140字小説まとめ(雨にまつわるエピソード)
まわりの囁き声を気にしながら、読まないといけない空気の中で、いつもひとり取り残されていた。夜、散歩していると降りだした雨。傘はなくてずぶ濡れ。いっそこの身が浄化されたらいいのに。街灯があらわにする雨の斜線、排水溝からは勢いよく流れる水の音。この愛しき孤独にふるえる。
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部活が終わり、外は雨。憧れの先輩が駅まで一緒にと傘を差しかけてくれた。雨が激しくなり、ふたりでひとつの傘が心もとなくて、少しだけ体を内側に寄せると肩が傘を持つ肘に触れた。体中が熱くなる。この想いを伝えるか否か、気持ちは揺れる。猶予はあとわずか。駅が近いことを呪った。
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会えるのは年に一度だけ、でも永遠に続くなんて夜空の神話はずるい。雨が降ればいい。会えなくなればいいと意地悪く思う。雨はふたりの嬉し涙と知って地団駄を踏む。梅雨空の日本で世界のどこかにいるあの人を想う。薄れていく面影をくりかえし思い浮かべて縋って、ひたすら機を織る。
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雨の放課後、窓際の席で頬杖をついている彼女の指に見とれた。傘を持たない彼女を自分の傘に誘ったのが恋のはじまり。招き入れた部屋で思いがけず彼女の目標が生まれた。ピアノを弾けるようになりたい。彼女の望みを叶えてあげるのは誰?それは私。だって私達は友達になったのだから。
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数値入力が私の仕事。速く正確に大量に。私はロボット。指が人のものから機械へと変わる。名前も呼ばれず不要になれば捨てられる。粗大ゴミの日。激しい雨がロボットの私に降りそそぎ、雨水が筋となって流れる。水を伝わらせるただの物体になって、回収を待っている。そんな夢を見た。
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先日蓮池に行った際、蓮の中に一寸ほどの観音様を見つけてしまった。思わず掌をさしだすと飛び移ってこられたので我が家までお連れした。鉢の蓮をお住まいに、お食事は天からの雨を葉で受けてできた玉の水。晴れ続きで弱られた観音様。元の蓮池へお連れすると蓮の中から顔を出す観音様たち。俄かに雨。
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血の雨が降っていた。水嵩を増して激しく流れる川に少女が立っている。空に向かって腕を伸ばしていた。少女は待っていたのだ。空から胎児が降ってくるのを。次々に降ってくるうちのひとつを受け止め、愛おしそうに微笑んだ。その間にも他の胎児は川へ落ちて流されていく。胎児の雨はまだ降り止まない。