三ページ.僕とあたし
夏はいつだって駆け抜けた。陽炎を呼ぶゴールへ、照り返しの暑さと照りつけの日差しに、かすかな汗の匂いと声援の篭るざらついたトラックを、背中を追っていたあの頃みたいにただその背中を追えるのは僕だけだと信じるために。
「離すべき、なのかな」
気がつけば堤防に座って海を見てた。目の前で海を見てるのに、ここに海があったんだと、今気付いた。今日家からいつの間にか歩いてきてた道の中にありふれてあった。気づかなかったのは見過ごしていただけ。
夏風が海から後ろの山に向かって、僕の耳に何かを囁いていく。いつも聞いてた風の声とは全然違って穏やかな風色で。
「なかったことになんか、出来るのかな?」
手のひらにあった時は、それが当たり前すぎて忘れてた。指の合間から零れ落ちて、崩れ落ちて、すり抜けて、なくなった時に初めて、それがあまりにもかけがえなくて、大切なものだと思い知るんだ。言葉は理解していたのに、体感してなかった。誰であっても、どんなものであっても、そうなった以上はどうしようもないほどに、僕も打ちひしがれた。泣いた。涙が枯れて泣けなくなるくらいに泣いて、後悔して、何も出来ない。だから僕は止まった。朝陽がいない世界に、僕の理由はないから。
鮮やかな向日葵の果ての姿が、泥にまみれて朽ちる姿を、初めて悲しいと感じた。
「向日葵は、どうしてって思うのかな?」
咲き続けちゃいけないのかって。枯れなくちゃいけないのかを花は考えるのかな? 僕だけなのかな? 朝陽がそうだったみたいに。
終わりが決められた出会いには、意味ってあるのかな? 別れが約束された出会いの中で、僕に彼女を、僕と彼女が僕らでいられたほんのひとときには、何が残ったんだろう。何を残せてあげたんだろう。空耳みたいに聞こえてきた言葉が、胸の中を抉って強い不快感だけを残していく。全部が終わったあの日から、僕はどこかにいる。それでも朝が来る。僕は迎えてしまう。もう手遅れで取り戻すことなんか出来ないのに、朝は来てしまう。その度に、僕はあの日々が遠くなっていくことに何も出来ない。
「どうして、まだ僕は生きてるんだろう―――」
もう全てが終わったのに、僕はまだ生きている。毎日にしがみついてる。全部が終わった中で、僕だけはまだここにいる。初めて名前を呼ばれてから、あの日まで僕は夢を見ていたのかもと現実に掴めるはずのない空気に手を伸ばす。潮風香を含んだ大気が全身に入るのに、触れない。壁もないのに僕の手は届かない。苦しくて海が見れなくなるくらいに全部がどうでも良くなってきた。もう僕の生きる意味も、その原動力も、始まりと終わりもない世界で、僕はどうしてここにいてしまうんだろう。
開いた携帯のアドレスの登録番号の一番を見ていると、それはきっと衝動的だったのかもしれない。
僕は携帯を握り締めた腕を宝石箱のように輝く海に向かって空へ掲げた。
「そうだよね、どうしてなんだろね?」
「え? ……っ!」
―――あたしたちってさ、これがなくなったらどうするんだろうね?
