番外編 レイン 前編
所詮、所詮は他人事。
大事な大事な他人事。
あなたへ贈る他人事。
「…………」
だから、後悔のない選択を。
本当に、これで良かったのか。
今でも、俺は悩んでいる。
きっと一生、悩み続ける。
(俺は)
それを人間は、後悔と呼ぶらしい。
「後悔はしていても」
「ん?」
その中でも、たちが悪いと思うのは。
「どうしたんだ、レイン?」
「……なんでもねえよ」
どれだけ後悔したって、俺は同じ選択を迫られれば。
何度でも、きっと同じ選択をして、同じものを抱え続けるだろうってことだ。
「……?変な奴だな。朝食が冷めるぞ」
「そうだな」
今や町のどこでも売ってるやわらかいパンに、―――の作った美味いスープ。
材料も器具も揃った環境は、俺にとってはもう見慣れた光景。
亜人の集落は、あいつのおかげで町になった。
「いただくよ」
手を伸ばす。
全部が、順調だ。
俺にとっては。
そのはずだ。
あいつを約束を守った。
こうして街を歩いて見える家々は、俺が昔に憧れた人の世界のそれと大差ない。
いや、大差ないどころか、ごく一部はすでに人を超えた技術を有している。
全部、あいつの、魔王の始めたことだ。
発展は、目覚ましい。
これまで虐げられてきた、亜人たちの未来は明るい。
喜ばしいことじゃないか。
「昨日、学校でさ―――」
「今日、郊外の森にさ―――」
「明日は、みんなでいつもの店に―――」
俺の横を、獣人族の子供たちが走り去っていく。
笑顔だった。
昔を知らない子供たちだ。
「………………」
まるで、最初からそうであったみたいな顔をした街。
王都が踏み荒らされて瓦礫の山と化した今、この大陸で、この街こそが最大の都市だ。
ほんの十数年前まで、ここが小さな亜人や獣人たちの集落だったと言って、誰が信じるだろうか。
けれど、発展してみえても。
「……っけ」
俺は、恐ろしくなる。
誰かに与えられた何かは、その実、与えられた時と同じように。
あっさり、奪われて終わるんじゃないかって。
「…………ちくしょう」
俺は灯りを手に入れた。
あいつは約束を確かに守った。
この街以外の全てを、地獄に変えて。
あの日のことは、今でも忘れられない。
『撃て』
無慈悲な声に、無慈悲な銃声。
圧倒的で生涯絶対に敵わないと思っていた銀の騎士たちが蹂躙されていく。
冷酷な判断、踏み荒らされる王城。
そして、俺は。
『取り押さえろ』
命令に従って、それを実行する。
伴ったもう一人の動きに淀みは一切ない。
あそこに突入した奴らはみんなあいつの操り人形だった。
あの場で、正気だったのは。
(……ちくしょう)
俺と。
「あなたがどうしようと、私は、決して!」
この、哀れな生贄だけ。
その顔は見ないようにする。
その声も、聞こえないふりをする。
俺の手は、震えていた。
それからの世界の壊れっぷりは、ちょっと痛快なくらいだった。
そう思う俺も、もう狂ってるのかもしれねえ。
―――の暗躍なんて目じゃない地獄が幕を開けて、美しかった街並みを全部ぶっ潰して、人の時代は終わりを迎えた。
そんな光景を。
「…………そうか」
あいつは。
特に、興味もなさそうに眺めていた。
ここは、そんな破滅のなった後の世界。




