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銀級二人

四文字縛りをなかなかやめられない。

なるほど、それが俺の唯一無二か。


結構強力ではあるが、便利かといえばそうでもない。非常に微妙なところだ。


これを使うにはある特殊条件を満たさなければならないが、そんな状況は滅多に起きないのではないだろうか。フィアたちもそれについては同意見らしい。


強力ではあるんだけどな。



まあそれはそれとして、


「なんでお前はそれを盗んだんだ?」


これ以上関わるともう後戻りできないような気がしたが、どうしても聞かずにはいられない。


「これはもともと俺たちフィロソ族のものだ」


「よく分からんが、だったらひったくらずにそれをロル君に説明すればよかったんじゃないのか?」


 「あの時はあいつがこれを盗んだ奴らの仲間だと思っていたんだが…そのロルというやつが何者かわかるか?」


 「さあね。正直言って何も知らないわけだが…」


 俺は二人に昨日の出来事を説明した。


 いかにも悪党っぽい奴らに襲われていたこと


 成り行きで俺も巻き込まれたこと


 詳しいいきさつをごまかそうとしていたこと



 「多分そいつらも木箱が目的だったんだと思うんだが、確証はないな」


 「そうか…」


 「ちなみに、いつ盗まれたんだ?」


 「一ヶ月ぐらい前だな」


 「だとしたらロル君は盗人じゃないんじゃないか?


 普通泥棒は自分の戦利品を持ち歩く場合人に見られないように隠すはずだ。盗ってからの時間がまだそれほどでもなく、なおかつ人の目につく大きさであればなおさらな。


 あいつは大事そうに両腕で抱えてたが、ずっとそんなことしてたら視線は自然とそっちのほうに行きやすくならないか?」


 「まあ確かにそれもそうだな」


 お金が全くなかったわけじゃないんだし、袋を買うなりなんなりすればよかったと思うんだが…ずっと自分のそばにあるかどうかはっきり見えないと安心できなかったんだろうな。なんとなくその気持ちがわからんでもない。



 「作られてからだいぶたっているようだが、そんなに貴重なものなのか?」


 「当たり前だ」


 「理由を聞いても?」


 「…聞いてどうするつもりだ?」


 「情報が少ないとこの後どうすればいいのか判断しようがない」


 「できればこのまま関わらずに_」


 「ガレイ」


 フィアが片手を上げ、自分の向かい側の席に座っている男_ガレイの話を中断させた。


 なんとなくフィアのほうが立場が上のような気がする。年齢はガレイのほうが明らかに上だが。


 あぁそれと、立ちっぱなしもつらいので俺も隣の机に移動している。


 「ワタル、私たちと協力する気はある?」


 「協力?」


 「あなたたちを襲ったやつらと私たちの集落からこれを奪ったやつらが同じとは限らない。でも、もし同じだとしたら一度邪魔した以上あなたは確実に殺される」


 やっぱりか。


 「そして、この箱が私たちの元に戻ったことが知られたら、また私たちは襲われることになる」


 「なるほど、お互いに危険な立場にいるから一緒に戦おうってことか」


 フィアがこくりとうなずいた。


 「でも俺、前に解析したからわかるだろうけどスキル一個しか持たない無能だぞ?


 …いや待て、ひょっとしてあれから何か新しいの獲得してたりとか…」


 「してない。しいて言えば、回数限度は一つ上がっている」


 おおう、喜んでいいのやら悪いのやら、結構複雑な気分だな。


 再使用(リユース)は携帯食を食べ終わったときとかに意識して使うようにしている。というかもう回数上げるためだけに飽きるほど食ってきた。



 どうも食べてなくなるものであれば何でもいいわけではないようで、普通の料理や水筒の水に使っても何も起きなかった。そこまで万能ではないらしい。



 今のところ効果の対象となる食べ物は生野菜、果物、生肉(実験のためとはいえこれを食べるには勇気が必要だった)といった未調理のものと携帯食ぐらいだ。



 そこで発想を転換させて食べ終わった料理ではなく、食べた料理に使われた材料が現れるようにイメージしたら見事成功した。


 ただ、油とか塩、コショウとかは入れ物が出現せずに、そのまま出てきたので机を汚してしまった。後日、あらかじめ入れ物を用意して試したらしたらきちんとその中に入った。



 料理そのものは対象外で料理に使った材料は対象内と分かったが、調理器具を持っているわけでもないので材料を持っていてもどうしようもなく、現状携帯食にしか使っていない。



 携帯食がそのまま現れるのはこの世界の人たちがそのまずさゆえに、ほかに食べられるものがなくなった時のための空腹抑制アイテムとして使っているからかも知れない。


 常食しているのはたぶん苦みに耐性がある俺ぐらいだろう。前の世界でも自分にとっては少し苦いで済むものでもほかの人にとってはかなり苦かったなんてことはたまにあった。


 ただ、栄養満点とはいえ俺だってこのスキルがなければそこまで食わなかったかもしれない。


 ゴーヤチャンプルーのように苦いけどうまいのではなくただ苦いだけだったし、この世界は意外とうまいものがたくさんあるからな。


 まあそんなわけでスキルが成長したのは日ごろの努力の成果が実ったということだ。


 一方、新しいスキルを得るための努力はあまり期待通りの結果を生み出せなかった。


 といってもこればっかりは仕方がないことだ。この世界では一生の間に獲得できるスキルの数が少ない。


 一般人であれば《技能(スキル):無し》が大半、持っていたとしてもせいぜい一個か二個。戦士や魔術師でさえ五個以上は滅多にいないらしい。


 一応とはいえ戦闘を生業とする者のほうが獲得しやすいのは生命の危機に瀕するほど獲得しやすいということなのだろうか?


