秘密結社
「おはようございますご主人様」
「ヌオォ⁉」
つい叫んでしまったのも無理はない。俺はベッドの上でリオネに絡みつかれていた。童貞の俺には刺激が強すぎる。
おそらく俺が寝てすぐのタイミングからこうなっていたのだろう。
「勝手に抱き着くのやめてくれないか」
「魔力を効率よく吸収するにはこれが一番ですから」
確かにそれはそうだが。魔力を毎日提供すると約束はしたが。
「そんなの俺が自主的に流し込むからわざわざそんなことする必要ないだろ」
「ご主人様の魔力はあまりにもおいしすぎますから。長い時間をかけてほんの少しずつでないとどうにかなってしまいそうなんです」
「……俺の魔力ってそんなにやばいのか?」
「はい。勇者の魔力は最上級の至福の味、とは聞いていましたがまさかここまでとは思ってもいませんでした」
そのうち俺の魔力を狙って襲ってくるやつとかでないだろうか。
「それに、寝ている間は起きている時よりも記憶を覗きやすいですから、やはりこれが一番かと」
「まぁ無防備な状態だからな。それで?何かいいものは見られたか?」
「もちろんです!マンガやアニメ、ゲーム、ほかにもこの世界にはないいろんなものがみられてずっと興奮しました!」
「そうか。それはよかった」
魔界はつまらないって言ってたからな。やはり娯楽に飢えていたのだろう。
しかし自分が好きなものに興味を持ってくれるのは意外とうれしいものだな。
「ところで、さっきから明後日の方向を向いてますけど……フフフ。ひょっとして私の胸から意識を遠ざけようとしてますか?」
「うぐっ」
やはりばれたか。そりゃずっとそわそわしてたらすぐ気づくよな。
さっきから腕に柔らかいもんが押し付けられているせいで心臓のバクバクが全く止まらん!
「なるほど。初めてだったんですね」
「悪いか?」
「いえ。それよりもどうです?もんでみませんか?」
「はぁっ⁉な、何言ってんだよ!!」
「私はご主人様のしもべですし、いくらでも好きにして構わないんですよ?」
「ちょっ、力いっぱい押し付けんな!ていうか俺の反応見て楽しんでるだけだろ⁉」
「さぁ、なんのことでしょう?」
クスクスと笑うばかりだが、それで正解のようだった。
「はぁ……下降りるぞ。あと、翼と輪っかは目立つから消しとけよ?」
「わかりました」
ガレイさんたちはもうすでに一回に降りていた。
リオネも一応飲み食いができるらしいため、四人でパンとスープの朝食をとった。
ふと、気になったので料理の感想を念話で聞いてみることにした。
(味はどうだ?悪魔の口にも合うか?)
(普通ですね。まずくもなければおいしくもなく。これにご主人様の魔力がたっぷりと含まれた血がかかっていればまた別でしょうけど)
(そんなの食って喜ぶのお前だけだろうが)
ヴァンパイアかよ。
俺はこういう質素な味も好みなんだが。
全員が食べ終えたところでガレイさんが口を開く。
「えっと、天使様。我々はこれから彼を連れて集落に帰るつもりだったのですが、馬車を用意したほうがよろしいでしょうか?」
「いえ、私は徒歩で構いませんよ?」
一瞬、「あんた誰?」と思いそうになった。
まるで聖女みたいな微笑みだ。話し方も少し違う。わたくしとか言ってるし。そういや、パンもスープもそこそこ上品に食ってたな。これがこいつの他者用フェイスか。
まぁ、俺も本当は俺なんて言葉使わないし、似た者同士か。
「し、しかし、天使様を長時間歩かせるわけには……」
「私の使命は主人であるワタル様のそばにあり続けること。たとえそこが荒れ狂う吹雪の中であっても、どこまでも深い海の底であっても、自分に与えられた役割を果たすつもりです。ですから、ずっと歩き続けることぐらいどうということもありません」
……吹雪や海の中ってお前がかなり優位に立てるフィールドだよな?仮に俺が暑苦しい砂漠の国に行きたいと言った場合はどうなのだろう?
