三
「きみがチサトかい?ヒロトから話はきいているよ」
パパの「知り合いの関係の方」はまっすぐにチサトを見つめて話しかけました。
「そうだよ。チサトだよ。あなたはだれ?」
チサトも、相手をまっすぐに見つめてたずねます。
「わたしは王様だよ。この国の王で、この王宮のあるじだよ」
えがおで、相手はそう答えました。
「ええっ、王さま!?全然そう見えない。ほんとうのほんとうに王さまなの?」
チサトはおどろいてききかえしました。目のまえに立っている相手は、確かに質のよさそうな服を着ているけれども、チサトが王さまと聞いてイメージするような、宝石でかざられたきらびやかなものではなく、パパがお仕事で着るのとあまり変わらない、ふつうの服そうをしています。
相手そのものにしても、何か特別なふんいきがあるといったようなことはなく、どこにでもいそうな人のよいおじさんに見えます。
「ていうか、パパの知り合いって王さまだったの!?だったら先に言ってよ!こころのじゅんびってものがあるんだから。」
チサトの反応に、大人たちはおかしそうに笑いだしました。ひどい、とチサトはほおをふくらませて抗議します。あわてて申し訳なさそうな表情を作りながら、「王さま」がチサトの疑問に答えてくれました。
「申し訳ない。わたしはたしかに王さまだよ。威厳が足りないとはよくまわりにもしかられているところだけれどね。事前に言わなかったことについてはヒロトを責めないでくれ。この部屋の外では言わないように、わたしが頼んだんだ」
王さまは、真摯なひとみで、チサトに語りかけました。
「チサトは、ここに来るまでの道すじで、王都の景色を見たかな。一面の雪景色だったろう?これはね、とても異常なことなんだ。いつもなら、この時期には、とっくに春が来ていないといけない。なのに、今年は、今になってもずっと冬のままなんだ。なぜか――いや、理由は分かっているんだ」
「理由?」
「そうだ。この王宮の奥に、季節の塔とよばれる塔があるんだ。王都でもひときわ目立つ建物だから、チサトもここに来る途中で目にしたかもしれないね。この季節の塔には、持ち主が4人いてね。春、夏、秋、冬のそれぞれの季節を司る、4人の女王がその持ち主なんだ。彼らは四半年ごとに交代で、1人ずつ順番に季節の塔に住むんだ。そして、それによって季節はうつりかわっていくんだよ」
「そんな仕組みになっていたんだ。知らなかった……」
「うん、でも、今年にかぎって、ほんらいの冬の期間が終わっても、冬の女王が塔からいっこうに出てこないんだ。はるの女王が何度かふゆの女王をたずねたみたいなんだけどね、門前払いをくらってしまったようなんだ。そうすると、はるの女王にもどうすることもできない。そこで、きみの出番だ」
「出番?」
「そうだよ、チサト。塔には小さなとびらがあるが、小さすぎて大人は入れない。もともと、きせつの女王たちが子どもたちをきまぐれに招くために作られたとびらだからね。ほかにとびらはなく、とびらをとおる以外の方法で塔に入るこころみも、ことごとく失敗してしまった」
王さまはうつむき、にがい笑みを浮かべていいました。
「じつは、もうずいぶんまえから、おふれを出して、ふゆの女王をはるの女王と交替させることができたものには、何でもすきなほうびを取らせると言ってまわっているんだ。おふれを受けて、たくさんの人が、女王に会いに塔に向かったのだけれど、だれも塔のなかに入ることができなくてね。子どもたちなら、とびらから入ることができるはずだが、塔の周辺はふゆの女王の領域、あまりのさむさに近づくことすらできなくてね。でも、きみならちがう」
王さまは、ふたたびまっすぐにチサトをみすえます。
「きみは、ほのおの魔女なんだときいたよ。からだはちいさいけれど、たしかな実力をもつ魔女なんだってね。あたたかいけれど燃えない、やけどしないふしぎなほのおを作りだして、暖房がわりにしているのだときいたよ。そんなきみの力をもってすれば、きっと、塔のなかに入るのはむずかしくないはずだ」
「つまり、わたしは塔にいってふゆの女王にきせつの塔から出るよう説得すればいいってこと?」
チサトはにっこりわらって言いました。
「いいよ。わたしにしかできないんでしょ?ひきうけるよ」