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第34話:拠点へ帰るまでがキャラバンです




「それじゃあ出発するが……君ら随分眠そうだが……? 大丈夫か?」



 明けて翌朝。

 キャラバン車列はバーナクルの生鮮食品や日用品を満載し、再びランプレイへ向けて出発する。

 ハーマレットの卵巣の血抜きの後、日も登らぬ夜明け前から塩揉みをしていた俺とミコトは、すっかり寝不足だった。

 とりあえず眠気覚ましのパープルハーブと体力回復のグリーンハーブを頬張り、無理やり体と脳を覚醒させる。

 まあ、所詮は栄養ドリンク的なものなので、万全ではない。



「お前ら~……依頼中の冒険者として失格だぞ~……」



 ごもっともなことを、ヘロヘロな口調でのたまうエドワーズ。

 お前も大概じゃねーか。



「シャウト先輩に言われた通り、ちょっと肩の力抜いて夜遊び歩いたらこのざまだ~……」


「お前も相変わらず真面目なのかバカなのか分からんな……」


「いつかマービーが戻ってきた時、今度は俺がアイツを飲み歩きに誘ってやれるくらいになっていたいからな~……」


「お前結構気にしてたんだな……」



 二日酔いでヘロヘロのリーダー殿を荷馬車のロフトに寝かせ、毒消しのブルーハーブを咥えさせてやる。

 これにはアルコール分解促進作用もあるのだ。



「今日は俺が先頭車両に乗ってるから、酔いが抜けたら代わってくれ」


「すまんユウイチ~……よろしく頼む~……」



 「お姫様抱っこ……キテルキテル……」という呟きが後ろから聞こえた気がするが、スルーした。

 この世界のお腐れ様ってどうやってそういう成分摂取してるのかしらね……?

 そんなことを考えつつ、先頭車両の屋根に座る。

 ……ちょっと緊張するなこれ。



「まあ、今日予定してる行程では危険な地域を通らないが。肩の力を抜いて見張ってくれるといいが」



 必要以上にキョロキョロする俺を見かねたのか、団長が気さくに声をかけてくれた。



「ええ。自分でもそのつもりなんですが……。キャラバン防衛の先陣って経験無いんで……」


「おろ? 君はエドくんの同期と聞いたが、そんなもんなのかい?」


「エドワーズが抜きんでて頑張ってるのもありますが、俺は一定レベル以上のクエストを滅多に受注しないんですよ」


「そりゃ意外だがな。飛行スキルとテレポート持ちなんて引く手数多だろうに」


「まあ……引く手は割とあったんですが、全部断りました。忙しいと釣りができなくなるんで」


「ほえ~……変わった奴もいるんだなぁ。そういえば行きも釣りしてたっけな」



 団長は話してみるとフランクな人で、意外に会話が弾む。

 キャラバン歴は相当長く、昔は大陸横断キャラバンの大部隊を率いたこともあったらしいが、危険な生物、幻獣、魔獣との戦いで部下を一気に失い、また、内紛や商工ギルドの縄張り争いによるゴタゴタに嫌気がさして、50年前にこの地域へ逃れてきたそうだ。


 そしてランプレイの穏やかな気候や人柄に惚れこみ、この地域に根付いて生計を立てているそうな。

 「収入は10分の1だが、悩む回数も、悲しむ回数も10分の1、笑う回数は10倍だがな」と言ってアッハハと少し間の抜けた感じで笑う団長。

 エドワーズがこのキャラバンに入れ込んでたのも、団長のキャラあってのものかもしれないな。


 ていうか、昔の話をするまで気が付かなかったが、団長ドワーフなのね。

 ちょっと小太りで髭が濃いとは思ったが、背は割と高く、顔立ちはかなり精悍だ。

 団長モテるでしょ。

 と言うと、「さあ、どうだが」と笑っている。



「そうそう。釣りと言えばなんだが」



 俺の本心からのお世辞に気を良くしたのか、団長はこの辺りの魚にまつわる情報や伝説を語りだした。


 モーレイ川の大魚「シュモクオオナマズ」

 ランプレイ方面の最西端に位置する「花の岬」に現れるという幻の怪魚「ソウカク」

 海から上がり、牛や馬を襲って食らう「ロウネリア」

 カエルになり損ねた恨みで異形の怪物となった巨大オタマジャクシ「ディプロポール」


 その他、実際に彼が見たものから、口伝される真偽不明の生き物まで、色々と興味深い話を次々繰り出す団長。

 俺はもう見張りそっちのけでメモを取りまくる。


 気が付いた時にはもう、モーレイ川の河口部にかかる干潮の道を渡り切ったところであった。

 うん……俺普通にキャラバン護衛失格だと思うわ。



「アッハハ。まあ、バーナクルからここまでで悪党や危険な動物に襲われることは滅多にないが。君くらい気を抜いて構えてるくらいが丁度いいが」



 褒められてるのか、皮肉なのかよく分からない評価をもらってしまった。

 この先は気を付けよう……。

 そう思って鎧の帯を結びなおしていると、何とか復活したエドワーズが荷台から這い出してきた。

 「流石にここからはお前に先頭は任せられねぇ」とのこと。

 ハイ……ごもっともです……。

 俺はさっさと自分の元の持ち場、即ち2番車両へ戻った。



「とりあえず、今日はこの辺にしておくが。明日は夜を徹して一気にランプレイ山脈東側を抜けるから、みんな武器の手入れをしっかりやって、早めに休んでおくといいが」



 団長はそう言うと、海岸に突き出した小高い岬に部隊を誘導する。

 そして器用に車両を旋回させ、円陣を組ませ、登ってきた坂を狙う重ボウガンを2基、荷台の上に設置した。

 突然登場した物々しい武器に俺がキョトンとしていると、サラナが寄ってきて「復路が一番盗賊に襲われやすいのよ」と、シレっと言った。


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