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第27話:ランプレイ方面に向かおう




「痛ててて……」


「痛っつ~っス……!」



 俺達は腰と腕を労わりながら飛行クジラの席に座る。

 サーモンを漬けこんだ後、そのまま半日以上寝てしまい、気が付けばクエストへの出発時刻が迫っていた。

 大慌てでアレコレと着込み、包み、ギリギリでクエストカウンターに滑り込んだ俺達は、苦笑いのエドワーズパーティーに出迎えられ、今に至る。



「お盛んなことで……」



 そう言った時のエドワーズの怒り、焦り、苛立ち、そして呆れを足したような表情は、当分忘れられないだろう。

 弁明しようとしたが、サーモンと一晩過ごした体からは生臭い匂いがムンムンと放たれていたので……もう諦めた。

 今度新巻ボニートサーモン持って行ったとき汚名返上といこう……。




////////////////




 飛行クジラは穏やかな秋風に揺られながら、ゆっくりと飛んでいく。

俺達が住むセオリツ中央大陸の西の端である大陸西方地域の、そのさらに西端にあるのが、ランプレイ山脈地帯であり、今回目指す「ランプレイ方面」である。


 デイスやバーナクルと異なり、ランプレイ山脈地帯には大きな町がなく、小さな村、集落が無数に点在している。

 飛行クジラが停泊する街も無いので、ギルドが運営する砦が冒険者たちの活動拠点という田舎地域なのだ。

 そのため、それら村落群を纏めて「ランプレイ方面」と呼ぶのである。


 飛行クジラ客席の窓から見降ろせば、美しい大河が流れていた。

 大河は「モーレイ川」、そして、その西側に沿って伸びる山々こそが「ランプレイ山脈」だ。

 山脈と言っても。コンガーイール大山脈に比べれば背も、長さもだいぶ小規模である。


 山脈の西側には豊かな緑を湛えた平地が広がり、広大な農地が見える。

 雨は少ないが、山脈から流れ出る無数の水脈のおかげで、大規模な農耕が行えるのだ。

 ランプレイ方面の主要産業は農業、畜産などの第一次産業。

 収穫される綿花や山羊毛を用いた衣類、装飾品などの第二次産業。

 第三次産業はほぼ皆無だ。


 うん。

 見ればわかる。

 すんごい田舎だもの……。

 綺麗に区分けされた農地が並ぶ景色の中に、ポツンと見えた城のようなもの。

 それがギルドの西端拠点である砦だ。

 飛行クジラは、ゆっくりとその真ん中に据えられた飛行甲板に着岸した。




////////////////




 しかしこの砦……デイスとインフィートの間に形成されていた宿場町程度の規模はあるかと思っていたのだが、全くそれに及ばない。

 というか止まる場所がギルド支部の簡易宿舎しかない。

 部屋は一つ、寝床は粗末な二段ベッドだ。

 マレーシアの動物観察小屋みたい……。



「のどかな風景っスねぇ」



 隣のミコトが、寝ぼけ眼を擦りながら窓の外を眺めている。

 本当にのどかな風景である。


 山脈西側の平地は危険生物が極めて少ないため、夕刻を過ぎても砦門は開けっ放し。

 飲み屋などは無く、現地の少年達がラッパ片手に食べ物を行商に来る。

 たまに放牧されている牛やモコモコヤギが入って来たり、見張りの爺さんは昼からずっと寝ていたり……。

 平和だなぁ……。



「なんか貨物の取りまとめが遅れてるらしい。出発は明後日になりそうだ」



 エドワーズが、現地の子供達から買った焼きトウモロコシを頬張りながら戻ってくる。

 両手に余るほど買わされたようで、俺達にも2本ずつ分けてくれた。

 食ったが、あんまり美味しくないなコレ……。

 甘くなく、うま味も少なく、パッサパサ……。


 デントコーンってやつだろうか。

 元の世界ではコーンスターチに加工されたり、家畜の飼料に使われるようなものだ。

 そのまま食うようなものではない。

 油とかでんぷん粉に加工する技術はあるようなので、小遣い稼ぎに畑の余りものを売っているのだろう。

 アメリカ夏の風物詩、レモネード売りをイメージすればいいのだろうか?



「まあ、無碍に断るのも悪いじゃん」



 エドワーズが砦の中央広場で走り回る子供たちを眺めながら、モッサモッサとコーンを食べ進めていく。



「今日売りに来た子さ、前に俺に売ったトウモロコシの代金で小さいナイフ買ってさ、それでサトウキビの収穫手伝ったんだってよ。なんかそういうの……いいじゃん?」



 「このコーンは甘くないけど、ちょっとは子供に甘い世の中であってほしいしな」と、クサいセリフを吐きながら背中越しに笑っている。

 何だコイツ。

 聖人か。


 特に返事は返さなかったが、俺達はテレポートで少年たちの元に飛び、コーンを一束ずつ買って戻る。

 そのまま無言でエドワーズの隣に腰かけ、マズいコーンを一緒に齧った。

 子供たちの笑い声と、パサパサしたコーンを咀嚼する音が混ざり合い、キャッキャシャクシャクと日は暮れていった。


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