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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第七章 エリー x アル

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Eliexal


『最期にもう一度聞くが』

『…………ああ』

『本当にいいのか?その年で身体の全て機械化するとなる相当な無理をすることになる。地獄の苦しみを味わうことになるぞ』

『いいんだ』


 なにも出来なかった。

 その思いだけが、ずっと燻り続けている。

 だから、強い身体を求めた。

 冷たい機械の身体は、俺に暴力へ対抗するための力を与えてくれるはずだから。


『それくらいで丁度いい』


 苦痛は、どれだけあってもいい。

 苦しみが、痛みが、俺の心のこの穴を、忘れさせてくれるから。


『まあ、こっちも裏の稼業だ。金を払って貰えるんなら、どんな事情かは聞かないし、どんな施術でも施すが……。お前さん、長生きできんぞ』


 なんだよ、そんなこと。


『それこそ、望むところだ』


 終わるなら終わるでいい。

 

『俺を殺せるのなら』


 清潔とは無縁のこの場所は。

 きっと俺の終わりに、丁度いい。


『殺してくれよ』

『それは無理な相談だな』


 闇医者は、呆れた気味にこう言った。


『自殺だけは請け負ってねえんだ』

『そうかい、そいつは残念だ』


 そこで、俺の意識は途絶えて。




 ボクの見ている映像は、終わりを迎える。


「ここから先を」


 後には、ノイズって呼ばれていた灰色の砂嵐だけが残滓として残った。


「君に見せる気はないよ」


「……そっか」


 ボクはそっと帽子を深くかぶりなおす。

 痛みだけがボクの胸の内を支配している。


「あれは、本当は、あんな風に使われるためのコードじゃ、無かったんだね」


 始まりは純粋で、狂おしい程の、けれど制御のできない感情が生み出した。

 エリーにとっての幸福を、ただ守るための小さな手。


「「エリーとアルを、繋げるためのプログラム」」

 

「それが、エリクサー」


 エリーはきっと間違えた。

 間違えたから、こんな酷い結末を迎えて、色んな人が色んなものを失った。


「ここから先、アルはどうなるの?」


「きっと君の想像の通りさ」


 エリーの表情が変わる。


「アル自身が感染源となって、この世界に悪意をばら撒き続けるんだ。それが、一番効率よく世界を壊す方法だったから。私はそれを」


 それは、痛みに耐えるような。


「この場所から、ずっと眺め続けるしかなかった」


 自分の罪を、この場所で、いくらでも悔やみ続けて。


「私と、あの扉の先にいる何かは」


 エリーが、続ける。


「自身の生命が途切れた時、アルの身体に繋がっていたことでこの世に留まってしまった魂の残滓だ。私は、こんなになってでもアルと共に居たかったエリーの欠片。そして彼は、もう方向性すら不明な、憎悪の塊として」


 エリーの視線が指し示すのは、扉の向こう側。


「このまま行けば、アルとあの男の魂は混ざり合って、彼でもアルでもない歪に壊れた誰かがこの世界に根を張り、悪意をまき散らすことになるだろう」


 もう、猶予はほとんどない。


「ロッテ、君が」


「バカだね」


 エリーの言葉を遮って。


「ボクにだって」


 ボクは、アルの過去に背を向ける。


「責任の一端はあるんだ」


 アルが一時的にでも自分を取り戻したのは、ボクの世界では『あれ』を使うことが不可能だったから。

 だからその間だけ、あの呪いから逃れられた。


「けど、ボクが」


 この世界でコードの再現法を、創ってしまったから。

 悪夢の再侵攻は、始まった。


「行くよ。聞くべきことは、全部聞けた」


「そうか」


 多分あの光景は、全部知る必要のあることだった。

 悪意の前提。

 知らなかったらきっと、間違えたままだった。


「ありがとう、エリー」


 君に会えて、良かった。


「うん」


 エリーの姿は、徐々に消えつつあった。

 残滓は、あくまで残滓でしかない。

 小さな力の最後の一欠けらまでを、誰かに託すためにここに居てくれた。

 訪れるかも分からない誰かのために、ずっと、待っていてくれたんだ。


「それならここに居た意味は、ちょっとは、あったかな」


 エリーの笑みは、やっぱりちょっと不器用で、嬉しそうってより困り顔みたいに見えるけど。

 それでも、いつかよりはずっと、自然で、人間らしくて。


「アルのこと、解放して見せるよ。約束」


 ボクの誓いを聞くと、とってもずるいことに。


「そっか、君のしてくれる、約束なら」


 凄く奇麗な安堵の笑みだけを最後に見せて。


「安心、できるよ」


 エリーは、消えた。

 彼女がどこへ行くのか、ボクには、分からない。

 きっと、それは、今知るべきことじゃない。


「うん、約束」


 さあ、行こうか。

 手の中の新たな約束一つ、揺るがない勇気に変えて。


「最後の、決闘に」


 ボクは、アルの心の一番奥へと続く扉に手をかけた。



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