「わかりました。では予定通り徒歩で参りましょう」
そして俺たちはすぐに集落へと向かうことにしたのだが、その前に魔力が枯渇寸前で体がだるい状態だったのでマナポーションですぐに満タンになるまで回復させた。リオネが唯一無二持ちで本当に良かった。
目的地までかなり距離があるので、念話でリオネにずっと気になっていたことを聞くことにした。
(なぁリオネ。あの箱って一体なんなんだ?)
(ご主人様はフィロソ族についてどれだけ知ってますか?)
(勇者と共に戦った英雄の子孫で、付与魔法の使い手が多くて、全員かなりの実力者ってことぐらいだな)
(あの中にはフィロソ族の先祖が封印した大悪魔が閉じ込められているらしいですよ)
アークデーモン?上級悪魔よりさらに上のあの悪魔のことか?確か最低でも金ランク冒険者が束になって戦わなければ倒せない……待てよ。
(ちょっと待て。王都を除けばこの国の冒険者は銀ランクが最上位。フィロソ族も銀が少数。つまりもしここで封印が解かれでもしたら……)
(ここは王都からかなり離れてますからね。金ランクと白金ランクが駆けつけた時にはすでにいくつかの街がなくなっているでしょうね)
そんな恐ろしいものがあの中に⁉︎
(一体どういう悪魔なんだ?)
(私も詳しいことは知りませんけど……なんでも遥か昔、フィロソ族の先祖と勇者達が仕えていた国の王都を滅ぼして危うく地図から国が一つ消えそうになったところで封印されたみたいですね)
ちなみに、その国は結局他国からの侵略によってすぐに滅びたらしい。
(勇者でも倒せなかった、ということか?)
(伝説ではそう語り継がれてますね。そこそこ有名ですよ?『勇者殺しの大悪魔』。世界を救った英雄達をたった一人を除いて全員惨殺した最凶の大悪魔。名前が伝わっていないので『最凶』と呼ぶのが一般的です。聞いたことありませんか?)
いや、ない。とだけ答え、目の前を歩いているフィアとガレイさんの方に視線を向けた。
あの人達の先祖以外を皆殺しにした強敵。圧倒的な強さを誇る勇者ですら勝てなかった理不尽な存在。そんなのに勝てる奴なんているのだろうか?白金ランクなんて手も足も出ないんじゃないか?
(要するにお前達を召喚した組織はその強さが目当てで箱を奪おうとしたってわけか)
(はい。その力を使って世界を征服するそうです)
世界征服。いかにも悪の組織が考えそうなことだが、そんなものが手に入ったら本当に実現出来てしまいそうだ。
(それで?他に何か知っていることは?)
