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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第二章 エリクサー

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正しいデートの誘い方 ①


「それにしても」


 ホテルさながらの豪奢なロビーで、行きかう人々を眺めながらひとりごちる。


「すげえな、ここは」


 魔術塔の一階部分、来客用のスペースは研究機関の一角とは思えないような内装の凝り具合だった。

 金があるのか、それとも見栄のためか。経験則では大抵が後者だが。

 少なくともそれらを眺めていれば、待っている間に退屈するということは無かった。


「お兄さん」


 一人の少女が人の流れの中を慣れた様子でこちらに歩いてくる。


「お待たせしました。ロッテ、すぐに来るそうですよ」


「悪いな、小間使いみたいなことさせて」


「いえいえ。お気になさらず」


 栗色の髪の少女がふわり笑みをこぼした。


「助かったよ、本当に」


 研究塔に来たはいいが、アポもなく、どうしたもんかと迷っていた俺に、この子が話しかけてきてくれたのだ。自分の事情を話すと。


『私はリサ。ロッテの……お友達です』


 そう言って、取次を買って出てくれた。本当に、ロッテの友人には似つかわしくない親切な子だ。


「と・こ・ろ・で」


 リサが上目づかいに俺を見ながら言う。


「お兄さんは、ロッテの恋人さんなんですか?」


 興味津々と言った風なその態度に、少し微笑ましさを感じた。そういう話が好きなお年頃か。


「さあ、どうだろうな」


 真正面から否定してもつまらないだろうと思い、そうはぐらかすように回答して、声を出さずに口元だけで笑っておいた。案の定、リサは嬉しそう口元に手を当てて、きゃー、なんて驚いた風な黄色い声を上げてくれる。


「ロッテったら、隅に置けないんだから」


 その時、コラー、という声が俺たちの間を通り抜けた。ロッテが、慌てたようにこっちに向かってきているのが見えた。


「あらあら。それじゃあ、あたしは行きますね」


「いいのか?」


「ええ。十分に楽しめましたから」


 そう言って、軽い足取りで俺から離れていくリサ。


「これ以上、ロッテの嫉妬を買ってしまってもいけないし」


 そういうのじゃないんだけどな、とは思いつつもわざわざ否定するような無粋はしないことにする。きっとリサも、そこまで本気で言っては無いだろう。


「それじゃあ、お兄さん。またね」


 手を振って、器用に人の波の中に消えていく栗色の髪の少女。なんていうか、ロッテとは正反対の、女の子らしい女の子だったなと想いながら、俺もひらひらと手を振った。


「もう、アル!」


 入れ替わりに、今度はロッテが俺の前に現れる。


「よう、久しぶりだな」


「全く呑気なこと言って!急になんの用なのさ!」


 久しぶりに会ったというのに、そのつっけんどんな態度に苦笑が漏れた。


「いい酒を貰ったんだ。一人じゃなんだし、一緒にどうかと思ってさ」


「……ボク、そんなにお酒好きじゃないよ」


「固いこと言うなって、肴も用意してきたんだ。なんならそれだけでもつまんで、相手してくれよ」


 俺は酒とつまみの入ったバスケットを掲げる。

 渋々ながら、ロッテは俺を自室に案内してくれる運びとなった。




 ああ、アルだ。

 ダークブラウンの瞳がボクを見ている。乱暴に撫でつけられた黒髪と、勇ましさよりも気の抜けたようなと表現するのがふさわしい、いつも通りの表情。

 時折見せる怖い顔でも、さびしげな感傷の色もない、一見して飄々とした、いつもの。


「吞み相手が欲しいなら」


 研究塔の部屋じゃなくて、宛がわれた自室の方に向かいながら、ボクはアルに不満を漏らすような声で言った。

 それは全く全然、本心じゃなかったけど。


「カークでも誘えばよかったじゃん」


「嫌だよ、あんなお堅い坊ちゃん相手じゃ、せっかくの酒も台無しさ」


「……ふーん」


 ボクなら、いいんだ。


「ねえ、アル」


「なんだよ」


「師……、リサとはいつ知りあったの?」


 本当に聞きたいことは胸に留めて、ボクは今二番目に気になっていることを口にした。


「ああ、ついさっきだよ。下で困ってたら、あの子が助けてくれたんだ。ロッテの友達なんだって?」


「まぁ、うん。そうだね」


 師匠、また猫被って。こまった悪癖だと思うけど、言って直すような人じゃないから、ボクは微妙な表情を浮かべるくらいしか、感情の置き場がない。


「素直ないい娘だったよ」


「……へー」


 師匠の悪癖はしょうがないにしてもさ、簡単に騙されるアルもアルだ。

 けど、まぁいいさ。いつかアルだって師匠の性悪を知ることになる。あの笑みの裏にある本性をアルが知ったらどんな顔するか。それは、今から少し楽しみだ。




「ここが、ロッテの部屋か」


「こら!乙女の部屋だぞ!じろじろ見るな!」


「お前が乙女なんてガラか?」


 ロッテの部屋は、面白味のないことに整理整頓の行き届いた綺麗なものだった。そのおかげか、こじんまりとしてはいても手狭と言う印象は無く、むしろ一人で暮らす分には十分すぎるという印象だった。


