東域国 ②
朝。
通された居間でその光景を見た時、ボクはなんとも言えない気分を味わった。
「おはようロッテ」
「……なに、飲んでるの」
「ふむ、みそ汁と言うらしい」
エリザはすでに器用に綺麗な持ち方でお箸を扱っていた。床に座っているのにも慣れた様子で、綺麗な正座維持したまま、御椀を傾ける。
「……美味いぞ?」
そうじゃない。その汁物に疑問を持ってる訳じゃない。
君のその馴染みっぷりに頭を抱えているんだよボクは。
「ああ、ロッテさん。おはようございます」
「おはよう、ナユタ」
「エリザさん、こちら御飯のお代わりです。それとこちらは納豆というモノです。よろしければ」
「かたじけない」
「………………」
この姫御子様は普通にニコニコしていらっしゃるが、この光景に疑問とかないのだろうか。
「えっと、あの、なんかすみません」
なんとなく謝ってしまうボク。
「いえいえ、私、たくさん食べる方って好きなんです」
能天気に答えるナユタ。その様子からお世辞とかではなさそうだった。
「それで、ロッテさんはどうされますか?」
「……頂きます」
結局ボクもそう言って用意されいていた御膳の前に座るのだった。
「こちらをどうぞ」
「なにこれ?」
朝食の後、ボクたちに護符が一枚ずつ差し出される。
「この護符は身に着けていれば、その間だけ姿を変えてくれます。髪と瞳の色が変わる程度のものですが、それでも十分効果を発揮してくれると思いますよ」
「変装と言う訳か」
満足そうに食後のお茶をすすりながら、エリザはその護符をしげしげと眺める。一方ボクの方は、構造が気になってちょっと、念入りに観察をした。見た目にはそれほど強力な魔力は感じない。どちらかと言えば魔力を結い合わせてる感じだ。
この国の魔術はこういう細かい術式が多い。
「けど、どうして急にこんなの用意してくれたの?」
昨日今日で用意するの、結構大変だったろうに。
「あ、はい、それはですね」
ナユタは満面の笑みを浮かべて。
「今日は、一緒に町を見に行きましょう」
「あの、ボク達お尋ね者なんですけど」
「私が身元を保証すれば大丈夫ですよ」
「いや、けど」
「いいからいいから」
その一言と笑顔に押されて、結局町まで下りてきてしまうボク達。
「それで、目的は?」
「いえいえ、目的なんてありませんよ。この国に来てなにもしないでいるのも退屈でしょう?」
「…………」
「こんな機会は滅多にありませんし、どうせなら楽しんではいかがですか」
ボク達は、旅行に来たわけじゃないと突っぱねるのは簡単だけど、お世話に色々とお世話になってる手前、断りにくい。
(まあ、この国のことを知るにはいい機会だし。目立つようなトラブルさえ起こさなきゃ、それで)
そう思ってた。
思ってたんだけど。
「おう、なんだ姉ちゃん。女が刀なんか下げちゃってよう」
「化粧道具じゃねーんだぜ、そいつはよう」
「危ねえからこっちに寄越しなよう。そこの質屋に預けといてやるからさあ」
「ほう」
なんだか息をするようにトラブルに巻き込まれていた。
「ちょ、ちょっと」
ボクたちはお尋ね者なんだから、あんまり目立った行動はまずい。
「安心しろ」
そう言って前に出るエリザ。良かった。エリザもそれくらいのことは分かってくれているようで……。前?
「こういった輩は騎士学校時代から残らず叩きのめしてきた」
「だー!全然通じ合って無いじゃん!」
「さあ、かかってこい」
かかってこいと言いながら、男三人相手に殴りかかりに行く。勢いはいい。躊躇一切なし。
ここ数日の付き合いでなんとなく分かったことがある。エリザは基本的に脳味噌まで筋肉で出来てるタイプ。つまり。
(ボクの苦手なタイプだ)
「あの!おバカ!」
バカにつける、薬、無し。