 種としての生存本能が限界を超えた力を覚醒させる、みたいな感じで。


 だとしたら俺はこのままだと一個だけかもしれないな。今までモンスターでもない熊一匹としか戦ってないし。


 俺がやってきたことといえば安全な場所での筋トレや魔力制御。死線とは縁遠い。


 それでも魔力制御は毎日実験のために熱心に行っていたので魔力制御スキルや、身体強化魔法スキルとか何か一つでも手に入るかもとか思っていたのだが…、


 うん、魔力関係は比較的取得しづらいっていうしやっぱり仕方ない。


 とはいえに今までやってきたことは無駄じゃない。


 障壁の展開や身体強化は最初のころと比べて瞬時に高性能のものが使えるようになったし、魔力の質や量も一段階上のものになった気がする。


 …おっと、自分の世界に入り込んでしまっていた。


「えっと、フィアは何ランクだ?」


 「銀ランク。ガレイも冒険者じゃないけどそれぐらいの実力はある」


 そりゃすごい。


 たしか木片が駆け出し、鉄が初級、銅が中級で銀が上級だったはず。


 金はかなりのベテランで白金はもう国が一目置くレベルの超少数のため、町では基本的に銀が最上位みたいになっている。


 魔人領近くの森に出向くほどだからそれなりに実力はあるとわかっていたが、これほどとは。


 「で、フィロソ族の人たちの戦力は?」


 「成人している人はほとんど銅レベル。銀は一握りしかいないけど」


 どんな一族だよ!?普通冒険者ってそこまで行くのにそれなりの年月が必要だぞ!?


 冒険者のランクアップは難しい。木片から鉄でもおよそ一年はかかる。


 鉄から銅はそれ以上。生半可な強さだったら鉄止まりも珍しくない。


 俺は雑用しかしてないから鉄までに五年はかかるかもしれない。そんな冒険者この辺りじゃ前例はないらしいから実際のところは知らんが。


 「俺たちフィロソ族は遥か昔勇者とともに世界を救った英雄の子孫でな、その強さは代々受け継がれてきたんだ」


 英雄の一族!まさかこんな場所で出会うとは。あ、フィアとはもう一カ月位前に会ったから、もうとっくに出会ったことになるのか。


 「…だとしたら俺結構足引っ張るんじゃ…」


 「そんなことはない。ワタルには才能がある。鍛えればそれなりの実力者になれる」


 えっ、そう?才能あるって言われたの生まれて初めてだな。すっげぇうれしい。


 「そもそも無詠唱で障壁や身体強化が使える人なんて聞いたことない」


 「俺もない。少し信じられない話だな」


 …うん?


 「いや、魔力制御さえできれば使えるはずだが?」


 「できるわけないだろ。スキルがないのにどうやってできるっていうんだ」


 ちょっと確かめてみるか。


 「えっと、魔力制御はできるか?」


 「一応な。もう十年以上やったことないが」


 魔力制御は魔法が使えなくても魔力を実感するためにその方法は教えてもらうことが多いそうだ。


 「じゃあ早速やってみせてくれないか?」


 二人はすぐに魔力を全身に循環させているらしい。らしい、というのは他人の魔力の流れを見る方法を持っていないからだ。


 眼や視神経に魔力を集めれば見えるのかと思ったが単に視力が上がっただけだ。


 「最初は…体の一部分のほうが簡単か…、よし、ならその魔力を右腕に集めて…、集め終わったら、それが皮膚を覆うようにイメージすれば……、あっ、二人ともできたみたいだな」


 二人の右腕がうっすらと黄色い光を帯びていた。


 「それが魔力装甲だ。集める場所を体の表面じゃなくて、空中にすればこんな風に障壁も張れるぞ」


 そう言いながら瞬時に直径一メートルほどの円形の障壁を張った。


 目の前の二人は目を大きく見開いている。


 「た、確かに俺たちも使えている。…嘘だろ…、スキルがなくてもこんなことができるのか…」


 この世界ではそれに気づいていない人が多いのだろうか。


 俺を召還した魔王たちはどれぐらい知っているのだろうか。


 身体強化に関してはあの時魔力量やそれを制御する技量を調べたときに教えてもらったから当然知っているとして…、装甲や障壁とかはどうなのだろう。


 「…だが、かなりもろいな。叩けばすぐに壊れるぞ」


 ガレイの装甲は指ではじいただけで崩れ落ち、霧散した。


 「最初はな。だが何度も練習すればそれなりに頑丈になるぞ」


 障壁をコンコンと叩いてその強度を説明する。


 「少し試しても構わないか?」


 「ああ、もちろん」


 この人手練れみたいだし念のためもっと補強するか。


 「よし、行くぞ」


 ガレイは上半身をひねって右腕を大きく後ろに引き_


 「フンッ!!」


 思いっきりストレートパンチを繰り出した。


 ピキィィィン!!


 …そして障壁の四方八方に亀裂が生じた。


 「えっ?」


 思わず間の抜けた声を出してしまった。


 「キャッ!?」


 パリン!


 厨房のほうから女の子の悲鳴と食器か何かが割れる音がした。


 ひびが


 障壁にひびが入った


 ついさっき補強したばかりの障壁に


 …まじで?昨日補強なしで慌てて張った装甲でさえ傷一つ付かなかったんだぞ。


 それも割と威力がありそうな魔法数発受けて。


 これ、あと一発食らったら確実に砕け散るぞ。


 「ほお?ひびが入ったとはいえ俺のこぶしに耐えられるとは…、さすがだな」



 ……さすが銀ランク同等の実力者。格が違う!!


これが強者の実力

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