同じ声、同じ話口、同じ見方。終わったはずの時が、大きく脈動したみたいに目の前が、見上げた瞬間に真白に夏の日差しに焼かれた。そして掴まれる、夏の暑さにも負けない手のひらの感触。
「だめだよ。携帯のポイ捨ては。海が汚れちゃうでしょ」
「・・・・・・」
白い中に黒い影が、ウサギが遊戯に野原を跳ねるように空から僕を見ていた。いつかどこかで気がつけば見つけてた、そんな姿で、僕を笑った。
「知ってる? 携帯はね、都会の鉱山って言うくらいにレアメタルとか金とかすっごい高い部品で作られてるの。そんなの捨てるなら、お店に引き取ってもらう方が、地球にも優しいんだよ」
潮の中に花の匂いが右肩から舞い上がった。チカチカと緑だったり赤だったり視界が歪む中で、僕に向かって笑いと心配が降ってくる。
「いや、別にそういうつもりじゃ……」
「捨てようとしたよね? 自分の代わりに死んでくれって顔してさ」
太陽に守られているようなまばゆい視線の中に映る女の子は、強引で、僕よりも物を知っているような口調で、僕の手を押さえて、僕が内心で隠そうとしていたことを当たり前のように引き出して、認めさせようとした。
「こぉんな気持ちの良い日に、どうしてお兄さんは絶望な顔してるのかな? 携帯を捨てようとするなんて相当じゃない?」
心臓が強く締め付けられから開放されたみたいに、大きく広がった気がした。
「あ、いきなりでびっくりしたよね? ごめんね。でも、ダメだよ。自分を失くそうとかしちゃ。もちろん、ごみのポイ捨ても」
―――いきなりごめんね。でも何か今にも消えたいって顔してたから。
あの時と同じだった。終わりがあるなんて知らない出会いの始まりと一緒過ぎて、僕は首から上だけを動かすことしか出来なかった。
「えっと、そんなに見つめられると照れちゃうんだけど・・・・・・?」
「ご、ごめん」
認めたくないのに、そんな照れた表情も認めざるをえないくらいにあの時と同じだった。本当に似てる。誰かも知らない今も、正夢みたいに。
「えっと、君は・・・・・・?」
「え? あ、ごめんごめん。あたし、姫柊夜々(やや)ってゆうの。よるよるって書くのね。名前も女の子には変だけど、響きは気に入ってるの。だから夜々って呼んで。ってかさぁ、海に携帯投げようとするなんてテレビ以外で初めてだよ、あたし」
「……だろうね。僕もだよ」
いきなりなのに、その鬱陶しさというか、強引さを含みながらもその笑みに名前しか頭に響いてこない。これは二度目だからかな? 耳に入る音に抵抗がまるでない。いきなり呼び捨てを求めてくるところとか、初対面の僕に対するずうずうしさとか同じすぎて、今を理解出来ないくらいに、僕は驚いてた。
「でさ、お兄さんは?」
「え?」
「な・ま・え。人に自己紹介させておいて名無しの権兵衛はないでしょ? それとも戸籍もない隠し子とかそう言う設定?」
「設定って・・・・・・」
聞いた覚えもなければ、誰なのかも知らないのに、その強引さに僕はきっとあの日を思い出すようにただ呑まれるしかなかったのかもしれない。
「ん? 言ってくれれば良いのに」
偶々なのか、座ってた堤防に転がってた軽石を掴む。大きさの割りに中身の無い軽さは想像と違って、持ち上げた手が予想以上に大きく持ち上がった。見た目だけで空回りする力に、今の僕には何もないんだと軽石を握りつぶしそうな力を込めたのに、手のひらが痛くなって凸凹した軽石の後が付くだけだった。
―――やまなし、いつき、とか?
