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六ページ.僕らの場所

更新です。

今回はちょっと時間が少ないので、短めです。

「とりあえず、ここが仕事場だ」

 驚いた。通された作業場らしき場所。大きいとは言えない倉庫。道具が散乱し、油臭い。でも、そんなものはどうでも良かった。

「うわぁ、これ、船?」

「クルーザー、ですか……?」

 夜々と木名瀬さんが見上げる。僕も一緒に見上げる。杠葉君だけは、見向きもしないで舌打ちしていたけど。

「こいつは修理中のもんだ。トヨタ ボーナム28Gっつってな。二〇〇三年ものの中古品だ。まぁ千三百万は下らんがな」

「せ、千三百万……?」

 思わず息をのんだ。僕らの目の前に置かれている船。近くで見たのは初めてのクルーザー。白の二階部分なのか良く分からないけど、操縦席らしいものが見える。

「すごぉぃ。初めて見た。乗って良い?」

 夜々が目をキラキラさせて近づく。

「アホ。こいつは人様のクルーザーだ。オーバーホールで預かってんだよ。勝手に触んじゃねぇ」

 男が夜々の伸ばした手を取って、振り払った。夜々が怯えたように僕の後ろに戻ってきた。悪いことをしたのは夜々なんだろう。でも、そこまで恐かっただろうか?

「おめぇらにゃそっちだ。そっちの修理をしてもらおうか」

 僕らの視線が流れていく。男の指を追って。

「綺麗な船……」

 木名瀬さんが漏らす。その通りだった。

「ヨット?」

 僕らの視線の先にあったのは、一艘のヨット。隣のクルーザーとは比べ物にはならないけれど、こっちも白くて綺麗なヨットだった。

「こいつはYAMAHAの2EXSHだ。セーリングクルーザーでそいつも一千万は下らん」

 圧巻だった。値段は当然だとしても、目の前にクルーザーと呼ばれる船が二艘もある。目の前で見ると大きい。テレビで見たことがあるものとは全然違うように見える。

「お前たちにはそいつの修理をしてもらう。一月で仕上げる。そいつが契約だ」

 男の淡々とした言葉に、僕らは驚きに何も言えない。

「え? あたしたちがこれを直すの?」

「そいつを仕上げねぇと金が入らんからな。つまり、お前らの給料も出ないわけだ」

「無理無理無理。あたし無理。機械音痴だもん」

「あ、あの、わ、私も、です……」

 勢いよく首を振る夜々に比べて、木名瀬さんは控えめに言う。

「おめぇは?」

「え? いえ、無理かと」

 僕にも聞く。どう考えても無理。知識も腕もない。

「てめぇは?」

「見て分かんねぇのかよ」

 つまり僕らは誰も知識の欠片すら持ち合わせては居なかった。それはそうだろう。学生なんだ。普通の。男が頭を掻いた。こちらが不快になるため息を交えて。

「まぁいい。人間どいつもこいつも元は素人だ。出来ることから教えてやる」

 前向きな人だった。態度は柄の悪い男のようでしかないのに。

「ついて来い。てめぇらの部屋を教えてやる」

 男が歩き出す。僕は立ち止まった。

「あ、あの、もしかして、住み込み……なんですか?」

 聞いてしまう。でも、なぜかこの場で驚いてるのは僕だけだった。

「あん? たりめぇだろうが。こっちは時間がねぇんだよ。いちいち家に帰ってる暇があると思うか?」

 そんなことは知らない。僕は無関係じゃないか。と言うよりも杠葉君以外無関係だ。

「各自家に連絡入れとけ。俺が言ってやっても良いがな」

 そのまま男は奥の戸を開けて行った。

「面倒くせぇな……」

 先に杠葉君が続いた。嫌そうにする割には少し安心したように見えたのは僕だけだろうか?

「す、住み込み……そうなんだ……良かった」

 それに続く木名瀬さんは明らかにホッとしていた。倉庫内をキャリーケースを引いていく。良いのか、このままで木名瀬さんは。僕には不思議で仕方が無かった。

「住み込みだって、いっちー。どうする? いっちーと一つ屋根の下だよ?」

「楽しそうだね、夜々。僕は意味が分からないよ」

 楽しそうな夜々。状況が理解出来ない僕は不安でしかない。頭の中で整理しようにも突然の連続に追いつけない。

「いっちー、帰りたいの? やっぱり」

「いや、帰りたいとかそういうのじゃなくてさ……」

「なら良いじゃん。楽しいよ、きっと」

 また夜々が僕の手を取る。全てがあまりに自然にそうなってしまって、どうしても僕にはすぐに受け入れられそうには無かった。

「とにかく、家に連絡しないと。夜々はしないの?」

「え? あー、うん。……するよ。でも後でね」

 笑う夜々。その間と乾いた笑いが意味するものは、僕は知ることは出来ない。人のことなんて、結局誰も分からないんだから。

「さっ、行こっ、いっちー」

 キミは一体誰なんだろうか? 僕は手から伝わる温もりに、ただ引張られるしか、今は混乱する頭に、茫漠と流される身体に考えることしか出来なかった。



ここでお知らせです。


今、とある文学賞に向けて執筆中につき、このサイトに掲載している小説の更新を八月三十日まで停止させて頂きます。


更新再開後は、まず先にこの作品の続きを更新して、「フルキャストイーブン」「sai」など再び更新を再開していきます。順序は未定ですが、暫くの間はご了承下さい。


 ちょっと、現段階では厳しい状況なので。

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