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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第四章 月下の決闘

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月下の決闘 幕間2



『そいつが今更人間になんて戻れるわけねえだろうが』


 声が、聞こえる。


『一度あそこへ行ったのなら、一度あの場所に潜っちまったのなら、もう人に戻ることはありえねえよ』


 覚えている。初代魔術師の言葉、思い、記憶。

 あれは、もう人間とは呼べなかった。


『同類さ、俺と。人として生きたいと願ったとしてもな、生命的な我慢にはいずれ限界が来る』


 突きつけられた銃口を意にも介さず、人間の残滓は嘲笑った。


『人が眠らずどれだけ生きられる?飲まず食わずでどれだけ我慢でなんとかなる?』

 

 無理なのさ。

 所詮俺たちはもう。


 

 


「『炎符――――』!」

「行け」

 俺の手の中にあったカードのうち二枚を、セツカの投げ放った術符にぶつける。

 成功。術符はその効果を発揮することなく燃え尽き、内側から崩壊させていく。

 思った通り、内包している術式のバランスさえ崩せれば勝手に術式が弾け飛ぶ。

 こういったアプローチを想定していないのだろう。プロテクトと呼べるものは一切ない。ならば、壊すこと自体は簡単だ。

「さあ、どうする?」

 俺の挑発にセツカが新たな術符を取り出そうと手を動かすが、やらせない。

「『嵐……」

「『コード・スプリット』」

 俺は残った二枚のカードをセツカに向けて解き放つ。カードは途中で姿を変え、二機のミサイルとなってセツカに向かう。

 セツカはギリギリまで見切って横に避けるが。

(無駄だよ)

 そうだ、ミサイル。見たことのないモノだろう。だが、当然そいつはお前を追尾する。

 セツカの眼が、驚愕に見開かれた。

 意志でも持つようにセツカに迫る二機は、不意を突いたこともあって直撃する。

「っぐ!」

 だが、致命傷ではない。当然だ。あの短時間ではあれが限界。追尾性、即効性のためにごく簡単なコードの模倣しかできなかった。

 だが、そんなことは悟らせない。

 騙せ。

 欺瞞しろ。

 それが、俺たちの戦い方だと思い出せ。

「『コード・バインド』」

 拘束のコードは電脳一課でアホ程叩き込まれた。これも作るのに思考時間は必要ない。

 迫るに対してセツカが刀で対応する。そうだ、それでいい。

 魔術の早打ちでなら、こちらの方が早いと錯覚させろ。

 中空を踏みしめてセツカの頭上を取り、その思考の裏でコードを練り上げる。もっと、もっと。

 思い出せ。

 もっと――――。


「「『コード』」」


 声が、重なる。


「「『ジェネレイト』」」

 

 記憶にあるおぞましい声と、自身の声が、重なって聞こえた。

 それはあくまで錯覚のようなもので、事実として俺の口からは俺の声が発せられただけだったのだが。

 どうしてか、それが聞こえた。

 コードは、俺の意思通りに光線の檻を形成し、セツカから行動の自由を奪い取る。

「『護術』」

 避けられないと判断したのか、セツカは手印を切った。

「『結』!」

 セツカの目の前で押し留められる白撃。

 だが、そいつは。

「残念ながら」

 俺は影を束ね、幾重もの刃に変えて結界に叩き付ける。

「そいつは、一度見てる」

 そして、そいつが長く続かないこともよく知っている。

 結界をぶち破り、息をつかせる間もなく残った影でセツカに強襲する。

 セツカは影に怯むことなく一歩を踏み込み、鋭い一太刀で影を両断。武芸として洗礼された一閃。これは、流石としか言いようがない。

「『雷符・遠雷』」

 そして流れるような動作で抜き打たれる術符。だが、威力は先ほどまでの術とはかけ離れて貧弱だった。

 煩わしい。けれど脅威には足りない。そう断じて影の衣を纏った片手で雷を払う。

 やはり、軽すぎる。この術はきっと俺に隙を作らせるために放ったのだろう。

 次はどんな手を打ってくるのか。そう警戒してセツカの方を見やれば。

(……?)

 どうしてか、空白が生まれる。

 セツカは動いていなかった。

 その瞳が、俺のことを見ている。

 いや、もしかしたら俺のことを見ている様で。

 本当は、別の何かを見ているんじゃないかと、そんな風に思えた。

 

 その目がすっと細められ、そして再び、セツカが刀を構える。

 今度は、両の手をその柄に添えて。

(そうか)

 両手を封じると言うことは、術符はもう、使えない。

(あれが、俺の居た世界にはもういない、剣士ってやつの顔なのかね)

 悲壮感の無い覚悟とは、こうも人の心を撃つものか。

 俺も、構える。

『魔術師』と、そう呼ばれていた時のように。

 

 決闘は、最後の時を迎えようとしていた。


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