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対大熊戦

 今日はクマさんが死にます。

 ……サブタイトルこれでよかったのかな?

 冒険者となってからおよそ一か月が過ぎた。最初は戸惑うことも多かったが今はもうだいぶ慣れたつもりだ。


 これまでにやってきた仕事は主に配達、買い物代行、建築工事の補助、たまに清掃や子守といった家事仕事……もはや便利屋だな。


 魔獣討伐は一度もやったことがない。そういうのは強くて戦い好きな奴らに任せておけばいい。怖いというのもそうだが、ほかの冒険者たちは雑用仕事の依頼はそうそう受けない。地味だし金銭的にうまみもないからな。だが俺は昔から裏方的なことをやっていたので大して苦でもない。というか、むしろやりがいを感じる。


 まぁそんなわけで町の外にはめったに出なかったのだが、たまには悪くないと思い薬草採取の依頼を受けることにした。それほど遠い場所でもないので冒険者たちが太刀打ちできないようなレベルの魔獣もいないしな。










 ……やっと取り終えたぜ。


 最初はすぐに見つかったんだが、だんだん見当たらなくなって思っていたよりもかなり時間を食った。あれか?物欲センサーってやつか?違うか。


 だいぶ奥まで進んじまったな。昼飯には絶対間に合わないから夜にたらふく食うしかないな。じゃあ、魔獣に遭遇しないうちに早く帰っ……


 ___グラァ!

 ___うわぁ!


 なんだ!?向こうから叫び声がするぞ!


 これってどうするべきなんだ?すぐに街に戻れば確実に安全ではあるが……、


 俺が何もしなかったせいで誰かがひどい目に合うのは後味が悪くてしょうがない。様子だけ見るか。











 も、もうだめだ。囲まれちゃった。やっと逃げ切れたと思ったのに…。


 「チッ、ガキが。手間ぁ取らせやがって」


 体がボロボロでもうまともに動けない。あとほんの少しだけ魔力が残ってたら何とかなったかもしれないのに。こんなことならさっきのオオカミの群れとは戦わずに…いや逃げ切れるわけないか…。


 「さぁ、おとなしくそいつを渡してもらおうか」


 嫌だ!こいつらに渡すものか!!


 そう思ってはいるのに…、もうだめなのかな…。ダメだ、あきらめちゃだめだ。なにがなんでも守ってみせる。


 両手に抱え込んだ木箱をぎゅっと抱きしめる。


 「へッ、じゃあわりーがとっとと死んでもらうぜ。まぁどのみち殺すつもりだったが」


 あぁ、やっぱりもうだめだ…。おじいちゃん、ごめん。



 ___グラァ!?


 えっ、なに?上?思わず見上げると…


 大きなクマがすぐそばの小さな崖から勢いよく落ちてきた。


 「ウォ!?」


 落下地点にいたあいつらがとっさに飛びのいた。



 「な、なんだぁ?」


 「すいませーん!大丈夫ですかー?」

 「アァ?」



 若いお兄さんが崖の近くにある枝から枝へと飛び移り、そして僕の目の前に着地した。


 「えっと、みなさん怪我とかあり……ちょっ、お前大丈夫か!?」


 とても心配そうな表情で、そしてなぜか心の底から安心できるような雰囲気で僕と向かい合った。











 声がしたのは確かあのあたりの…崖の下のほうか?


 普通なら音が届かない距離だが、危険察知のために身体強化で聴力を上げていた俺にはかろうじて聞き取れる。


 この爆発音は魔法か?獣の声が急になくなったから仕留めた…あっ、じゃあ別にいかなくていいよな。うん?今度は連続で爆発が…やっぱり見に行く…か…。


 なんとなく右から気配がしたので目を向けると…、そこにいたのはいつかの大グマだった。隻眼だし頭にやけどの跡があるし間違いない。


 嘘だろ。ここってあの森からだいぶ離れてるぞ。何でここにいるんだ?負傷したせいで縄張り争いに負け続けたとかか?