月見里乙樹と書きながら、あの日が甦る。きっと僕の人生の中で、この名前を分かってくれる人はいないから。書き慣れた自分の名前を見下ろすと、やっぱり変だった。
「やまなし、いつき、とか?」
名前を書き終えて顔を上げようとした瞬間、全身に鳥肌が立った。僕と夜々の間に書いた、僕の名前。彷彿した過去が夜々に投影されて、あの日が完全にそこにあった。聞こえた声に含まれる言語は、思い出していた記憶の無声映画に、読み語りをする活動写真弁士のような新鮮味と古い映画をリメイクしたような既視感で僕を支配した。
「どうして・・・・・・?」
僕の名前を一発で分かったの? 今まで親族以外でたった一人しかいなかった、僕の名前を呼べた人。なのに、俺の隣で僕の指を追った彼女の目は、少しだけ自身なさそうだったのに、その小さな口は二人目を僕の中に刻んだ。どうせ分からないとか何をしてるんだと自嘲する僕の頭の中はまた白く、濃く、その真実に消えた。
「当たった? やはっ。実はさ、月見里って前にテレビで見たことあったんだよ。鷹がいない空を小鳥が自由に遊ぶから小鳥遊みたいに、月が綺麗に見えるくらいに山がなくて空が広い里だから、月見里ってやつでしょ? 名前はおつきかいつきで悩んだけど、おつきって感じじゃないもん、お兄さん。まぁあたし、テレビっ子だから、さっきのことも受け売りなんだけど」
二の腕を軽く叩かれる。あの時と違うのは、朝陽ははにかんだ。でも夜々は笑って自慢気に僕を叩いた。テレビでやってたんだよと受け売りと隠すことなく笑いながら。
「でも、月見里で乙樹って、お月見って感じだね」
「それはもう何度も言われてる」
その洗礼はもう効力が無い。でも、夜々の口調に仕草、向日葵のような明るい雰囲気は、あの日のことばかりに沈み、景色すら楽しんでなかった僕に、その余裕を運んでくれた。少しだけそう感じれた気がした。
「そっか。じゃあ、いっちーだね。いっつーって何か似合わないし、いっちーで良いよね?」
隣にいるから左手を出せば良いのに、わざわざ右手を体を曲げてまで僕に差し出してきた。少しだけ強調された胸部に勝手に視線がいってしまう。そのあまりに唐突な申し出の意味を解すことも忘れたくらいに、いろんな意味で混乱と動揺していた。
「あたしのことは、やーちゃんって呼んで」
「いや、それは・・・・・・」
恥ずかしいし、女の子をそんな風に呼んだことなんか無いから、困る。
「えー。じゃ、夜々でも良いよ?」
混乱と高揚が入り混じる落ち着かない空気に、俺の答えを待つようにニコニコと笑顔を浮かべ続ける夜々には、どうしてか苦笑しか出てこなかった。
「……夜々」
あだ名よりは、名前の方がすんなりと口から零れた。
「やっと笑えたね、いっちー。でも、苦笑はちょっといただけないね。ちゃんと笑ってくれた方がやーちゃんは嬉しいのですよ? と言うか、いっちーってば何か女の子を呼び捨てにするの、慣れてない?」
僕を見てはにかんだかと思うと、今度は訝しげに上目遣いをしてくる。こういう鋭さまでも似ていると、どうしても錯覚を起こしてしまう。
「ま、いっちーモテそうだもんね。呼び慣れててもおかしくないっか」
僕が今の問いかけに苦笑しか出来ないのに、それでもどこかおかしそうに笑ってた。僕はただ、あの日を彷彿させるその笑顔と強引さに、どうすることも出来なくて、ただ愛想笑いを浮かべるしか出来なかった。感じていた驚きと恐怖のような困惑が顔に出ないように抑えていると。
世界は一人。その一人が連なってた。糸は赤くも白くも青くもない。でもその糸はちゃんとあたしの前にもいくつも繋がってた。運命の赤い糸はない。でもその糸を何色かと思うのは人の自由。繋がることはあたしにとって、何よりも大事。亡くした今は強くそう思う。伸ばした手を受け取ってくれる手が霧を掴むみたいにもうなくて、あたしの手はどこにも繋がらない。温かい温もりが欲しい。欲しくてたまらない。
