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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第三章 二人の騎士

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騎士の在り方 ⑦

 

 一振りすればシャンと鳴る。美しい笛の音のような剣。

 私はその光景を、一人、沈黙してただ見入っていた。

 

 きっと誰の目にも、不思議に映ることだろう。

 凶刃を振りかざし、襲い来る村人の横を流れるような動作で彼が通り抜ける。それだけで、村人は意識を刈り取られ、倒れ伏す。

 まるでそういう魔法でも使っているかのようだが、事実は違う。彼は剣の技量のみで、村人たちを一人一人丁寧に気絶させているのだ。手加減をしながら。

 カークの歩みは、止まらない。

 最小限の動きで、誰にも負傷一つをさせずに、一人の仕損じも無いまま村人たちを無力化していく。

 まるで何でもないことかのように。

 ああ、そうだ。私は知っている。これが、カーク・グライス。

 首都の騎士学校という、この国で最も優れた剣の才の持ち主たちを集めた最高峰。

 その中で、最も剣に優れた者。

 あれがただの家の格を笠に着ただけの坊やならどれだけ良かったことか。

 誉れ高き近衛騎士の、その中でも武勇と人格を持つものにのみ与えられる、王族の護衛を任される騎士の中の騎士。

 それが、あの男、カーク・グライスなのだ。

 彼には世界がどんな風に映っている?何故あれだけ迷いなく剣が振るえる?

 間違って村人を殺してしまってもいいと考えているのだろうか。いや、そんな男ではない。騎士らしさこそが彼の美徳で、それは同時に弱点でもあったはずだ。

 なのに、何故。

 気が付けば、カークの周囲に立っている者はすでにいない。

 演武の終わりを告げるかのように、剣を鞘に戻す。

 その一動作すら、やはり流麗で美しい。


「僕が悪夢を斬る。世界を救えなくとも、君を救う。来い、もう一度、あの日の再演をこそ、僕は望む」


 それが誰に向けられたものなのか、考えるまでも無い。

 赤い瞳の囁きも、すでに気にならない。

 行こう。

 あの日と同じ、剣二本分の間合いまで。

 少なくてもそこまでは、誰に邪魔される云われも無いのだから。


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