さっさと進みたいところだがまずはこっちをどうにかしたほうがいいか。


 あの殺気具合からすると向こうも俺のことを覚えているようだ。ゆっくりと近づいているのは目をやられたが故の警戒心か。だったら先手を打たせてもらうぜ。


 すでに十八番となった身体強化で突進。相手が交わし始めたところでさらにスピードアップ。両手で握りしめたこん棒で思いっきりわき腹をぶん殴る。チッ、予想はしてたがほんのわずかにしか吹っ飛ばねぇな。


 「グラァ!」


 とびかかってきたクマを飛び越し、頭をぶっ叩き、その力でより前へ。おっ、今度のは効いたか。


 完全に狂ったのか死に物狂いで突っ込んできたがこれも避け…あっぶねぇ!横払いの爪攻撃が掠るところだった。まぁこん棒ではじいてそらせたが。


 そこからも躱して、殴って、躱して、殴って……、ついに…。



 吹っ飛べぇ!


 「グラァ!?」


 渾身の一撃でクマを崖の下へと落とした。



 やった…、やったぞ!ついにやったぞ!!




 ふぅ、実際に戦っていた時間は短かったが達成感はかなりのものだ。



 風が心地よい。空はこんなに青いのか。


 ……、


 それにしてもいつの間に崖のすぐそばまでやってきたんだ?まったく気づかなかったぞ。




  ……ちょい待てぇ!まだそっちに人がいたらやべーぞ!っていうかいるよな!強化しっぱなしの耳がなんか人の声を拾ってるし。


 慌てて崖の下をのぞき込むとクマが落ちているすぐそばに子供が一人と大人が三人、あと、ちょっと離れた場所にオオカミが五、六匹ほど倒れている。


 えっと…、オオカミはともかくあの人たちは怪我とかはないよな?…あっ、全員と目が合った。


 この状況で逃げるのはまずいし、そんなつもりはさらさらない。さっさと降りて謝罪しよう。そのまままっすぐ飛び降りるのはまだ危険だから枝に着地するのを繰り返すのが良さそうだ。


 「すいませーん!大丈夫ですかー?」


  … 降りておいて今さらだがやはり怖いな…。もっとバランス力を鍛えないと。今だって一回一回止まっちゃってるし。



 「えっと、みなさん怪我とかあり……ちょっ、お前大丈夫か!?」


  男達はほとんど無傷だが少年の方は全身がぼろぼろだ。ん?でもこれってクマが落ちてきたからっていうより…。


 「お、()()()()()!助けて!」

 「あぁ?()()()()?お前アニキいんのか?」

 「えっ?あ、いや…」


  ……お兄ちゃん?俺が?いや多分自分よりも年上の男って意味の方だよな?人違いでもない限り。


 「ふん。そいつの家族だったら生かしておく訳にはいかねぇなぁ」

 「ちょい待てぇ!」


  違うから!こいつとは初対面だから!だから詠唱中断しろって!


 「悪りーが命乞いに付き合ってやるつもりはねーんだよ」


  おい!聞く耳持てよ!


  チキショウ!


 「ファイアボール!」

 「ウィンドショット!」

 「アースバインド!」


  少年を脇に抱えてさっきの木に間一髪飛び移る。魔法ってのはいちいち詠唱しないと発動できない。だから今のうちに行けるところまで行かねーと。


  降りるよりは怖くないな。下を見ないからか?って危なっ!下も見ねーと当たるぞ。危うく顔にやけどするところだった。


 「ウィンドショット!」

 「ウィンドショット!」


  げっ、これは避けられねーぞ。


  魔力装甲展開!


  全身に張った魔力のコーティングで風の弾丸を受け止める。ずっと練習してきたのだ。この程度ならひびが入ることもない。継続は力なりとはこのことだ。



  よし、あとはここで…大ジャンプ!


