塩分を含まない上流まで上がることができる。

 田園風景広がる小川でフナ釣りをしていたら、ボラに竿を折られた、スズキにフナを食われたという話もあるくらいだ。


 思えばこの川、上流域まで落差が殆ど無く、川幅もあまり変わらないという不思議な川である。

 起点はどうなっているんだろう?

 この川で釣りするのもそうだが、最上流部を見るためにまた訪れたいなぁ。


 ゾロゾロと遡上していくハーマレットの群れをのんびり眺めていると突然、その背後で巨大な水柱が上がった。

 赤い色が緑がかった大河に映える。

 うわ! 西チミドロヒグマ!


 どうやら、川沿いを徘徊していたらしい。

 もしかすると、あのあたりを縄張りにしていた個体が俺達に倒されたためにやってきた新参者かもしれない。

 とっさにボウガンを旋回させたが、エドワーズに制止された。



「大丈夫だ。魚食い漁ってるやつは滅多に襲ってこねぇよ」


「ほ……本当か……?」


「お前熊トラウマになり過ぎだろ……」



 まあ確かに、そういう謂れは元の世界のヒグマにもある。

 そんな中でも襲撃されて食われたカメラマンの人とかいるから油断ならないんだけども……。

 この距離なら襲ってきても対処できるか……と思い直し、俺はボウガンを元の方向に戻した。


 飛び跳ねるハーマレット、釣られて飛び交うトビバス、そんな中で巨大なハーマレットをひと噛みで咥える熊。

 どこからか鳥も集まってきて、トビバスを捕まえていく。

 やがてシュモクナマズも現れ、ボラを、バスを、そして鳥をも吸い込んで捕食する。

 まさに自然の饗宴だ。



「おー。すーげぇことになってるがな」



 いつの間にか団長が屋根に登って来て、川を見降ろしていた。

 大興奮の俺に比べ、どこかその表情は険しい。



「この様子だとロウネリアが出るかもしれねぇ……。さっさと出発するが」


「ロウネリア……って昨日話してた海から上がって来る巨大魚ですか?」


「そだが。ハーマレットを追って遡上してくることがあるんだがな。アレが来ると色々厄介だが」



 そう言って華麗なジャンプで騎手席に座ると、出発のベルをカラカラと鳴らした。

 ガールズと下世話な話で盛り上がっていた女騎手の人や、見習い騎手の人らが忙しなく自分の担当する荷馬車に走っていく。


 海から上がり、羊や馬をも食う怪魚ロウネリア……。

 お目にかかりたかったんだが、残念。

 次来た時にお預けだ。

 車列は再び直線になり、早足で山脈の北端を目指して出発した。


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