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第30話:ランプレイ山脈東側を行く




「おー! 凄い凄い! 上流域でも結構川幅広いんだなぁ!」



 俺は今、キャラバンの上空を旋回しながら外敵の襲来を警戒している。

 ついでにいつかまた訪れる時のため、釣りができそうなスポットを探しておく。

 キャラバンが進む道の東側を流れるモーレイ川は、モーレイ山から流れ出る大河である。

 この山は以前、イカの貴重な出産ショーの舞台となったへリング高地の北側に位置する火山で、火山活動は殆ど無い。

 そのため、モーレイ川はカトラスの河川のように酸を帯びていないようだ。


 川幅は上流域でも広く、至る所で魚のライズと思しき水柱が上がっている。

 魚の正体を突き止めるべく目を凝らしていると、見覚えのある魚影が水面から飛び立った。

 お! トビバスだ!

 そういえば元は西端に生息する種って受付のお姉さん言ってたな。


 と、突然その背後から、黒く、平べったい影がボコッ!と浮かび上がってきた。

 同時にバシュ―!と大きな音と水柱を上がる。

 水面を割った巨大な口が、飛び立ち遅れた大きなトビバスを一飲みにしてしまった!

 なんだアレ!? ナマズ? それとも両生類の類?

 もっと近寄って確認したい!



「おい! ユウイチ! 川ばっか見てないでちゃんと見張ってくれよ!」



 エドワーズの叫び声にハッと気が付くと、俺はキャラバンの隊列を大幅に逸れ、殆ど川の上空を飛んでいた。

 キャラバンの団長は俺のレアスキル持ちとは思えない体たらくに苦笑いを浮かべている。

 いかんいかん……。

 エドワーズパーティーの評判を落としかねない失態だ。

 俺は慌てて隊列の上空に取って返し、見張りを再開した。

アレの正体突き止めたかったなぁ……。


 しかしまあ……。

 道はしっかりと整地されているし、所々に集落も見える。

 無人の大自然に、暴れまわる野生動物! といった状況を想像していたのだが、割と平和だ。



「まあ、今日はここらで野営と行くが」



 団長の一声で、車列は川を見降ろす小高い丘でゆっくりと停止し、円陣を組んで野営の体制に入った。

 後ろを見れば、青とオレンジ色の織り成す夕暮れのグラデーションを背景にしたランプレイ山脈が美しい。


 昨晩も思ったのだが、このキャラバン、なかなか快適である。

 各車両には、馭者用の寝台があるし、荷台の屋根裏にはロフトもある。

 雨よけの幌屋根を展開した円陣の中心で焚火をすると、気分はちょっとした祭りの屋台気分だ。



「この地域はちょっと治安が悪いから、今晩は二人一組で見張りをしよう」



 えぇ~……。

 と、言いたいところだが、安全を考えれば当然か。

 エドワーズとミコトが先に、その後俺達が明け方まで俺とサラナが見張りをすることになった。

 ちなみにコモモは緊急の魔法戦闘員として仮眠待機だ。

 いや何で!?

 どうして俺とミコトを引き離すの!?



「いや、感知スキル持ち二人って役割被ってるだろ……」


「まさかエドワーズさん……私を狙って……」


「てめぇそんなの許さねぇぞ!」

「許さねぇっス!」


「いいからお前は寝ろ!」



 などと冗談を交えつつ、俺は2番車の屋根裏のロフトに潜り込んだ。

 寝る前に、エドワーズとミコトの尻の下へ、釣り用のクッションシートを召喚しておいた。

 これで数時間の見張りも多少はマシになるだろう。

 日中飛行スキルを多用したためか、横になった途端猛烈な睡魔が襲ってきた。




////////////////




「雄一さん……。雄一さん……」



 ミコトの声が聞こえる。

 目を開けると、彼女の顔が目の前にある。

 すごい眠そうな顔してるな……。



「交代っス」


「おう、お疲れ。エドワーズに変なことされなかったか?」


「されてないっス。すみませんめっちゃ眠いんスよ……。おやすみなさいっス……」



 ミコトはジョークを交わす余裕すらないほど疲弊した様子で、俺の寝床に転がり込んできた。

 俺は彼女を起こさないよう、ゆっくりとロフトから這い出る。


 外へ出ると、満点の星空が広がっていた。

 晩秋のヒンヤリとした風が頬を撫で、眠気を散らしていく。

 ちょっと寒いな……。



「おはよう。久々のチームね」



 先に起きていたサラナは、既に第3車両の屋根に座っていた。

 「ちょっと口空けてみて」というので、それに従うと、口の中に丸い水の玉が放り込まれた。

 何だこれ! 口がスース―する!



「歯みがきの治療魔法よ。泡魔法と浄化魔法の応用で私が編み出したの。どう?」


「へぇ! そんな応用も出来るのか。ハァ~……。うん、いい感じ」



 歯はツヤツヤとしているし、口臭も全然気にならない。

 便利な魔法もあったもんだ。

 旅先だとなかなかできないもんね、お口のケア。



「さて、見張ろっか。チミドロヒグマやネムリトラは夜行性だから、気を張ってね」


「言われなくともそうするよ。特に熊にはトラウマがあるもんでね」



 俺も2番車両の上に座り、感覚を研ぎ澄ます。

 秋風に乗って聞こえてくるのは、焚火の燃えるパチパチという音と、秋の虫たちの歌声だけだ。

 うっかり目でも閉じようものなら、そのまま寝てしまいそうなくらいに心地のいい音色……。



「ねえねえ。ミコトとユウイチっていつ結婚予定なの?」


「えっ! 何だよいきなり」


「いや、あんなにラブラブなのに、いつ結婚するのかなって」



 それ今する話かよ……。

 と思ったが、サラナ曰く、夜の見張りは軽口でも叩きながらでないと、うっかり眠ってしまい、危険なのだという。

 まあ、確かにそれは思った。



「俺はこの大陸の制度に疎いんだが、ここでは結婚=冒険者稼業引退みたいなもんなんだろ? 俺はまだ色々とやり残したことがあるんでな」


「それ、ミコトの気持ち考えてる?」


「まあ、一応アイツは俺の意志に従うって言ってくれてるし……」


「それきっと方便だよ~! 内心では早くユウイチとくっつきたいに決まってるじゃない!」



 そりゃ分かるけどさぁ……。

 まだ大陸西の魚も釣りきってしてないし、なんか法王サマから変な使命予言されちゃうしで、身を固めるにはまだ早いだろう。


 というか、結婚したところで、その後どうすればいいんだろうか?

 式でミコトに可愛いドレスを着せてやりたいという意志はあるが……。

 農地を開拓して農夫に転向?

 家を広げて、養子でも迎えて幸せ大家族計画?

 どうもピンとこない……。


 呆れ顔のサラナを尻目に考え込んでいると、ピシッ……ピシッという、聞き覚えのある、薄氷を踏みしだく様な感知音が脳内に響いてきた。


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