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第29話:キャラバン出発!




「それでは出発しますが。エドくん、大丈夫ですかい? 前とメンバーが違うようですが」



 キャラバン団長のおじさんが目を細めながら言う。

 秋に解散するパーティーは云々の法則に則り、エドワーズパーティーの先行きに不安を覚えている様子だ。

 エドワーズは苦笑いを浮かべつつ、俺達を指さした。

 いや、指さすな。



「マービーはちょっと手が離せない仕事をもらっちゃいましてね。でも、アイツに勝るとも劣らない臨時メンバー連れて来たんで、今回も大船に乗ったつもりでいてください!」



「よろしくお願いするっス!」


「ウェーイ」


「ユウイチお前やる気あるか……?」



 そりゃ、あるか無いかで言われたら無いが……。

 去年の冬の恩に報いる意思はある。

 「全くお前は相変わらず……」と言いながら、エドワーズがキャラバンの先頭荷馬車の屋根に乗った。


 俺とミコトは2番車両、サラナとコモモはそれぞれ3番車、4番車に乗る。

 感知スキルで索敵できる俺達が先頭と殿を務めた方がいいと思うのだが、これらは真っ先に敵の攻撃を受ける可能性があることから、手慣れた者がついた方がいいという。

 俺とミコトは車列の中央で背中を合わせ、感知スキルと目視で野生動物や魔物、盗賊の類を見張ることになった。

 ちなみに、今回運ぶのは、綿花と布製品、そして食用油である。


 「それじゃ出発ですが」というキャラバン団長の気の抜けた声と共に、車列は砦からゆっくりと出発する。

 今回の工程は。


 1日半かけてランプレイ山脈の西側を北上し、山脈の北端を通って東側に回る。

 そしてその後は山脈の東側を、モーレイ川を左手に見ながら1日ほどかけて南下。

 川の河口部で潮が引くのを待ち、干潮の時にのみ現れる道を渡り、バーナクルへ向かう。

 そして、バーナクルからの荷物を積み、同じ道を辿って戻る。

 

 の延べ6日~7日。

 往復のキャラバン護衛としてはかなり短めらしい。

 鉱石や繊維の大陸横断キャラバンとかだと片道のみで1ヶ月とか普通だそうだ。

 俺絶対無理だわそれ……。


 ガタガタと揺れるキャラバン車両の上でミコトと背中を合わせ、目を皿のようにして周辺を睨む。

 当然だが、お互い武器をがっしりと掴んで臨戦態勢だ。

 辺りには背の高いトウモロコシ畑が広がり、人影や獣の姿は全く確認できない。

 いつ、どこから襲撃が来るか分からないのだ。


 ふと、エドワーズの方を見ると……。

 オイ! 何寝てんの!?



「んあ? 言ってなかったっけ? この辺は肉食動物も魔物も生息してないから大丈夫だぜ。この辺はちゃんと地元の自警団が頑張ってるからな」



 俺の叫び声に、気だるそうに返事をするエドワーズ。

 お前こそやる気あるのかよ……。

 と言いたいところだが、経験者談である。

 長期戦になるキャラバン護衛では、休めるタイミングではしっかり休んでおかなければならないのだ。


 「気を張らなきゃいけない場所になったら言うから、それまではノンビリしてていいぞ。それにお前は感知持ちなんだから、そんな緊張感持たなくてもいいだろ」ともっともなことを言ってくる。

 まあ、それもそうか……。

 普段からお百姓さんが働いてる畑にそんなヤバい動物出たら農業どころじゃないもんね。



「それじゃお言葉に甘えるっスかね~」



 と、ミコトがゴロリと寝そべる。

 荷馬車の屋根は固いが、緩やかなカーブを描いており、寝そべるとちょうどいい角度だ。

 空を見上げれば、雲がはるか上空を流れていく。

 風も涼しいし……心地いいなぁ……。



「雄一さん。私ちょっと痩せたっスよ」


「えっ? 何で今そんなこと言うの?」


「いや、天高く天肥ゆとか言ってたじゃないっスか。それを思い出しましてね」


「まあ、確かに最近軽くなったような気もするな……。どれ」


「あん! いきなりお腹揉むのは反則っス! やっ……はん!」



 ふむ……段は3段から2段に減っている。

 心なしか、夏時点ではあったくびれが復活しつつある。

 ふむふむ……ふむふむふむ……。



「やーん!! もう! 駄目っスよこんなところで! その……当分お預けなんすから……」


「そうだそうだー。このバカップルー」



 ハッとして振り返ると、3番車両の屋根からサラナが野次を飛ばしている。

 急に気恥しくなり、俺達は少し距離をとった。




////////////////




 本当に何の会敵もなく一日が過ぎ、二日目の朝が来て、朝食もそこそこにキャラバンの車列はゆっくりと動き出した。

 まだ半日は平和なランプレイ山脈西側なので、それまではノンビリ横になって過ごす。



「おーい! ユウイチ! ランプレイ山脈の北端だぞ!」



 屋根でコクリコクリ居眠りしていた俺の耳に、エドワーズの声が聞こえてきた。

 中天に達した太陽の光に目を眩ませつつ、視界を南に巡らせると、緩やかな傾斜の山肌が透き通った秋の空へと続いている。

 おぉ! めっちゃ雄大!



「ここを越えた辺りから危険度増すから、今のうちにこれ食っておくといいが」



 そう言って、荷馬車のおっさんが弁当小包を二つ投げてくれた。

 「~が」ってこの地方の方言なのかね?

ところでこのなんか握り飯状の……これ味……。



「雄一さん、言っちゃ駄目っスよ……。美味しくいただくんス……」



 とんでもない味のコーンでんぷんの塊を頬張りながら、俺は外していた双剣を腰に巻きなおし、来たるべきキャラバン防衛戦に備えた。

 中天を越えた太陽は、山の西側へ傾き始め、俺達の眼前には、雄大で、それでいて不気味に暗い影を落とした山脈の東壁が迫っていた。


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