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唯一無二(オンリーワン)   作者: こうもりダーキー
勇者誕生

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18/28

精神支配

 ちょうど僕たちの真上に4つ、小さな黒い靄のようなものがあった。


 まさか、モンスターか!?


 もしそうだとすると、非実体系で、多分精神支配とかしてくる奴だ。急に僕の意識も変になりそうだったし間違いない。


 レイス、それともワイトかな?いや、いくら部屋の中が暗いとはいえまだ日が出ている時間帯にアンデッドが活動するのはおかしい。


 まあ、正体については後で考えるとして、どうする?この手のモンスターは物理攻撃が効かないのがお約束だ。ナイフなんかじゃ何のダメージにもならない。……そもそも相手が天井にいるうえに、こっちは拘束されているようなものだから仮に有効だとしても攻撃できないけど。


 魔力を使って遠距離攻撃をするにしても、宿の中でそんなことしたら部屋がめちゃくちゃになる。


 となると…。




 両手に魔力を収束させていく。上半身はほぼ裸になったけど、今はまだいい。最悪下半身さえ死守できればそれでいい。集中だ。とにかく集中。


 よしっ!


 非実体モンスターに向けて、極細の針型の弾丸を30発ほど撃ち出した。一発だけの時と違って当たっても爆発なんてしないし、強度も威力も大幅に下がる。でも真上にノルンさんがいる以上、視界を遮られてうまく照準を合わせられない。それなら下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法をとったほうが確実だ。



 『!?』


 突然ノルンさんの動きが止まった。


 よし!うまく当たったみたいだ。今日は魔力を使わなかったから、連射できる!



 続けて、二撃目、三撃目、と着々と攻撃を進めていった。ひょっとしたら雨漏りとかするかもしれないけどこれ以上威力は下げられない。


 少ししんどくなってきた。あとどれぐらい撃てばいいんだろう。少しずつとはいえ確実にダメージは与えられていると信じたいけど…まさかノーダメってことはないよ_うぐぅっ!?


 無表情のノルンさんが両手で思いっきり首を絞めてきた。首の周りに障壁を張ってどうにか気道を確保する。でも、相手は次期魔王。咄嗟に張った障壁なんかじゃ完全には防御できない。次第に首は圧迫され始めていく。



 うぅ……、反撃してきたってことは確実に効いているんだろうけど…このままじゃこっちが死ぬ!



 呼吸が難しくなっていく中、障壁が消えるのも構わず、魔力切れになるまでめちゃくちゃな数の針を天井に向けて乱射し、ついに僕の意識は途絶えた。


 視界が暗転する直前、首が圧迫感から解放されたような気がした。










 「……私はいったい何を?」


 ノルンはただ困惑していた。


 この宿に来るまでのことははっきりと覚えている。しかし、この部屋に入ってから自分が何をしていたのかまるで記憶にない。いつの間にか自分はワタルの上にまたがり、そしてそのワタルはほとんど半裸の状態で気絶していた。見るからに苦しそうだ。


 「ワタルさん!?大丈夫ですか!?ワタルさん!」


 何度も体をゆすってみるが一向に目を覚ます様子がない。魔力切れのようにように見えるが、それだけではなさそうだ。自分の意識がない間に何かあったのだろうか。



 あたりを見回してみたが、特に変わった様子もない。__この時、天井には見向きもしなかったが、仮に見たとしてもまさかごく小さな穴が無数に空いていることになど気が付きもしなかっただろう。

 そして、部屋が暗いうえにほとんど色が抜けたせいで、一つの小さな靄が天井をすり抜けたことにも、おそらく気づかなかっただろう。



 次第にワタルの呼吸は落ち着いたものになり、表情も穏やかになった。それを見て少し安堵したものの、まだ不安は残ったままだ。何せ、全く覚えていないのだから。


 彼の服を元に戻しながら、ふと、なぜ彼は半裸だったのだろうかと首をひねった時、自分がさっきまで上でまたがっていたことを思い出した。



 (まさか……私はワタルさんと男女のあれこれを!?)


 慌てて自分の体をまさぐったが、特にそういうことがあった形跡はない。事後ではないようだ。




 とにかく彼が目を覚まさない限りは、何があったか判断できない。とはいえ、魔力切れである以上少なくとも6~12時間は目を覚まさない。体力も消耗した場合はもっと睡眠が必要だ。となると、起きるまで待つというわけにもいかない。仕方がないので明日の朝早くここに来て、何があったか聞くしかない。うまくタイミングが合えばいいのだが。


 ただ、このまま帰っても特にすることはない。とりあえず夕方まではここにいよう。それまでは……ちょうど寝顔が可愛くなり始めたのでじっくりと堪能することにした。











 いつの間にかもう夜になっていた。ノルンさんはどこにもいなかった。


 どうやら魔力を使い果たして眠ってしまったみたいだけど、あの後どうなったのだろう。ノルンさんは元に戻ったのだろうか。それに、あのへんな黒いモンスターは全部倒せたのだろうか。


 照明用魔道具で部屋全体を明るくし、天井に目をやると特に目立った損傷はなかった。でも、視力を強化すると……ゲッ、穴だらけだ。まあでもこれぐらいなら雨漏りもしないだろうし、別に大丈夫……だと信じたい、信じよう。




 下に降りて宿の人に話を聞くと、ノルンさんは夕方になって少しした後に、ここを出たらしい。特に変わった様子もなかったそうだが、とりあえずまたここに戻ると伝えて、彼女たちの家まで急いで向かった。


