月下の決闘 ②
広がるは闇。
切り裂くは月下の淡き光のみ。
相対するは剣に命と結末を委ねる者たち。
知するに能わず、野打たれる二つ刃の鍔鳴りは、決する時を待つ獣の慟哭か。
これより行われしは、古来より受け継がれし儀。
すなわち、命を賭した正式な決闘を。
「よう」
これから命のやり取りをしようっていうのに、そいつは涼しい顔をしていやがった。
瞑想でもしているかのように眼を閉じて、風に身を任せるような柔らかな立ち姿をしている。
傍目には俺のことなど眼中にないかのように見えるだろう。
「なるほど」
けれど、俺には感じられる。研ぎ澄まされた集中と殺気の冷たさを。
「もう、言葉はいらない、か」
「無論」
閉じられていた眼が開き、俺を見据える。
「すでに話すことなどありはしません。あとは、この刃でことの全てを決するのみです」
「風情がないねえ」
「戯言を」
その敵意の籠った視線に肩をすくめてやる。
ふざけるのも大概にしろと、言葉以上に語ってくれるようだ。
だが、勘違いしてほしくないね。
俺の方だって、滾っているのだ。
こんなまともな感覚、いつぶりになるか。
「それで、始まりの合図はどうする?」
始まりを告げる立会人もなし、かといって好き勝手に始めるんじゃあせっかくの決闘、それこそ風情ってもんがない。
「それについてはご心配なく」
俺の疑問に対して、一つの石を取り出した。
「こちらとそちらを分かつ結界石です。一度術として開放すれば強固な結界を作りますが、ほんの数舜のうちに音を立てて自壊します。それがいつなのかは、術者である私ですら知りえません」
「なるほど。そいつが壊れたら、それが、合図ってわけかい」
「はい」
「いいぜ、それでいこう」
「よいのですか?」
「あ?」
言葉の意味が分からず、俺は眉をしかめた。
「こちらの提案にすべて委ねてしまって」
「なんだ、そんなことか」
「私が、嘘をついていない保証など、どこにもありはしませんよ」
結界石とやらが壊れる時間の把握、あの石そのものが罠、そんな風に仕掛けようと思えばいくらでもできちまうのは事実だ。
「いいぜ別に、その程度の小細工で俺を殺せるっていうんなら、やってみればいい。それに」
けど、それがどうした?
「決闘なんて古臭いこと言いだす奴に、そんな疑いは無粋だろ?」
「……アル殿」
「御託はいいさ。そろそろ始めようぜ」
俺は挑発的に、人差し指を立てて、二度ほど手前側に折りまげる。
「さっさとそいつを投げな」
「わかりました」
セツカが石を投げた。
二人のちょうど中間に落ちる。
俺とセツカの間には、今は不可視の壁がある。
これが割れれば、殺し合いの始まり。
「――――――やはり」
「あん?なんだよ」
今更になっての言葉。決闘までのほんのわずかな時間。いつ始まるかも知れないこんな時に、お喋りとは。
「いいえ」
セツカはゆっくりと、首を振った。
「あの旅が、本当の意味で無意義では無かったと、確信しただけのこと」
「なんだよ、そりゃ」
「私からの戯言ですよ」
「意趣返しって訳かい。俺はあんたのそういうとこ、嫌いじゃ」
音が、割れた。
「無かったよ!」
影の鎖をセツカに放つ。
「『雷符、薙ッ』!」
迎え撃つは三条の雷撃の爪。
影が取り払われ、代わりに見えるのは刀ではなく幾重もの術符を構えたセツカの姿。
「おいおい」
電撃の余波に顔をしかめながら、俺はその姿に疑問を投げかける。
「魔術は苦手なんじゃなかったのか?」
「ええですから」
次に握られるは、血のように赤い文字で綴られた三枚の術符。
「出し惜しみ、一切無しでお相手させて頂きますよ」
憎たらしい顔で笑うセツカ。
俺はそれを獰猛な笑みで返してやる。
月明かりの下、仲間同士の殺し合いが始まった。




