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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第四章 月下の決闘

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片月と桜の道 ③


「ハァ、ハァ」


 ――――そして、最後に。


 声がする。繰り返し、繰り返し、同じ声が。


 ――――この手記を読んでいるのが、私の愛すべき子弟の二人であると信じて。


 『待って、いるから』



「セツカ!」


 急に部屋に飛び込んできた私のことを、驚いた目で見つめるセツカ。


「ナユタ様、どうしたのですか。そんなに、その、お急ぎのご様子で」


 確かに、私は自分の今の姿は酷いものでした。山道を走ってきたので、着物には多くの泥や土に汚れていましたし、ずっと走って来たので息は上がって、ひどく汗をかいていました。

 けれど、今はそんなことはどうでもいいのです。


「セツカ、これを」


 私は膝をつきそうになるのを必死でこらえて、それをセツカに差し出します。

 セツカは、最初私が何を持っているのか理解していなかったようですが、それを認識した時、その目が静かに、けれど確かに見開かれました。


「そんな、まさか」


 その手の震えを見て、私は理解します。

 セツカも、本当はまだ迷っていたり。

 あの人に頼ったりしたかったのだと。


「ロッテさんが見つけてくれて」


 呆然とした様子で、セツカが小さな声で言いました。


「これを、ロッテ殿が……」


「はい。そうです。そして」


 手記の最後に挟まれていた手紙と一枚の術符。


「セツカ」


 その最後に記された、私たちに宛てられた想い。


「私に命を、預けては下さいませんか?」



 

 私たちは、その濃い霧の中を進んで行く。

 蒼い燐光を放つ、私の瞳にのみ映る光の蝶を追って。

 ともすれば、眩んで、自分すら見失いそうになるその道を。

 二人、手を携えて。


 

 ――――この術符が君たちを案内してくれる。

 ――――もしも、その気が、あるならば。

 

 待って、いるから。


 私達の手の中に、この場所に在って正しきを教えてくれる灯篭はありません。

 私達が向かっている先は、正しきを外れた場所だから。


「…………」

「…………」

 

 私もセツカも言葉を発することはなく、先見えぬ道を蝶の光を頼りに進んで行きます。

 私達のしていることは、理に反した、本来はあってはならないこと。

 けれど、ここに至るまでに迷いはありませんでした。

 あの人が、待っていると言ったのですから。


 そして、長く、短く、不透明な時間の果て。

 蝶の導く先は、本来、繋がるはずのない場所。

 視線が、その繊細な指の動きに吸い込まれる。

 蝶はその指先に触れて、蒼い燐光を残して消える。


「……そうか」


 桜の根元に座り込み、その幹に灯篭と刀を預けた後ろ姿。

 蝶の燐光と同じ蒼い魂を持つ人。


「本当に、来てくれたんだね」


 覚えている。

 ずっと傍に居てくれた人。

 懐かしき、その姿を。


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