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1話

あ、痛い、と思っただけだった。

その瞬間、息が止まって、机に額ぶつけてズルズルと床に倒れた。

原因はわかってる。

この前の会社の健診で心臓引っかかったもん。


まだ40ちょっと前だし次のボーナス出たら病院行くつもりで、とりあえず気休めに求○飲んでたけど、だめだったか。

あー、これで終わりか。


向かいのデスクの若いSEが、救急車呼んでるけど、ウチの会社AEDないし詰んだよね。

っていうか、この前総務課長にAED設置したいから稟議書作ってって言われた矢先だよ。

まさか自分がこうなるとはね。


まぁ、いっか。親には悪いけど、先逝くわ。ごめんね。


・・・って!

よくない!

全然よくない!

頑張って、私の身体!


ここで終わったら私の人生なんだったの。

どの人の人生もそれなりに幸せと不幸せがプラスマイナスゼロになるんでしょ?

そういうよね?あれ、違う?

いや、どっちでもいい。

私の人生、客観的に・・・特にこの20年はマイナス続きだったから、この先プラスに向かうはずでしょ?


いやいや、プラスにしてなんて贅沢言わない、せめてゼロまで戻して!

このままじゃ、死んでも死にきれないよ!

だから、ね、ね、お願い、動いてよ、心臓ちゃん!

もしくは、早く救急車来い。


というところまで考えて、私の意識は唐突に何かに引き寄せられる。

あ、これあかんやつだ。

本能でわかるわ、これ召されてる。


はー、やっぱ死んだか、私。

まあ私の人生ってほんとこんな感じだよ。

チャンスって時に家族に病人出てだめになったり、少し貯金できてキャリアアップできるって時に旦那が借金作ってヒモ化したり、妊娠したものの子宮外でどうしようもなかったり、近所の親睦会やってるときに兄貴の行方を訪ねてヤクザが来たり。

毎年家内安全のお守り買ってたのに、あんまり効果なかったどころか、こういう話は枚挙に暇がない。

今の会社も介護明けでブランクあって、しかもこんなおばちゃんにも関わらず雇ってくれて、待遇も人間関係もよく、これからって時に、まさか死ぬとはね。


まあ、いいか。仕方ないじゃん。

あとは天国か地獄か、それ以外か。適当に割り振られるでしょ。

私の長所は諦めの良さ!

うん、こうなったら仕方ない、諦めるか。

私は安らかな気持ちで流れに身をまかせた。

が。

すっ、と突然引き寄せられる感じから解放された。

って、ん?少年?

目が開いてんだか開いてないんだかわからないけど、目の前に神々しい少年が立っている。

印象派の絵の中にいる感じの西洋系の美少年。

これが亜麻色って髪の色かー、初めて亜麻色の実物見たわ。


「春日華子さん?」

少年が日本語で尋ねてきた、日本語かー、違和感あるな。

ラテン語とか喋ってほしいな。わかんないだろうけどな。

「ごめんね、日本語で。」

くすくす、と少年が笑う。

あ、聞こえてた?失敬失敬。

「いいよ、平気。それより切り替え早いね。もっと慌てていいんだけど・・・貴方の場合仕方ないか。」

褒められてんのかな、それ。

「褒めてるというより、人間の順応性に驚いているところ。」

あ、そうなんだ。で、君誰?かわいいね。おばちゃんうきうきしちゃうぞ。

「申し遅れました、私、配務所のダンテです。」

はいむしょ?

「はい、この地域の皆様の幸せと不幸せの配分を担当しています。」

なに?ということはこの20年ほどの私の不幸だらけの配分は君がやったのかー!

「違いますよ、私の前の担当官です・・・あ、前任者は罷免されました。たぶん誰もが納得できる罰を受けているはずです。」

あ、そう。ありがとう。

「結論から言うと、あなたには人生をやり直していただきたいと思っています。」

は?詳細プリーズ。

「ご存知のとおり、どの人も幸せと不幸せ、最終的にプラマイゼロになるよう人生は出来ています。これは私たち配務所で不幸バランスを調整しているためです。ですが前任者の怠慢で、この地域の不幸バランスがこの20年ほど全く調整されていなかったことがわかりました。」

あー、なんとなくわかる。

幸せすぎる人と不幸すぎる人が極端だったから。私とかな。

いやいや、私が僻んでるのと違うぞ、客観的にもなんか変だったわけよ。

あ、疑われるかもだけど、私これでも学者目指してたから、客観性にはちょっとうるさいよ。

「殆どの方はこれから不幸バランスを調整することができます。ですが、貴方はこれから調整するという時に残念ながら死んでしまったわけです。」

ふむふむ。

「というわけで、約30年前からやり直すチャンスを差し上げようということになりました。」

ふーん、そういうこと・・・それなら異世界転生がいい。ハイエルフのきれいなねーちゃんになってモテまくって生きてみたい。おばちゃんロード○島戦記世代だし、趣味は読書、論文、ノンフィクション、最近のラノベでもなんでもよく読むからそのへん詳しいよ?だって文学者目指してたんだもん。

「すみません、残念ながらそれは不可能です。あなたはあなたの人生をやり直すのです。」

は?いまなんつった?

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