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 しばらく、だれも口をひらきませんでした。


 ややあって、ハルシラズが、そっとふゆの女王に語りかけます。


 「ありがとう。きみが、ぼくのためにこの塔から出ないでいること、うすうす気がついてはいたんだ。ありがとう。もう、じゅうぶんだよ」


 しずかに、たたみかけるように、ハルシラズはつづけました。


 「いつまでもそうしているわけにもいかないだろう。それに、はるが来なくても、ぼくはもう遠からずねむることになる。きみも気がついていたと思うけれど、日に日に、ぼくが起きている時間は短くなっていただろう?はるがはやく来て気温が早く上がったら、確かに眠りに入るのも早くなるけれど、遅くなったからといってずっと起きていられるわけではない。ぼくが眠りにはいることは、わるいことでもなんでもない、とうぜんそうあるべき、自然の摂理なんだ」


 「でも――でも」


 いやいやをするようにくびを振る女王をなだめるように、ハルシラズははなしつづけます。


 「それに、きみは、さいしょにきみの季節を好きだと言ったのがぼくだから、ぼくだけしかいないように思うのだろうけれど、きみの季節を好きないきものは、きっといっぱいいるよ。きみが知らないだけだ」


 「そんなことない。それに、もしそんなものがいたとしたって、この塔にくることはないのだから、わたしには知りようがないし、いないのといっしょよ。あなた以外のだれが、塔まできてふゆをすきだといってくれるの?」


 「わたしがいるよ!」


 チサトはおもわず口をはさんでいました。ハルシラズと、彼のために塔にのこることにした女王。チサトは部外者かもしれません。けれども、言わずにはおれませんでした。


 「わたしがいるよ!わたしも、ハルシラズと一緒。ふゆが必要だし、ふゆが大好きだよ」


 「うそをおっしゃい。あなたみたいなふつうの人間の子どもが、なぜふゆが好きだといえるの?たとえほんとうでも、はるより、なつより、あきより好きだと言える?」


 「いえるよ。わたしは、炎の魔女だから。炎の魔女がいちばん人々の役に立てるのは、ふゆの季節だから」


 それは本当のことでした。あつい炎が役に立つのは、あたたかい春やあつい夏ではなく、人々が寒さにふるえているふゆなのです。


 「それに、雪のなかでは、自由に魔法を使えるから」


 炎の魔法はべんりな反面、暴走するととてもきけんな魔法です。ふつうの場所では、チサトは魔法を暴走させないように、いつもとても気をつけて魔法をつかっているのでした。けれど雪のなかでは、多少好き勝手に魔法を使っても、雪が炎をおさえてくれます。チサトが王都の雪にはしゃいだのは、景色のきれいだったのもあるけれど、そうした理由もあったのでした。


 「あなたがうそを言っていないことはわかったわ。でも、それでも。ハルシラズはわたしにとってやっぱり特別だし、はなれてしまうのは――つらいから」


 目を伏せて、女王はなおもゆずりません。


 「なら、来年、また遊べばいいじゃない」


 「――え?」


 目をしばたたかせる女王に、チサトはつづけて言いました。


 「らいねんの冬、ハルシラズが眠りからさめたら、またいっしょにあそべばいいじゃない。ねえ、そうしよう?わたしも、ふだんは王都からはなれた村に住んでいるんだけど、らいねんの春には、パパに連れてきてもらって、またここに来るから。3人で、来年、いろいろあそぼうよ」


 「でも」


 「いいね。よい考えだよ」


 反論しかけた女王をさえぎるように、ハルシラズがチサトに同意します。かれは、ひどくやさしい、あたたかいほほえみをうかべて、チサトと女王を見つめました。


 「来年、目がさめたら、ぼくは必ずここにもどってくると約束するよ。――もし、眠りがながすぎて、きみのことを忘れてしまったとしても、きっと、必ず、きみのことを思いだして、ここにもどってくるから」


 ハルシラズは、力づよい表情でうなずいてみせます。


 「だから、いまは塔をでよう?約束するよ。かならず、きっと、ここにもどってくることを。ねむりがどれだけながくなってしまっても、かならず、ぼくはもどってくる。そうしたら、チサトも入れて、こんどは3人で、きっとあそぼう」


 女王は、じっとハルシラズをみつめていましたが、やがて、ぽつりといいました。


 「わかった。塔をでるわ。あなたが、そう言うのならば」

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