  少し無理のある跳躍でギリギリ崖まで届いた。どさりという音の一泊後に木のてっぺんが折れる音がした。本当にギリギリだったな…。


 ふぅ、ここまで激しく動き回るのはもう勘弁したい。


 ここからなら攻撃は届かないが…。


 「なぁおい、大丈夫か?」

 「あっ、はい…」

 「じゃあ早くここから離れよう。いつあいつらがやってくるか分からない」

 「はっ、はい…」











 「さっきは本当にありがとうございました」

 「別に気にしなくていいさ。当然のことをしたまでのことだから」


 あの後ヘトヘトになりながら街に戻り、彼の手当てと依頼達成の報告を済ませた。で、今はギルドの酒場で飯を食っている。


  ちなみにこの世界では15歳から成人なので酒はもう飲めるのだが今のところ飲むつもりはない。なんとなく二十歳になるまでは飲みたくないと思っているし、お茶とかの他の飲み物の方が安いからな。


 「本当にすみません。お兄ちゃんだなんて誤解を招くような呼び方をしてしまって」


  どうやらお兄さんと呼ぼうとしてうっかりそう呼んでしまったらしい。


 「いや、多分どの道襲われてただろうから謝ることじゃないと思うぞ?」


  人の話を聞きそうにない奴ばかりだったからな。


 「そういえばまだ名前聞いてなかったよな」

 「あっ、そうでした。えっと、僕はロルっていいます」

 「ロルか。俺はワタル。よろしくな」

 「はい、よろしくお願いします」

 「で、なんであいつらに襲われてたんだ?」

 「えっと…、それは…」


 ロル君はしばし黙り込んでいたが、やがて口を開きだした。



 なんでもちょっとした用事があってこの街に向かっていたところをオオカミの群れに遭遇し、魔法で撃退したら今度は物取りに襲われて戦闘になり危うく身ぐるみ全部はがされた上に殺されるところだったそうだ。


 前半はともかく後半は嘘だな。どう考えても物取りじゃないだろ。賊にしては強い殺気を放っていたし、明らかに話しにくそうにしているその様子が何よりの証拠だ。典型的な嘘が得意じゃないタイプの人間だな。


 大方何らかの理由があってロル君を殺そうと探し回っていたところを、ようやく見つけた矢先に俺が邪魔をしたって考えるのが妥当か?


 とはいえこっちが聞いても話すつもりはなさそうだし、別に聞こうとも思わない。もちろんロル君の身の安全は心配しているが自分の身も大切だ。わざわざ厄介ごとに首を突っ込んでいたら命がいくらあっても足りないだろう。






 「今日は本当にありがとうございました」

 「今日はどうするつもりなんだ?」

 「近くの宿に泊まろうと思います」

 「だったらこの時間帯だし急いだほうがいいぞ。部屋がなかったら最悪野宿だし」

 「はい、そうします」


 こうして酒場を出た俺たちは別れのあいさつを交わし、お互い逆の方向へと歩き始め…。


 ドンッ

 「うわっ!」

 「えっ?」


 慌てて振り返るとロル君が地面に倒れこみ、すぐそばを黒いローブで身を隠した何者かが走り去ろうとしていた。…両手で木箱を抱えながら。


 あれはさっきまでロル君が持っていたやつじゃねーか!


 「おい待て!」


 考えるよりも早く俺はひったくりの後を追いかけていた。


 明らかに厄介ごとの匂いがする。さっきまでそういったことには関わらない気でいたやつが自分から突っ込んでいくとかマジで笑える話だ。


 だが……、さすがに目の前で起こったことを放っておけるような性格ではない。



 まったく、盗むならせめてこっちの腹に何も入ってないときにしてくれよ。全速力で走れねーじゃねーか。


 そんな考えても仕方がないことを心の中で愚痴りながら、路地の裏へと足を速めた。



 あっ、聴力強化はしておこう。

 リベンジってほどでもなかったかなー。実際の戦闘時間短かったし。

※補足:ワタルが倒したクマは魔獣ではなく普通の野生生物です。ワタルが強そうに見えるかもしれませんが腕利きの冒険者ならもっと早く倒せます。ジャンプで木の枝を上ったり下りたりするのも身体強化系のスキルを持ってたら普通にできますね。まぁ僕たちと比べたら彼も十分強いんですけど。

 あと、崖の下にいた四人がクマが落ちてくるまで上に誰かがいることに気づかなかったのは、高さがそこそこあったのもそうですけど戦闘中に魔法ガンガン飛ばしてたので着弾した時の爆発音がずっと続いて周りの音が聞きづらかったのも大きいですね。

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