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俺は魔王になったりしない  作者: エル
第七章 エリー x アル

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Last recode ⑥


「連絡、とらねえと」


 そう思って、一度取り出した端末を。


『アル、お前は』


「……………………」


 電源も入れずにしまい直したのは。


『今は、エリーの傍にいてやれ』


 おやっさんに言われた、その言葉を思い出したからだ。


「……エリーの顔、見とくか」


 カードキーくらい無くたって、生体認証の方を騙す必要がないんならやりようはある。

 俺は首の裏からケーブルを抜き出して、セキュリティ装置に繋げてシステムに介入する。


「…………」


 ほぼ片手間で、意識もせずにハッキングを行う傍ら。

 その最中で。


「あん?」


 見つけた。


「あの日の、入室記録……」


 入っていないはずの俺の記録と、それから、その間に挟まっている。

 もう、一人分の入退室の記録を。





「お前はあの日」


 片手でヴィルの腕をひねり上げ。


「教授と会っていたはずだ。なのに、それを話そうともしなかった」


 もう片方の手でその頭を乱暴に床に押さえつける。


「答えろよ。あの日、なにがあったのか」


「ち、違う」


「……………」


「確かに、作業中、教授が部屋に入ったのは、確認してる、だが……っぎ!」


 嘘がつきにくいように、腕を引く力を若干強める。

 容赦などしないと、分からせるためでもあった。


「続けろ」


「だが!隠れてやり過ごしたんだ!バレたら、アルに迷惑が掛かると思って、必死に」


「おー、なるほど、ヴィル。そう言う事か」


 腕の力を、一瞬、緩めてやる。


「疑って悪かったよ。俺のためだったんだな。そいつは、実に悪かった」


「あ、ああ、だから、離して」


「なんて、言うとでも本気で思ってんのか」


 力を籠める。

 今度は腕の方ではなく、頭の方にだ。


「ぐ、ぎ!」


「咄嗟にしても嘘が下手が過ぎるぜ、ヴィル。教授が、どれくらい長い間、あの部屋の中にいたのか、覚えてなかったか?」


「あ、ぐ!」


「あの部屋の中で、そんなに長く隠れられるような場所はねえよ。ましてや、あの人が気づかないなんて、ことは、ねえな」


「だけど、本当なんだ!」


「よしよし、なら、それが事実だと仮定して、だ」


 両手がふさがってるんで、少々行儀悪く、ヴィルが床に落としたケーブルを踏みつけにする。


「こいつは、なんだ。お前、今俺に何しようとしてた?ご丁寧に罠まで張って」


「…………」


「だんまりは、あんまいい手段じゃねえな。なんか知ってますって言ってんのと同じだ」


「いや、だが……」


「もう一度言う。知ってること、話せ」


「私は、私は……」


「ヴィル!」


「……………」


 ヴィルは黙り込んで、身体から力を抜いていく。

 観念したのか、ずっと上げようとしていた顔を伏せて、抵抗を、止める。


 終わりだと。

 そんな風に思った。


『だから、お前は甘いってんだ』


 唐突に、脳の最奥で。

 いつも聞かされる小言が、リフレインする。



「…ログ…コー…、起…」



「あ?」


 ヴィルが、ぼそぼそと何かを呟く。


「おい、何言ってんだ」


 聞き取ろうと、するべきか、判断に迷った。


「エリ、クサー」


 押さえつけてるという優位性が、俺から判断力を奪っていた。


 そして、結果的に、それがヴィルに時間を与えた。


「おい、ヴィル!」


 ヴィルの口から呼吸の音が、消える。

 違う。浅く、小さくなっただけだ。あの興奮状態から、呼吸を整えることもなく。

 まるで、世界から音が消えたかのようでさえあった。


「なあ、アル」


 声は、冷静さを取り戻していた。

 その落差は、不気味としか、言いようのない。


「これは、教訓とするよ」


「お前、何を」


 その体が、跳ね起きる。 

 完璧に抑えていたはずの、俺の腕を、力だけで、無理矢理外して。


「な!」


 振り回される腕に吹っ飛ばされて、逆に俺が床に転がされる。

 それはまるで、痛みを感じていないような、無茶な動きだった。


「この代償は払ってもらうぞ」


 ヴィルが、冷酷な嘲笑を俺に向ける。

 これは。


「電子ドラッグか!?」


 前に見たことがある。

 類似の症状を引き起こすのが、強力な電子ドラッグの類だ。

 だが。


「くく、やはり」


 ヴィルは、そんな俺の無知を、嘲笑った。


「発想が貧困だなあアル。そんな、つまらないものじゃないよ」


 そんな言葉だけを残し。

 ヴィルは、背を向けて。


「くそ!」


 そのまま、俺を残して教室から逃走する。

 逃がした。

 端末から、緊急コード付きでおやっさんに連絡を入れる。


『どうした!アル!』


「悪い、おやっさん」


 すぐには、追わない。

 ことは、俺だけで何とかするべき範囲を、超えた。


「うちの大学のヴィルってのが、なんか知ってるらしいけど、逃がした」


『お前、勝手なことすんなってあれほど!』


「説教は後にしてくれ!あいつは多分、電子ドラッグの類を使ってる!」


 証拠取った訳じゃないが、おやっさんに協力求めるには十分な材料だ。 


「周辺に、警戒網を敷いてくれ。見た目の特徴は…………」

 

 俺は、この時。

 全ての中心にエリーがいるだなんて。

 思いもしてなかったんだ。





「はぁはぁ」


 身体が、重い。

 汚い路地裏で、冷たいコンクリートの壁に身を預けてそのままずるずると座り込む。


『この代償は払ってもらうぞ』


 代償、代償というのなら。

 私の支払った代償は、それなりだ。


「っぐ!」


 例のコードを自身に使用して、無理矢理痛みを消し、身体能力のリミッターを外した。

 可能かどうか、また負担がどれだけになるかは分からない、賭けだったが。


「私は、賭けには勝った」


 だが、所詮はその場しのぎだ。

 その場しのぎのために、酷い痛みを背負うこととなった。


「……そうだ」


 身体から今すぐ、この痛みを全て消すことは、可能だ。

 可能だが、それはしなかった。

 痛みは、教訓として身に刻むべきだと思ったからだ。

 なにより。

 あれを自身に使うようなことは、二度としたくない。

 何かが、欠けていくようで。


「自衛の、手段がいる」


 そうだ、間抜けには捕まらない。

 欲しいものを手に入れるだけの手段なら、まだ、この手の中にあるのだから。



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