「帰りたくないな」
いつもどんな時でも、あたしの傍にいてくれるのは、もうあたしの影だけ。ずっと傍にいてくれるけど、あたしが求めるのは影じゃない。糸。影に糸を結ぶことは出来ない。結びたくないものに結ばれるのも嫌。小波の音色の中にあたしの軽やかな靴音がついてくる。たった一組だけの靴音がこんなにも淋しいものなんて、心が壊れそうになるだけ。
「帰りたいよ、お父さん、お母さん・・・・・・」
家族も友達もみんないなくなっちゃった。誰も知らなくて、家の中にも居場所が無くて、物として扱われて、あたしに居ても良い場所なんか全部なくなった。寂しいよ、やっぱり。あたしも連れて行って欲しかった。
「ダメダメ。落ち込んだら何も出来なくなっちゃう」
ただでさえ何も出来ないのに、誰も助けてなんかくれないもん。だったらあたしがあたしでいないと、あたしもいられなくなる。
「どうして、まだ僕は生きてるんだろう―――」
軽快な靴音を止まった。凄く小さな声だったのに、あたしの歩く右側の堤防に男の子がいた。彼の言葉があたしを責めるみたいに全身に絡みついた。胸の中がすごく痛かった。どうしてあたしはまだ生きてるんだろう? 初めて疑問があたしに浮かんだ。でも、その彼はあたし以上に沈んでて、折角海が光ってるのに、それを見ようとさえしてない。そして、男の子のては大きく海に向かって大事なものを失わせようとしてるみたいで、いけないとふっと思った。
あたしは直感を信じる。この人はあたしよりも繋がりが無いんだって。
「信じて、良いのかな・・・・・・?」
あたしの声なんか聞こえてない男の子は、深いため息を自分に吹きかけるみたいにうつむいてた。あたしよりも不幸な人がいる。そんな直感と一緒に、あたしは足に少しだけ力を入れて、堤防に飛んだ。ほんの少しだけ勇気を出そう。あたしよりも心が壊れている人がいるんだもん。あたしよりも弱い人がいる。それだけが今のあたしの原動力になる。そう思えた。
「そうだよね、どうしてだろうね?」
きっと同じだから。ううん、きっとあたしよりも、だから。
どこにもあたしを認めてくれるものがない中で見つけた、たった一人の糸を持つ人。あたしは夜々。繰り返される夜を恐れないで、朝を迎えることが出来るの強い女の子になる願いを受けて、今ここにいる。だから、笑おっ。あたしに出来るのはそこから始まる糸を見つけることだけだから。
「あの、それで君は・・・・・・?」
いきなり現れていきなり強引に関係を築かれた。一体何の用で何が目的なのか、悪人のようではないにしろ、いきなりのことでどうするべきなのか対応が纏まらない。
「あたしと友達にならない、かな? いっちーってこの辺りの人?」
二つの問いかけに、一体僕に関して何が共通しているんだろう。
「いや、家は離れてるんだ」
ここに来た理由。ここに座っている理由。ここで考えていた理由。それは夜々には関係のないこと。わざわざ人に聞いてもらうようなことでもない。そう、ここはただの記憶にあった過ぎ去っただけの場所。
「そうだよね。あたしも見たことないもん」
それなのに、僕は今、ここにいる。小波と白波が太陽に輝いている中を堤防から見つめている。どうしてここを選んだのか、今になって考えた。
「じゃあ、君はこの辺りに?」
「夜々って呼んでよぉ。やーちゃんの方が嬉しいんだけど」
熱気に絆されたのか、隣に座って頬を軽く膨らませて僕を睨む夜々に顔が熱い。被ってくる。どこか悪戯で、でも本当にそう思っているような、なかなか判断がはっきりしない膨れ顔。睫毛が長くて、少しだけ縦皺の入った乾いた小さな唇。目の前にあるのにその全てが恥ずかしさと戸惑いでまともに見ることが出来ない。
「じゃ、じゃあ、夜々」
「うん。いっちー」
