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6話

折口晃子は学級通信にイラストを書き入れると、にっこりと笑みを浮かべた。美術系の学部を出た晃子のイラストは父兄にも好評だった。

それを終えると、帰り支度をして通用口に向かった。

今日も忙しかったが、充足感がある。

児童はみんなかわいい、自分のクラスに問題もない。

(華子ちゃん、私のクラスじゃなくて本当によかったわ)

晃子は、隣のクラスの女児を思い浮かべた。

ぷつんとそろえた前髪のおかっぱ頭、膝丈のスカートにベージュのダッフルコート、いつもうつむき加減で暗い印象はあるものの、見た目はごく普通だった。ちらりと見えたが授業態度も熱心だ。

それなのにクラスじゅうから嫌われ、いじめられている。


夏には水着にピンクのチョークで落書きされて授業の前に洗っていたのを見た。

スニーカーの紐を抜き取られて、仕方なく上履きで帰ったのも知っている。

数名のクラスメートに囲まれ小突かれていたのもついこの間のことだ。


担任はそろそろ定年の男性教師で、いじめに気づいていない。いや、気づいているかもしれないが知らぬ顔をしている。

(どうでもいいわ。)

晃子の頭の中は木像のことでいっぱいだった。

先日、校外へ郷土の授業へ出かけたときのことだった。道と畑の境に古い小さな祠があった。花も供えられていない、忘れられたような祠だった。最初はお地蔵さんかと思って中を覗いた。

ところが中には小さな木像があった。

「えっ。」

晃子の目に間違いがなければ国宝指定されてもおかしくない作家の手によるものだ。

それがなぜこんな田舎にあるのかよくわからない。

見つけた時は体が震えた。その晩かばん錠のかかった古い鎖を切ってこっそり盗んだ。

盗む時少し祠を壊したが、もともと古いものだったし誰も気づかないだろう。

中を覗く者もいまい。

なんとか木像の買い手を見つけ、教師はやめる。

子どもたちがいくら可愛くても一生続けたい仕事でもない。

それが晃子の考えだった。


「折口・・・先生」


明るい未来を妄想しながら、通用口を出て駐車場に向かっていたとき、垣根から傷だらけの男児が出てきた。


「え?なに?どうしたの?」

とっさに晃子が駆け寄ると、男児はにやっと笑って晃子の手を掴んだ。


------------------------

「い、いや!」

あきこ先生をくんかくんかするゼーレさん。

あきこ先生は突然起こったことに理解が及んでないみたいで、怖いのか、ただぶるぶる震えてる。

ゼーレさん、近い、近いって。やめれって。

ゼーレさんの鼻とあきこ先生の顔はほとんど同じサイズ。たしかに怖いか。

『うるさいね、においってのは重要な情報なんだ、黙っておいで。』

はーい、すみません。


九郎さんが怪我してる男児に化ける

あきこ先生、怪しまず男児に近づく

ゼーレさんがあきこ先生を異空間に誘い込む←イマココ


なんでこんな芝居がかったりことを、と、聞いたら単に九郎さんとゼーレさんの趣味だって!

趣味なのかよ!

それにこの異空間。

めっちゃ異空間だわ。諸星大○郎ワールドか。

気味悪い空の色、ジャパニーズホラーな鳥居の下で、明らかに人間でないモノたちが、かごめかごめをしている。うっすら聞こえる歌声がデスボイス。

こわっ!


九郎さんはいつもの地味な姿に戻っている。そして淡々と述べた。

「折口晃子さん、あなたは木像を盗み、祠を壊し、土地神に怪我をさせました。木像を速やかに返却し、祠を修理した上、次の新月にポッチーを1ダース、供えてください。」

「い、いやっ。」

これは九郎さんへの返答ではなくて、ゼーレさんがぺろっと舐めたせい。

ゼーレさん・・。

『あ、すまないね。つい。おいお前、聞いていたのか?』

こくこく、とあきこ先生が頷く。

『よろしい。口約束になるといけないから、お前の魂を少し預かるよ。』

言うが早いかゼーレさんはかぷっとあきこ先生の頭を・・・マ○ったーーーーー!

個人的にはマ○ったっていうより、初回登場時のさ○はるなんだけど。

・・・ということはなく、ゼーレさんが口を開くとぼんやりとした表情のあきこ先生が、へらへら笑っていた。

「おしおきはここまで、あとは配務官に報告しておしまいです。帰りましょう。」

九郎さんは胸のあたりから紙を出して、ゼーレさんと相談して何かを書き、あきこ先生に署名させた。

何書いてあるんだろ。

「見ますか?」

九郎さんが紙を寄越す。

なになに?

「知ってたの?」

そこには、木像を盗んだこと、そのためにお仕置きを受けたこと、そして、私がいじめられているのを助けなかったことが書かれていた。

「まあ、なんとなく。木像盗んでから彼女のこと見張ってましたからね。」

『あたしはにおいでわかるんだよ』

「そうなんだ。で、あきこ先生はどうなるの?」

「おそらくこれから数年不幸になるよう調整されます。天罰ですね。」

「そっか。」


いやね、別にあきこ先生のこと恨んでなんかなかったよ。

ただ、先生も助けてくれないんだなって思っただけ。

でも、なんか、えへへ。ちょっとすっきりしちゃった。

「ありがとね、九郎さん。」

「どういたしまして。」

『ちょっと、あたしにもお礼は?』

「ゼーレさんも、ありがとう。」


その晩私は、20年ぶりに何も考えず、子どものように(子供だけど)ぐっすり眠った。

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