 __あと、宿の人が「今日はお楽しみだったかい?」と何か誤解していたようなので訂正した。まあ男女が同じ部屋で、となったらそう考えるのも無理はないけど。











 玄関をノックしてしばらくすると、出てきたのはエルザさんだった。


 「あら、あなたですか。こんな時間に何の用かしら」

 「遅い時間にすみません。ちょっとノルンさんを呼んでもらえませんか?」

 「……少し待っていなさい」


 あっ、素の口調でしゃべっちゃったけど……まあいいか、今から訂正訂正。


 バタバタと音がしたかと思うと、ノルンが勢いよく飛び出してきた。


 「ワタルさん!もう大丈夫なんですか!?」

 「あぁ、疲れはまだたまってるが、問題はない。それよりお前のほうこそ大丈夫なのか?」

 「えっと、たぶん大丈夫だとは思いますけど……ごめんなさい。私部屋に入ってからの記憶が全くないんです」

 「ちょっと待て。二人とも何かあったのか?」


 クルスさんのその質問から察するに……。


 「まだ三人には話してないのか?」

 「あっ、はい。下手に心配をかけるわけにもいかなかったので明日ワタルさんから話を聞くまでは黙っておこうって思ってたんです」

 「いや、明日だと朝から仕事があるから会えなかったと思うが?」

 「えっ、そうだったんですか?」





 その後、家の中まで入れてもらい、二人で午後に起きたことを全員に説明した。最初はノルンがおかしくなったことは黙っておこうかと思ったが、嘘が下手な俺が無理に事実を曲げたせいで後で取り返しのつかないことになっても困るため、苦渋の決断の末話すことに決めた。とはいえ首を絞めたことに関しては流石に黙っておいたが。


予想通り、操られていたとはいえ一線超えそうになったと知った途端、ノルンは一瞬で赤面し、三人からは尋常でないほどの殺気を向けられ、一騒動あったがどうにか最後まで話を進めることができた。……死にかけたが。








 「暗い靄のようなモンスター……ひょっとして夢魔か?」


 クルスさんが口にしたのはファンタジーのメジャーモンスターの名だった。


 「夢魔?夢の中で悪さするあのモンスターのことか?」

 「あぁ」




 夢魔と聞いて大抵の人が真っ先に思いつくのはエロい夢を見せるサキュバスとかインキュバスとかだろうが、それはあくまでほんの一部に過ぎない。悪夢を見せるタイプも多く存在する。


 このモンスターは小悪魔(インプ)の中でも比較的戦闘能力が低く、そもそも小悪魔が下級悪魔(レッサーデーモン)よりも下のランクなこともあって、倒しやすい部類に入る。実際、冒険者の中には俺のような木片ランクのうちからこれを討伐した実績を持つ者もいる。


 ただ、この倒しやすいというのはあくまで受肉した個体に限った話で、その前の段階である非実体の状態では物理攻撃が一切効かない。まぁ、魔法攻撃さえ使えればすぐ殺せるし、肉体のない状態では現世に与えられる影響なんてそれほどでもないけどな。


 「でも夢魔って寝てる時にしか精神に干渉できないんじゃないのか?」

 「確かに普通はそうだ。受肉していないのならなおさらな。だが、複数でいっぺんに干渉しようとしてきた場合、深い悲しみや絶望感などで精神が弱っていた場合、心に大きなスキができている場合だと起きていようが操られることもある」


 なるほど。確かにあの時は四体いたうえに、彼女の精神は健全といえるものではない。


 表ではずっと笑顔を保っているが、いつ自分たちが殺されるかわからない日々を生きていたうえに、俺に対して罪悪感も持っている。あいつらにとっては格好の餌だっただろうな。



 「で、そのモンスターは結局どうなったんだ?」

 「あいにくそれはわからない。俺はすぐに気絶したからな」

 「私は記憶が全く……」

「そうか……」


全部倒せたとは信じたいが楽観的すぎる。だが今は二人とも無事なだけでもよかったと思うべきか。念のため各自警戒しておくことになった。




すでに深夜となってしまっているため、今日のところはここまでにしておき、まっすぐ宿へと戻る。


泊まるよう誘われたが丁重に断った。










ベッドに横になり、改めて今回のことを思い返した。ここまで遅い時間に物を食べる気にはならなかったので晩飯は食ってない。


あれが夢魔だったのかはわからないが、それが複数も現れたのは偶然だったのだろうか?どうも違うような気がする。



ふとなんとなく、この街の人々が勇者を盲目的に信じていることを思い出した。


「まさか……あの変なモヤモヤが街全体に精神支配の魔法かけてんじゃないだろうな」


まさかな。そう自分で突っ込んだ。



そう。さっきのはただの独り言だ。誰かに向けて言ったわけでもないし、そもそもここには俺しかいない。だから俺の思いつきに何か言えるのは俺しかいない。




はずだった。



「ふーん。なかなか鋭いですねー。ちょっとびっくりしちゃいましたよー」



どこからともなく声だけが現れた。


ほぼ反射的に飛び起き、棍棒を握りしめる。


首をあっちやこっちに動かしたが、声の主はどこにもいない。



女の子の声だ。それもまだ幼い感じの。



「ふふふ。そんなに警戒しなくてもいいじゃないですかー。こっちに敵意はないんですからー」



暗闇の中からそれは現れた。


それは線香の煙のようにうっすらとした、しかし線香よりはやや黒い、実体のない小さな何かだった。子供の握りこぶし程度だろうか?気づかなかったのも無理はない。




「なんだお前は?」

「ふふふ。はじめまして……じゃなくて、えーとー……半日ぶりですね。もう一人の勇者さん?」

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