3話
ちょっと待て、落ち着け私。
仲直りできるなら、したいに決まってる。
ダンテくんは優しい微笑を崩さないでこちらを見ている。
でも。
私の興奮した脳内でアラームが鳴っている。
脳が、ダンテくんの話にツッコミどこがあると、言っている。
ああくそ、こういうときちゃんと問題点とか見つけられないから学者になれなかったんだ、私。
でも、それが何かははっきりわからないけど、疑問に思ったことはある。
正史。
ダンテくんはそう言った。
正しいはずの歴史はすでに決まっているの?
「そうですよ、ある程度決まっています。人間はそれを運命といいます。」
ある程度、ということは細部までではないのね。
「はい、細部はあまり決まっていません。大きな流れだけ決まっており、その流れの真ん中に乗ると幸せになります、ですがもちろん、流れに近すぎる人、離れすぎる人もいる。そういう人のために配務官が幸、不幸を配分するのです」
なるほどね、誰でも流れには乗ってるの?
「流れに関与しない存在はいません。道の石ころ、飛んでいるたんぽぽの種、なぜか捨てられないピザの広告、全ては最終的に大きな流れに繋がります。」
なにそれ、胡散くさー。
「ははは、ごもっともです。まあ、ここからは守秘義務がありますからあまりお話できませんが、貴方と静さんが仲良く生きることは、流れにとって大きな意味があります。」
ん?
ということは、どちらかというと、ダンテくん側が私に人生やり直してほしいってこと?
そのほうがダンテくんたちにも都合がいいって聞こえるよ?
「まあ、そういうことです。」
なんだ、それなら最初からそう言えよー。
最初の話だと人生やり直させてあげる、みたいな感じだったでしょ。
おばちゃん、そういう駆け引き嫌いだなー。
「もちろんそれも嘘ではありません。それにあなたがやり直さないのであれば別の手段があと13通りあります。」
ふぅん、ではなぜ私を選んだの?
「前任者の怠慢による被害が一番大きかったからです。それにあなたは大きな後悔を抱えていたから、説得しやすいと思いました。」
お、おぅ。
ダンテくんの超わかりやすい説明。
そりゃ私でも駆け引きするわ。
「こちらが全面的に悪いので、人生やり直しだけでなく、お詫びを兼ねて、貴方が後悔していた静さんとの仲直りをサポートします。」
サポート?
必ず仲直りできるんじゃないの?
「今の段階では不確定要素が多すぎて断言できません。それでも配務署の総力でもって仲直りに導きます。それによりあなたは幸せを掴みこちらも正史へ軌道修正する。だから・・・みんなで幸せになりましょう。」
なんか腑に落ちないし丸め込まれてる気がするけど、静と仲直りできるなら・・・。
それに絶交さえなければ少なくとも今より不幸にはならない、失うものはない。
悪くないんじゃない?
あ、ちょっと待って、記憶は持っていけるんでしょうね。
「はい、お持ちください。まあ、いらないとは思いますがね・・・で、わかってもらえました?」
うん、わかった。静と、仲直りしたい。
やばい、考えただけで涙が。鼻水も。
「あなたならそう言ってくれると思ってました。」
と、ところで何かチートな能力くれるんでしょうね。
受験らくらく突破できるくらいの学力とか。
「そうですね、ええと、これ。」
ダンテくんはスマホを1台取り出した。
「時空や次元に関係なく、ぼくへ直通でかかります。いつでも連絡ください。どうですか?なかなかのチートでしょう。」
なんか・・・微妙。そういうのじゃなくて、魔法とか、そんな系がいい。
「貴方の思ってるようなそういう世の理に反したものはダメです、その代わりにこちらを。」
ちっ。
ファイアーボールとかさあ、してみたかったよ。
って!
うわ!
ダンテくんの後ろからかなり大きい猫みたいな動物が現れた。
まあ、人が乗れるくらい?
「あなたを守ります。ミアキスの進化系みたいなものです。名前は、ぼくはゼーレと呼んでいます。ペットに近い形ですがペットではありませんのでご注意を。説明はスマホに入っています。」
ミアキスって?
それよりこんなでかい生き物、そもそもペットとか思えんわ!
顔はめちゃくちゃかわいい、白銀のホワホワの毛。
・・けど爪と牙、なによりサイズがやばいでしょ。
「ゼーレはあらゆる時空と次元に存在しているため、流れ、すなわち運命を見通しています。ですから、判断に迷ったときはゼーレに従ったほうがいいです。」
へー。すげー。
めっちゃチートじゃん。
なんかありがとう。魔法はだめでもそれならOKよ。
「どういたしまして、さて!最後に1つ。」
ダンテくんがふわりと浮いた。
「貴方はこれから30年前に戻るわけですが、当時と全く同じ歴史を辿ろうとする必要はありません。ひたすら、静さんとの仲直りだけを目的にしてください。ではまた。」
最上の微笑みとスマホとゼーレを残し、ダンテくんは飛び去った。
ぽかーんと空を見上げてると『あたしらも行こうかね』、男みたいな女みたいな声が響いた。
あ、うん。
ってゼーレくん喋れるんだ。
『ゼーレさんとお呼び。それに涙拭きな。』
ギロっとゼーレさんが睨んで、どこからかハンカチみたいなものを出した。
迫力やべーし!
なんかダンテくんより親しみにくいんスけど。
『当たり前だろ!こっちのほうが高位の存在なんだ。』
さーせーん。
『あんた、見たところ相当ひねくれて薹が立ってるね。40少し前の女ってこんなもんかねぇ・・・』
そう言ってゼーレさんがスキャンするみたいに私を眺める。
『スキャンじゃない、アナライズさ。ふぅん、アンタ聞いてたよりかなり運がないね。』
運?
『不幸が調整されないと、人生は本人の運に任される。アンタ、相当運がなかったね、流から一番遠いとこにいるよ。まあいいや。とにかく戻るよ。』
へぇ、そういうもの、って!
まってええええ!
私はゼーレさんの大きな口に咥えられ、ものすごい力で投げられた。
読んでいただいてありがとうございます。
登場人物の一人に自己投影して自分というものを見直そうとして厨ニ病時代に書き始めたものです(恥)
今までちびちび書き続けていますが、読んでいただけるだけで嬉しく感動しています。
拙く、整合性もとれないようなところがあること、お詫びいたします。