頷いて笑顔で微笑まれる。状況がまるで分からない。どうして僕は子のことここに座って海を見て、臀部が熱くなってきて、潮風が手のひらにかすかなざらつきを運んでくるんだろうと、夜々の笑顔に視線を合わせられない。夜々って子自身に対することじゃない。被るんじゃない。
「あたしね、あそこに小屋が見えるでしょ?」
さっき僕に差し出して握手を求めてきた手で、何か甘い匂いが普通に吸い込んだ呼吸の中に感じられるように身を乗り出して、僕の左側の道の先を指差した。
「あそこをもっちっと行った所なの」
「そうなんだ」
「そうなの」
僕は何を求められたんだろう? そして僕は何を応えれば良いんだろう。
「いっちーはどうしてこんな所にいるの? 携帯捨てる為じゃないよね?」
僕が考えている間にも夜々は言葉を上乗せしてくるから、考える答えを次々に改めないといけなくて、少し大変だった。
「……そんなことするつもりはなかったって。この辺りは、よく走ってたんだ」
もう一年近く昔までのことだけど。それだけのことなのに、僕はここを選んだ。自分でも理由なんか分からないのに。
「だから、僕はここに来たのか?」
どうしてここに来たのか。それは単に僕がここに恋しさを覚えたんじゃなくて、探しに来たのかもしれない。この場所からいつも僕らは走ることを始めたスタートラインでもあったから。だから夜々が僕の前に現れた時にそう思った。
「ん? どういうこと?」
夜々が僕の顔を覗き込んでくる。そんな仕草も思い出してしまうくらいに夜々は似ている。でも、言えなかった。言ってはいけないと思ったから。
「何でもないよ。それより、そろそろ行くよ」
何を縋ろうとしてるんだ、僕は。もう終わって、もう何も残ってないのに。揺らいだ心を夜々に知られたくなくて、僕は帰ろうと熱くなった臀部の砂を払いながら立ち上がった。
「ま、待っていっちー」
堤防からアスファルトに飛び降りようとして、夜々が僕のズボンを掴んだ。バランスが取れなくなって、こけそうになって危なくも降りた。
「あ、ごめん、大丈夫?」
「……何とか。どうかしたの?」
申し訳なさそうに謝ってから、僕を見てくる。心臓が思わぬ恐怖にドキドキと早く脈打ってた。ありえないことだと油断していたみたいに、情けなかった。さっき僕はどうしようとしていた? 夜々が僕をどうだと思った? なのに僕は恐怖を感じて心臓が脈打った。笑いたくなった、自分に。
「もう、ここには来ないの?」
帰ろうと決めた。だから僕はここには来ない。もう僕がここに来る理由がないから。何も見つけられなかった。朝陽と走ったアスファルトには、今はもう何も残ってない。それだけ僕は何も見ていなかった。呼吸量に歩幅、速度に筋肉の使い方。ここに在ったのは朝陽との足取りの中で考えていた僕のことばかり。海が綺麗だとか風が気持ち良いと教えてくれた朝陽のことは、ここには残ってない。だから僕はそれを感じようとした。でも、やっぱりダメだった。朝陽の感じたことを、僕は感じ取れなかった。僕に出来たのは、その背中をただ追いかけるだけだった。
「たぶん。もう、用はないから」
これ以上ここにいても、ただまた泣きたくなるだけ。そんな姿は誰にも見られたくなかった。
「あ、あのさ、帰る前にちょっとだけ付き合って」
夜々が僕の隣にジャンプした。ボブヘアーがさらりと揺れて、僕の視線を呼んだ。そっくりだと思っていたけど、違った。夜々はストレートを括っていた。長くて綺麗な髪を走ることに関しては邪魔なのに、願掛けだと伸ばし続けてた。でも夜々は快活な女の子を思わせるボブでそこだけはやっぱり違うんだと思わされる。
「ねっ? 良いでしょ? まだこんなに明るいんだし、帰るなんて早いよ」
僕の意見を無視して、夜々が僕の手を少し乱暴に掴んで、僕が帰ろうと向いた方向とは真逆に引っ張る。違うと分かっているのに、逆らえなかった。その夜々の手の温かさが、この夏空に負けないくらいに温かかった。
「ほらほら、あたしが案内してあげるから、行こっ、いっちー」