(私も詳しいことは……あ、でも組織の名前が『新世界』だというのは聞いたことがあります)
新世界。自分たちで新しい世界を作り出そうというわけか。
それからも質問を続け、リオネを召喚したのは一体の上級悪魔で、さらにその悪魔を召喚したのが組織に所属する召喚術師だということがわかった。
召喚された小悪魔や下級悪魔は 上級悪魔からは「この国に新たに生まれた勇者の言うことを盲目的に信じるよう人々を洗脳しろ」と命じられていたらしい。
……なるほど。俺は敵側の勇者よりも後に勇者の力を得た、つまり新たに生まれた勇者になるわけだからリオネの言う通り命令に背いてはいないと言えなくもないが……絶対にアウトだろ、少なくとも向こうは絶対そう思うぞ。
まぁそれは置いておくとして……大量の悪魔による長期間の精神支配、その効力がどの程度かはわからないが、多少のことで解けるようなものではないだろう。
召喚主の上級悪魔を倒せば全員魔界に強制送還されるが、俺とリオネだけで勝てる相手ではない。族長にあったら協力できないか交渉しなければ。
ちなみにリオネは俺と主従関係を結んでいるため、その関係が続いている限りは送還されないそうだ。
そして勇者達について、特になぜ魔人族はやつらに敗北し続けていたのかも教えてくれた。
勇者のパーティーは魔術師、暗黒神官、重戦士を含めた四人。
重戦士は圧倒的な防御力であらゆる攻撃をはねのけ、魔術師は風属性の派生、音属性魔法による不快音による行動阻害。これでも十分厄介ではあるが残りの二人はさらに恐ろしい力を持っている。
勇者が持つ魔剣ダーインスレイヴによる負傷は回復魔法による治療が不可能であり、自然に治ることもない。つまり、一度切られればそのまま失血死するのを待つしかない。加えて勇者自身の戦闘力も極めて高い。
そして、暗黒神官は相手のスキルを消し去り、さらには消されたスキルの数だけ全能力を低下させるらしい。どんなに強力なスキルや魔法が使えようと、その力の効果範囲内に入った途端、それらを永久に失う。
ただし、その能力は敵味方関係なく通用してしまう、影響を及ぼす範囲が広すぎる、唯一無二を一つでも持っている相手には通用しない、という弱点が存在しているため、集団での奇襲は今までできなかったようだ。
ということは勇者、魔術師、重戦士の三人は全員唯一無二持ちか。
この世界でスキルを獲得するのは難しいうえに、魔法はさらに習得しがたい。なるほど。確かにこれでは魔人族側が次第に不利になっていくのも道理だな。味方にも効いてしまうのが唯一の救いか。まあスキルを失っても全く戦えなくなるわけでもないのだが。とはいえこれが力の強い魔人族ではなく普通の人族だったらここまでもたなかっただろうな。
(もし仮に……、俺より強いやつが召喚されたとしても、唯一無二持ってなかったらその時点で敗北確定じゃないのか?)
(そうでしょうね。超遠距離攻撃ができたり、何らかの方法で無効化できない限り、いきなり戦場に放り込まれた一般人ではまずかないません)
幸い俺は唯一無二を持っているから、スキルを失う心配はしなくていい。だが、肝心の基礎戦闘力は皆無と言っていい。そんな俺が頑丈な防御力を打ち破り、音の妨害に耐え、癒えない傷を生み出す魔剣の使い手に勝つ。砂漠からダイヤモンドを探すほうがよっぽど簡単に思える。
リオネとならいけるか?こいつも唯一無二持ちだ。氷の弾丸で魔剣の間合いの外から攻撃し、触手でドレインタッチ……いや、それでも無理だ。下級悪魔なんてベテランの冒険者たちにかかればあっという間らしい。奴らが戦っているところを直接見たわけではないが、全員銀ランク相当と見たほうがよさそうだろう。
今から訓練したところで焼け石に水だし……となると。
(フィロソ族が強力なアイテムを持っていたら借りる、あるいは借金をしてどっかの店で買う……今のところこれがベストか)
(だとしたら今やるべきことは一つですね)
(あぁ。フィロソ族と友好関係を結び、力を貸すにふさわしい人物だと認められる。協力してくれるか?)
(ご主人様は私を誰だと思っているんですか?私はご主人様の忠実なるしもべ。対価さえ払ってくれれば何だってしますよ)
(女の子が何でもするっていうのは非常に危険だが……まぁ、ありがとな)
まずは族長に挨拶か。どんな人だろうな。
「はあ?全滅だとぉ?」
「ひっ、も、申し訳ございません!」
とある廃屋内に女性の謝罪の言葉が響いた。
「チッ、アンだけ大勢で行かせたってゆーのに。毒使いも死んだのは痛いな」
「て、敵が思ったほど_」
「なんか言ったか?」
「い、いえ!!」
「はぁ。まあいいか。いい知らせもあったし」
「い、いい知らせ?」
「ああ。これからフィロソ族の集落を落とす。すぐに準備しろ」
「えっ?あっ、はい!!承知いたしました‼︎」




