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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第四章 月下の決闘

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月下の決闘 ②


 広がるは闇。

 切り裂くは月下の淡き光のみ。

 相対するは剣に命と結末を委ねる者たち。

 知するに能わず、野打たれる二つ刃の鍔鳴りは、決する時を待つ獣の慟哭か。

 

 これより行われしは、古来より受け継がれし儀。

 すなわち、命を賭した正式な決闘を。


 

「よう」


 これから命のやり取りをしようっていうのに、そいつは涼しい顔をしていやがった。

 瞑想でもしているかのように眼を閉じて、風に身を任せるような柔らかな立ち姿をしている。

 傍目には俺のことなど眼中にないかのように見えるだろう。


「なるほど」


 けれど、俺には感じられる。研ぎ澄まされた集中と殺気の冷たさを。


「もう、言葉はいらない、か」


「無論」


 閉じられていた眼が開き、俺を見据える。


「すでに話すことなどありはしません。あとは、この刃でことの全てを決するのみです」


「風情がないねえ」


「戯言を」


 その敵意の籠った視線に肩をすくめてやる。

 ふざけるのも大概にしろと、言葉以上に語ってくれるようだ。

 だが、勘違いしてほしくないね。

 俺の方だって、滾っているのだ。

 こんなまともな感覚、いつぶりになるか。


「それで、始まりの合図はどうする?」


 始まりを告げる立会人もなし、かといって好き勝手に始めるんじゃあせっかくの決闘、それこそ風情ってもんがない。


「それについてはご心配なく」


 俺の疑問に対して、一つの石を取り出した。


「こちらとそちらを分かつ結界石です。一度術として開放すれば強固な結界を作りますが、ほんの数舜のうちに音を立てて自壊します。それがいつなのかは、術者である私ですら知りえません」


「なるほど。そいつが壊れたら、それが、合図ってわけかい」


「はい」


「いいぜ、それでいこう」


「よいのですか?」


「あ?」


 言葉の意味が分からず、俺は眉をしかめた。


「こちらの提案にすべて委ねてしまって」


「なんだ、そんなことか」


「私が、嘘をついていない保証など、どこにもありはしませんよ」


 結界石とやらが壊れる時間の把握、あの石そのものが罠、そんな風に仕掛けようと思えばいくらでもできちまうのは事実だ。


「いいぜ別に、その程度の小細工で俺を殺せるっていうんなら、やってみればいい。それに」


 けど、それがどうした?


「決闘なんて古臭いこと言いだす奴に、そんな疑いは無粋だろ?」



「……アル殿」


「御託はいいさ。そろそろ始めようぜ」


 俺は挑発的に、人差し指を立てて、二度ほど手前側に折りまげる。


「さっさとそいつを投げな」


「わかりました」


 セツカが石を投げた。

 二人のちょうど中間に落ちる。


 俺とセツカの間には、今は不可視の壁がある。

 これが割れれば、殺し合いの始まり。


「――――――やはり」


「あん?なんだよ」


 今更になっての言葉。決闘までのほんのわずかな時間。いつ始まるかも知れないこんな時に、お喋りとは。


「いいえ」


 セツカはゆっくりと、首を振った。


「あの旅が、本当の意味で無意義では無かったと、確信しただけのこと」


「なんだよ、そりゃ」


「私からの戯言ですよ」


「意趣返しって訳かい。俺はあんたのそういうとこ、嫌いじゃ」


 音が、割れた。


「無かったよ!」


 影の鎖をセツカに放つ。


「『雷符、薙ッ』!」


 迎え撃つは三条の雷撃の爪。

 影が取り払われ、代わりに見えるのは刀ではなく幾重もの術符を構えたセツカの姿。


「おいおい」


 電撃の余波に顔をしかめながら、俺はその姿に疑問を投げかける。


「魔術は苦手なんじゃなかったのか?」


「ええですから」


 次に握られるは、血のように赤い文字で綴られた三枚の術符。


「出し惜しみ、一切無しでお相手させて頂きますよ」


 憎たらしい顔で笑うセツカ。

 俺はそれを獰猛な笑みで返してやる。


 月明かりの下、仲間同士の殺し合いが始まった。


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