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 すべりおりた先は、広間のような、中庭のようなふしぎな空間でした。


 そこは、こおりついてはいるものの、おごそかふんいきの石のかべにかこまれ、たしかに塔の内部だとわかる造りです。ところが、広間のまんなかに、まるで中庭であるかのように、大きな池があるのでした。


 「なんだここは。って、あれっ?人がいる!」


 池のほとりに、白いひとかげが見えます。近づいてみると、それは、まっ白なドレスに身をつつんだ、チサトといくらも変わらない年若い少女でした。


 「こんにちは」


 チサトが声をかけると、少女はおどろいたようにふりかえります。


 「こんにちは。あなたはだれ?」


 「わたしはチサト。炎の魔女だよ。あなたは?」


 チサトは名乗り、たずねかえします。


 「わたしはふゆの女王よ」


 少女のこたえに、チサトはおどろきました。


 「ええっ、あなたが!?――ふゆの女王って、もっと年寄りのおとななんだと思ってた」


 チサトのことばに、少女が笑います。と、そのとき、少女のドレスのかげに隠れるように、ちいさな黒いいきものが顔を出しているのにチサトは気がつきました。


 「ねえ、あなたのかげの」


 「なあに?」


 「あなたのドレスのかげにいる、そのいきもの――」


 言いかけて、チサトは、そのいきものにどこかみおぼえがあることに気がつきます。あれはいったい、どこだったでしょうか――。


 「ハルシラズ!」

 

 出しぬけに、思いだしてチサトはさけびました。そうです、あれはパパが買ってくれた図鑑に出てきた春をしらないいきもの、ハルシラズにちがいありません。


 「ぼくの種族を知ってるんだね」


 ハルシラズは、黒い、理知的なひとみをチサトに向けました。


 「知ってるよ。はるになったら眠りに入ってしまうからハルシラズっていうんでしょう?冬しか起きていないって、お寝坊さんだよね」


 「眠りに入る、か。そうだね。ぼくらはそういう種族だよ。よく知っているね」


 「それより、あんた、しゃべれるの?っていうか、なんで、ハルシラズがこの塔にいるの?ハルシラズって、塔にすむいきものだったっけ?」


 「しゃべれるよ、きみたちと同じようにね。塔にすむいきものかっていうことについては、一般的にはちがうかな。ぼくらの種族はふつうは海のそばの森にすむんだ。王都はうみからはなれているから、ふつうはこの塔にはすまないものだけれど――いろいろあってここに迷いこんで、ぼくはここにすんでいるんだ」


 ほほえみながら、ハルシラズはこたえ、こんどはチサトに水をむけました。


 「きみは?どうしてこの塔にきたんだい?」


 「そうだった!わすれるところだった。わたしはふゆの女王さまに、はるの女王さまと交替してもらうためにここに来たんだ。――ふゆの女王さま、ふゆの期間はもう終わりだから、もう交替しないといけない時期なんだよ。はるの女王さまと交替してくれる?」


 チサトはふゆの女王にたずねました。チサトと年れいも近くみえる、やさしそうな少女です。はるの女王と交替できなかったのは、きっと、ふゆの期間が終わったことに気がついていなかったとか、そのような理由なのでしょう。思いもかけずかんたんに任務がおわりそうで、チサトがほっとしかけた、そのとき。


 「いいえ」


 ふゆの女王は、こわばった顔でチサトを見すえてこたえました。

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