 キッチンに暖炉にベット、場違いなのは洋服掛けに立てかけられた箒くらいのもんだが、それもロッテの愛用の品だと分かっているので違和感は少ない。総じて、好印象だった。


(研究職の私室なんて荒れてるもんだけどな)


 偏見かも知れないが。


「えーっと、グラスとお皿と……」


 歓迎してる風ではなかった割に、ロッテはてきぱきとキッチンで準備を進めている。

 やっぱり食い意地の張った奴だ。


「なに笑ってるのさ」


「別に」


 言いつつ、俺も酒とツマミの準備をする。

 アルコールの分解設定は……、切らなくていいだろう。話を聞くために来たんだから、あまり酔い過ぎてもよくない。


「乾杯」


「あ」


 ロッテの用意したグラスに酒を注いで持ち上げる。ロッテもつられてグラスを握って、俺に合わせた。


「かん、ぱい」


「おう、飲め飲め」

 




 揺れている鮮やかな朱色の液体を眺めながら、ボクは持ち上げたグラスをテーブルに戻した。


「用意してもらって悪いけど、飲む気はないよ」


 そもそも、お酒はそんなに好きじゃない。


「そうかい。じゃあ、俺だけ」


 そう言って、一人でお酒を飲み始めるアル。


『その男をデートに誘え』


 そんなアルの姿を見ていると、師匠の言葉がふと頭をよぎる。


(なにを考えてるのさ!)


 あれはあくまで師匠の妄言で、ボクにはなんの関係もない話なんだ。

 けど、あれだな。良く考えてみると、アルが今、ボクの部屋にいるんだ。

 そう思うと、なんだか無性に顔が熱くなってきたような。


(だめだ、これは)


 良くない。非常に、良くない。

 なにが良くないのかは、ボクにもいまいちよく分からないけど。


「おいおい、どうした」


「え?」


「食欲ないのか」


 アルの少し心配そうな声。見れば、ボクのために用意された料理に、ボクは全く口を付けていなかった。


「そんなことないよ」


 ボクは慌てて煮込み料理を口に運んだ。味なんて分からないかとも思ったけど、そんなことない。普通にいつも通り、おいしい。


(なんでこんな料理上手いんだよ)


「美味いか?」


「……いつも通り」


「そうかい」


 ボクのそんな返答に満足そうなアル。なんなんだよ、もう。



 それからはいつも通りのペースを取り戻して、ボク達は色んな話をしながら食事を進めていく。

 会ってなかった最近のことを話して、下らない軽口もいっぱい言って、あの夜のことも少し話して、それで、それはとても楽しい時間だった。


(いつまで)


 不意に、ボクの頭によぎる。


(いつまでボクは、アルと一緒に居られるんだろうか?)


 今、アルはここにいる。だけど、アルがどこか遠くへと行ってしまう要因はいくらでもあるんだ。

 そもそも、アルは異世界の人間だ。いつかは、本当にいるべき場所に帰ってしまうかもしれない。それも、ボクの開発した技術で。

 そうでなくても、アルがこの世界に留まるって決めるなら、その理由はボクじゃなくてエレンになる。それは、きっと間違ってない。


(その時、ボクは)


「それで、さ」


 アルが、少し歯切れ悪く言葉を発する。それは実に珍しいことだった。


「最近、耳にした噂なんだが」


 その様子でなんとなく悟る。きっと、今日アルがボクに会いに来たのは、この話をするためだって。


「姫さんの誕生日が近いって聞いたんだが」


 それを聞いた瞬間、ボクの心が鉛のように重くなるのを感じた。それを表に出さないようにして、ボクは答える。


「そういえば、そうだね」


 やっぱり、ボクに会いに来たんじゃ、無かったんだ。


「それで」


 アルの浮ついたような表情を見て、ボクは必死に自制する。今、感情を表に出すようなことをしたらきっと幻滅される。そうでなくても、水を差すことになっちゃう。


「いくつか聞きたいことが……って、おい?」


 ボクは自分の感傷を呑み込むために何かを欲して、それで。


「お前、それ、そんな一気に飲むもんじゃ」


 ボクは、目の前にあったその朱色の液体を、一気に喉に流し込んだ。



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